第25話 ルールは守ろう


 ───────────────

 白波 冬乃

 レベル:81

 HP(体力) :209/209

 SV(技能値):180


 スキルスロット(1)

 ・[獣人化(狐)]

 →派生スキルⅠ:[狐火]

 →派生スキルⅡ:[幻惑]

 →派生スキルⅢ:[獣化]

 →派生スキルⅣ:[複尾]

 →派生スキルⅤ:[天気雨]

 →派生スキルⅥ:[変化]

 ───────────────

 

 冬乃に見せてもらったステータスには確かに[変化]のスキルが増えていたけど、あまり強そうなスキルではないのにとても嬉しそうにしてるな。


『[変化]って何に変化出来るんですか?』

『基本的には2種類ね。“人”か“狐”のどちらかになれるらしいわ』

『今も“人”じゃないか』

『そうじゃないわ。今は狐耳と尻尾が生えてるけど、それが完全に無くなるのよ。この耳と尻尾のせいで飲食店のアルバイトをクビになったし、今までずっと変な目で見られてたけど、今後はそんな目に遭わなくて済みそうだわ』


 アルバイトはともかく、見られるのは仕方ないね。

 冬乃の狐耳と尻尾は目立つから。真っ白だから余計に。


『冬乃ちゃん、それじゃあ“狐”に変化ってどういう事?』

『[獣化]スキルの場合だと、獣よりの人型って感じになるじゃない? あれとは違って、完全に動物の狐の姿になれるみたいよ』

『試してはいないんですか?』

『まだ冒険者組合に報告していないから一応ね。乙種か丙種判定になるだろうけど、判定をもらってないのにダンジョンの外で使う訳にはいかないわ』

『少しスキルを使う程度ならバレないと思うけどね』

『ダメよ。気にしすぎでしょうけど、万が一不測の事態が起きて元に戻れなかったりしたら、スキルの使用がバレてしまうもの』


 [変化]のスキルの説明を聞く限り、本人の言う通り気にしすぎだとは思うけど、ルールは守っておいた方がいいか。

 そうじゃないと――


「くそぅ。たった15分程度遅れただけなのに……」


 あんな風にルールを破った結果、盛大に落ち込む事になるのだから。


 大樹が肩を落として廊下を歩いているけど、その理由は明白だね。

 昨日門限に間に合わなかったせいで、今日はダンジョンに潜れないんだろう。


 落ち込んでる様子の大樹を見送りながら、僕は早く放課後にならないかと思っていた。


 ◆


「あ~今日もダンジョンに行けるとか羨ましいぜ~」

「絡むな絡むな」


 ダンジョンに行こうとした僕らに偶然出くわした大樹が、面倒くさい感じに絡んできたよ。

 でも丁度良かったから、僕はみんなに先に冒険者組合の建物でダンジョンに入る前の準備をしてもらうために先に行ってもらって、僕は大樹と少し話をする事にした。


「ダンジョンに行けないなら、その時間を利用して図書館でダンジョンに関する事調べればいいじゃん」

「そうなんだが、明日も行こうって思ってたのに行けなくなっちまうと、何で行けないんだよーって思っちまうんだよ」

「門限破ったからじゃん」

「そうなんだがな……」

「うだうだ言ってても行けない事に変わらないんだから、諦めなー」


 はぁ、っとため息をついて大樹が図書館の方へと向かおうとしたので、僕は大樹の肩を掴んで呼び止める。


「大樹待って」

「ん、どうした?」


 クルリと振り返ってくれた大樹に、昨日ダンジョンで得たであろうドロップアイテムについて尋ねてみた。


「ああ、魔石以外にも魔道具らしき物がドロップアイテムとして1個だけ出てきたな」

「えっ、それは羨ましい、じゃなくて、他に小石みたいなのもなかった?」

「あー、あのゴミな」


 大樹が少し顔をしかめて残念そうな声で言うので、僕は大樹があれを拾ってしまった事を悟った。


「あの石の事知ってたんだ」

「今授業を受けてる教室のやつに教えてもらったんだよ。昨日それなりに拾ったのにまさかゴミだったなんてな~」


 おっ、これはチャンスかな?


「ねぇ大樹。その石まだ持ってたりする?」

「ああ。次にダンジョンに行った時にでも捨てようかと思ってたが、それがどうかしたか?」

「もし良かったら1個100円で売って欲しいんだけど」

「はあ? あのゴミをか?」


 ゴミだって言われてる物を金出して買うとか、そりゃおかしな者を見る目になるよね。


「別に要らねえからタダでやるぞ?」

「それは嬉しいんだけど、出来れば他の人からも拾ってたら買おうと思ってるから、大樹からだけタダで貰うのもね」

「いや、どんだけ欲しいんだよ。あのただの石を」

「とりあえず4997個」

「数字が妙に具体的だな」


 大樹が呆れた表情をしているけれど、理由も聞かずにすぐに頷いてくれた。


「まあいいぜ。他の教室の奴にも買取する事を伝えといてやるよ」

「さすが大樹。助かるよ」

「で、理由は?」

「先に聞きなよ」


 別に黙ってるつもりはなかったけど、頷く前に聞けばいいのに。


「実はその石なんだけど、僕のスキルと勝手に反応してさ――」


 僕は事情を説明しながらスキルのスマホを出現させ、[放置農業]を起動し画面に映っている謎の黒い石を見せる。


「なるほどな。蒼汰のスキルでしか真価を発揮できないなら、なおの事構わねえぜ。えっと……、あ、あったあった」


 大樹は身に着けている〔マジックポーチ〕から石を取り出して渡してくれた。


「その辺に捨てなかったんだね」

「なんかゴミのポイ捨てみたいで気分が悪くてな」

「ダンジョンならいいんだ」

「元々ダンジョンから出てきたものだからな」


 独特な感性だけど、石が手に入ったから問題なし。


「6個って、結構拾ったね」

「おう、頑張ったぜ!」

「あんまり無理して怪我でもしたら、元も子もないよ」


 僕は呆れながら、大樹からもらったの石をスマホに近づける。


「大樹、もしかしたら9997個必要だったかもしれない」

「やっぱりか?」


 黒だけだと思ったら、まさか白い石もあると思ってなかったよ。

 もしも黒と白が合わさって4997個ならいいんだけど……。


『妾を集めてくれぬか?』


 画面に映る黒い石の隣には、予想通り小さくて丸い白い石が浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る