第26話 [変化]

 

『我を集めよ』

『妾を集めてくれぬか?』

「黒い石の態度を見ると白い石だけを集めたくなるな」

『我を集めよ! 我を集めよ!』

「必死か」


 決められた文章しか出せないのか、ほぼ同じ文章を繰り返しているけど、こっちの意思は伝わっているのか、黒い石が自分も拾えと言わんばかりに連呼してきたな。


「まあせっかくだから両方集めるけどね」


 そう呟いたら黒い石からの主張が収まったので、この石に意思がある事が確定した。

 ダジャレのつもりはないんだけど、自然とそうなってしまうなー。


「また蒼汰のスキルがおかしな方向に走り出してないか?」

「これは僕のスキルのせいなのかな?」

「何の価値もなかった石に価値が見出されるかもしれないんだから、十分蒼汰のスキルのせいだろ」


 元々石に意思があったのか、それとも僕のスキルが石に意思を持たせたのかは分からないけど、少なくとも集めきったら何が起こるのかは気になるところだ。


 黒い石:5/5000

 白い石:4/5000


 ただ2週間で集めきるのは難しい個数だけど、大樹や他の生徒たちの協力で多分いけるはず。


「冒険者組合の方に石の買い取りをする旨を伝える張り紙でも張らせてもらって、見つけたら持ってきてもらう様にしないと集まり切らないね」

「何が起こるか気にはなるが、1個100円と考えても100万近くもそんなのに使うのかよ」

「今はガチャ出来ないからいいかな~」

「100万は十分大金なんだけどな」


 1年どころか、下手すれば半年ぐらいでガチャに注ぎ込める程度の金額なのに?


「じゃあ寮のやつとか、片っ端から声をかけて持って帰ってきてもらう様に言っておくが、期待するなよ?」

「まあ最悪留学終わった後からでも買い取るし」


 それに校長とかにでも相談すれば、何の価値もなかった石にどんな価値があるのか調べたりしそうだから、意外と何とでもなりそうではあるけど。


 僕は出来れば留学中に集めきれればいいなと思いながら、大樹と別れた後、早足でダンジョンへと向かった。


 ◆


「早速[変化]のスキルを使ってみるわね」


 〔ミミックのダンジョン〕に訪れた僕らは、ある程度人の来ないところまで来た後、すぐに冬乃の新しい派生スキル、[変化]を試してみる事にした。


「ちょっと面白そうなスキルですよね。どんな風に変化するんでしょうか?」

「私からしたら元の姿に戻るだけだと思うけどね。それじゃあまず“人”からいくわよ。[変化]」


 ポンッと軽い音が鳴り、冬乃が白い煙に覆われた。


「どうかしら?」


 煙が晴れていき、そこから現れたのはの狐耳がない冬乃だった。


「おおっ! 凄いね。狐耳が無くなって髪も黒くなってるよ」

「そうですね。でも、狐耳があるのが当たり前だったので、どことなく違和感があります」

「うん。ちょっと寂しい、かな?」

「これが私の本来の姿なんだけど!?」


 冬乃が大きな声で抗議しているけれど、僕らが冬乃の存在を明確に知ったのって、狐耳とかが生えてからだから、乃亜や咲夜の言う通りどうしても違和感を覚えるんだよね。


「全くあんた達は……。それよりもちゃんと[変化]で人間になれてるわよね? 尻尾も見当たらないし、大丈夫よね?」


 冬乃は背後に首を回して尻尾がないか確認しようとしたけれど、尻尾のあった位置を考えると付け根までは見えないから、ちゃんと尻尾が無くなってるのか不安なようだ。


「多分、人間になれてるわね。ほら、蒼汰達も確認してよ」


 そう言って冬乃がクルリと半回転して僕らに背中を――って!?


「ちょ、冬乃先輩!? 早くこちらを向いてください!」

「ふ、冬乃ちゃん。さすがにその姿は問題あると思う、な」

「え、なになに?! 何か問題でもあったの?」


 あーうん。問題と言えば問題ではある。

 僕は視線を逸らして極力見ない様にしながら、先ほど見えてしまったものを思い出してしまう。


 冬乃が[変化]を使う前は狐耳と尻尾があった。

 しかし[変化]を使用した事により狐耳と尻尾が無くなった訳だけど、そうなると今まで尻尾があった部分はどうなるのか、という問題が出てくる。


「冬乃先輩。尻尾のあった部分を触ってみてください」

「えっ? ……~~っ!!」


 声にならない叫びを上げながら、冬乃は顔を真っ赤にしてしゃがんでいた。


 冬乃が言われるがままに触れた箇所には、自身の肌がダイレクトに触れてしまったことだろう。


 冬乃はズボンと下着に尻尾用の穴を空けて履いていたようだけど、尻尾が無ければ当然その箇所は素肌となる。

 尾てい骨部分にズボンと下着に穴が空いていて、その穴は小さかったけれど少し際どい感じでお尻の割れている部分が見えてしまった。


「大丈夫冬乃ちゃん。ちょっと大胆な水着ぐらいな感じでお尻が見えてただけだから」

「全然大丈夫じゃないわよ!」


 涙目になった冬乃の体が再びポンッと音が鳴ったと共に白い煙に覆われ、しばらくして煙が晴れると、元の狐耳姿の冬乃が現れた。


「くぅ、まさかこんな目に遭うだなんて……」

「[変化]のスキルに気を取られて、そこまで頭が回ってなかったもんね」

「まあいいじゃないですか。ここにいるメンバーが見ただけなんですから」

「蒼汰にも見られてて問題ないわけないじゃない!?」

「わたしは少し恥ずかしいですが先輩になら平気です」

「咲夜も蒼汰君なら、いいよ」

「味方がいない……」


 冬乃はしばらく落ち込んだ後、もう一つの“狐”の方の[変化]も見せてくれた。


「うわ~、真っ白で可愛いです!」

「ギュってしたい、ね」

「大きさは普通の狐みたいだね」


 全身が真っ白でフワフワな毛で覆われていて、サイズも腕に収まるくらいの大きさだった。


「こっちの時は服も一緒に消えるのね」

「さっき“人”の時は服はそのままでしたけど、理由は分かりませんね」

「でも、こっちの方がありがたいわ。もしも服がその場に残るのだったら、今私全裸って事になるもの」


 いくら“狐”の姿になっているとはいえ、服を着てない状態で行動するのは確かに嫌だろうね。


「とにかく害はないスキルって報告出来そうだけど、“人”になる時はそれ用の服がいるかと思うと頭が痛いわ」

「それにスキルの効果がどれだけ続くか分かりませんから、下手に“人”用の服を用意しても、どこかに移動してる途中で戻ってしまったら大変な事になりませんか?」

「スカートだったらパンツが見えるだろうし、ズボンなら尻尾が押しつぶされる事になると思う」

「乃亜さんと咲夜さんの言う通りね。ようやく衆目を集める事が無くなると思ったけど、普段は獣人のままでいる事にするわ」


 白い狐がため息を吐いてるシュールな光景を見ながら、僕は世の中思う様にいかないものだとしみじみ思った。

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