7章

プロローグ


≪蒼汰SIDE≫


 夏休みがあっという間に終わり、冒険者学校に行く前と同じように僕らは元の学校に通っていた。


 夏休み明けで久々に会ったクラスメイト達が鬼の形相で迫ってきた時には、今まで出くわした【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】並みの恐怖を感じたよ。

 必死に逃げていたら乃亜達が現れて、前回のようにクラスメイト達をボコボコにしてくれたので事なきを得たけど。


「先輩に手を出すなら容赦しません」

「蒼汰君の敵は咲夜の敵」

「男の嫉妬はみっともないわよ」


 3人に止められたクラスメイト達は悔し涙を流しながら地面を叩き、呪詛じみた言葉を向けてきたんだよな。


「くそぅ。鹿島の奴、この夏で一皮どころじゃないレベルで剥けやがって……」

「ハーレムで夏を満喫とかもうリア充じゃねえ。リア獣じゃねえか」

「ケダモノのような夏を過ごしたとか羨ましすぎるぜ……!」


 そんな事実はないので、即行で反論したら――


「言っとくけど、まだ未経験だから」

「「「……嘘だろ?」」」


 全員に呆れた目で見られたのは記憶に刻まれており、今でもハッキリとその時の表情が思い出せるなぁ。

 その後でサプリとか医者とか勧められたけど、不能じゃないから。


「呆然としているがどうしたのかね? もちろん今すぐに答えて欲しいとは言わないが、できるだけ早めに返答をお願いしたい」


 現実逃避したくて直近のインパクトのある記憶を回想してしまっていたけれど、目の前の人物が容赦なく現実に引き戻してきたよ。


「Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐の参加、検討のほどよろしくお願いする」


 とんでもない話を提示されてしまうことになるのは、夏休みが明けた2週間後のことだった。


 ◆


 僕らは夏休みが明けたために、放課後では近場のダンジョンにしか時間的に行けなくなったので、〔ラミアのダンジョン〕に潜っていた。


「この時間だとあまり深い階層に潜れないせいか、歯ごたえがあまりありませんね」


 乃亜はそう言いながら自身の持つ大楯、〔報復は汝の後難と共にカウンターリベンジ〕を振り回して近づいてくるラミア達を薙ぎ払っていた。

 赤ずきんの服を着て。


「新しく手に入れた【典正装備】を試すのには丁度いいけど、ね」


 咲夜はここ最近ずっと使い続けたお陰で扱いが上達した鞭、〔傷跡のない恍惚なるアンフォゲッタブル痛みペイン〕を振るって乃亜に近づくラミア達を何体か遠ざけていた。

 執事の服を着て。


「そうね。それに深い階層に潜れないって言っても、咲夜さんのお陰で帰りの時間を考えなくていいから、放課後でも前よりは深い場所まで来れてるわよ」


 冬乃は[複尾]で2本の尻尾を生やし、自身の能力を向上させ[狐火]を放ってラミア達を撃退していた。

 巫女の服を着て。


「……ダンジョンでする恰好じゃないよね」

「「「誰のせいだと……」」」


 はい、僕ですね。


 新しく手に入れた衣装は[有償ガチャ]で手に入れたものだ。

 8月、9月と5000円ぽっちとはいえスキルに課金しており、7月分に余っていた2000円も加え実は合計4回ガチャっている。

 その時に手に入れた4つの衣装がこれだ。


 ・新人用巫女服:遠距離攻撃の威力を25%上昇

 ・初級赤ずきん:敵からのヘイトを50%上昇

 ・初級学生服(メガネ付):知能100%上昇

 ・新人用執事服:器用度100%上昇


 メイド服はあらゆる能力を10%上昇させ、チャイナ服は脚力を20%上昇させることを考えると、時と場合によって使い分けることになりそうだ。

 しかしダンジョンの中でこの格好はどうなのかと、どうしても思ってしまうのは仕方ないと思う。


『ご主人さまは酷いのです。少しくらいワタシ達親子の居住を改善してもいいでしょうに、全部ガチャに使ってしまうだなんて』

「なぜ自分のお金なのに使い方で怒られないといけないのか……」


 頬を膨らませて怒っている2頭身の和服を着た、白と黒のまだらな髪色でおかっぱ頭のが、僕の近くでフヨフヨと浮かんで怒っていた。


 夏休みにレジャー迷宮に行った際にエバノラと名乗る魔女が行う試練に参加し、発情の花粉を浴びたクロとシロが何をどうやったのか知らないけど、その結果できてしまった子供がこの少女、アヤメだ。


 名前の由来は黒白と書いてアヤメと読めるようなので、クロシロの子供にピッタリだし、女の子だったのでこの名前にした。

 クロとシロがまともなネーミングセンスがあるのなら、自分達もまともな名前にして欲しかったと主張してきただけれど、君達元々の名前があるようなんだからそれを思い出しなよ。


「それにしても何で最近はその姿でいるのさ?」

『ご主人さまがガチャに並々ならぬ関心があるようなので、色仕掛けで少しはこっちの気を引けないかと思ったのです。うふん』


 そんな色気の欠片もない見た目で言われても。

 最初に見たときは黒と白のモノクロで複雑な模様を描いただったけれど、クロとシロと違って人型にも変身できるみたいで、最近はもっぱら少女の姿だ。


『パパ、ママが外に出れない分、ワタシがご主人さまの手助けをして快適な住まいをゲットするのです。もしもこれだけ頑張ってるのに報酬が貰えないのであれば、今度こそストなのです!』

「次の課金ではそっちに少しは回すから、ストライキだけは勘弁してよ」


 クロとシロが出来ることはアヤメにも出来るようなので、索敵など助けられているから、ストライキされないためにも来月の課金の一部の使い道が決まってしまった。

 くっ、ガチャできる回数が減った……。


 ちなみにクロとシロに頼れない理由として、アヤメを生み出すために消耗したせいか、『集めろ』とメッセージを出すことすら出来ないくらい弱体化していた。

 アヤメ曰く、また石を集めれば元に戻るようだけど、今度は一体いくつ集めればいいのやら。


 そんな事を思いながら、いい時間になったので今日もいつも通り咲夜の【典正装備】〔紡がれた道しるべアリアドネ ロード〕でダンジョン入口へと戻り、受付で魔石を売った時だった。


「申し訳ありませんが少しお話がありますので、お時間のほどよろしいでしょうか?」


 いつもならここでお金を渡されるだけだったのに、受付の人にこんな事を言われた後会議室の様な場所まで連れて行かれてしまった。

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