幕間 幼少期~小学生編

 

 色々撫でまわされたり恨みのこもった目で見られたけれど、特に危害を加えられることなく、無事昼休みになった。

 まあこの姿の僕に危害を加える人は周囲から白い目で見られるだろうから、人前では手を出してこないだろうけど。


「先輩ー! ご飯にしましょ」

「蒼汰君、来た」

「相変わらじゅ、2人とも早いにぇ」


 また窓からショートカットして乃亜と咲夜がやって来たよ。

 先生に見つからない様にやってるせいか、誰にも注意されないので毎回窓からだし。


「赤ちゃんの時の先輩も愛らしかったですけど、今の姿も可愛いです!」

「むぎゅっ! だからっちぇ急に抱きちゅかにゃいでよ」


 顔の半分が乃亜の胸の中に埋まるんだよ。

 まあ息が出来ない訳じゃないし、苦しいわけでもないからいいんだけど、周囲の目を少しは気にして欲しいんだよね。

 ほら周りを見てごらん。


「羨ましいけど、あんな風に抱き着くのには勇気がいるね」

「鹿島だって分かってるから、元に戻った時を考えると厳しいわ」

「俺達も冒険者になったら、鹿島みてえに女子にチヤホヤされるのかな?」

「無理だろって言いたいけど、1%の可能性があるなら挑戦したいぜ」

「お前らもハーレム、目指してみないか?」


 いや、なに大樹は勧誘してるんだよ。


 改めて周囲を見たら大樹がおかしなことをし始めてた。

 このまま放っておいたら、その内ハーレムを作りたい組織が出来るんじゃないかな?

 あ、彰人が大樹を見てニヤニヤ笑ってるし、絶対面白がって放置する気だ。


 まあ僕が何言っても嫌味になりそうだし、僕も放置するしかないんだけど。

 願わくば、このクラスの男子全員が冒険者にならない事を祈ろう。


「乃亜ちゃん、ズルい」

「あ、すみません咲夜先輩。わたしは存分に堪能しましたのでどうぞ」

「うん、ありがと。ぎゅ~」

「わぷっ」


 僕はぬいぐるみじゃないんだけどな~。


「少しは自重しなさいよ2人とも……」


 2人に代わる代わる抱きしめられてり、頭を撫でられたりと好き放題されていると冬乃がようやくやってきてくれた。


「冬乃先輩はご自宅で存分に幼児先輩成分を堪能しているのでいいかもしれませんが、わたしと咲夜先輩は学校でしか堪能できないのですからいいじゃないですか」

「今日はまだそんな事してないわよ!」

「今日?」

?」

「あっ……」


 あっ、って何?

 赤ん坊の時、起きたら抱きしめられていたけど、まさか僕が寝てる時に好き放題してたとかじゃないよね?


「冬乃先輩……」

「な、何よ?」

「ウェルカムです」

「何を言ってるの乃亜さん!? ウェルカムって何なのよ!?」

「もう、分かっているのでしょ?」

「分からない、分からないわ! 私には乃亜さんが何を言いたいのか分からないわ!」


 冬乃が耳を押さえて首を横に振っていて、何も聞きたくないとでもいうかのような行動をしていた。

 しかし、人間の耳を押さえていても狐耳があるから、そっちから声が聞こえるんじゃないの?


「そうか、蒼汰。3人目なんだな……。元の姿に戻ったら1回殺してもいいか?」

「そんにゃちじゅかに語り掛けりゃりぇるとガチっぽくちぇ怖いよ」


 周囲の冬乃を見る目が、乃亜達を見る目と同じになった瞬間だった。


 ◆


 昨日、女子達に人形やぬいぐるみのように扱われていた訳だけど、今日目を覚ましたらまた少し成長していた。

 今は小学1~2年生くらいかな?


「あーあー。やっとまともに喋れるくらいには戻ったかな?」

「それでもまだまだ子供だけどね」

「でもこのくらいまで戻れれば、1人でも暮らせそうだよ」


 さすがにいつまでもお世話になるのは悪いからね。


「ダメよ!」

「ずっとここにいて!」


 え、なんで?


 僕が声の主、冬乃と夏希ちゃんの方へと視線を向ける。


「あ、いや、その……」

「あなたがいないと誰がおやつを出してくれるの!」


 夏希ちゃんの欲望に忠実すぎる発言が笑えてくる。苦笑だけど。


「そ、そうよ。蒼汰は代わりに物資を提供してくれるんだし、世話になっていることを気にしなくていいのよ。それに、いくらある程度戻ったって言ってもまだ子供なんだし、キチンと元の姿に戻るまでここにいていいの。分かった?」

「あ、はい」


 なんか無理やり言い訳しているみたいに言ってない?

 勢いに押されて思わず頷いてしまったけど、この体じゃまだまだ不便だからもうしばらくお世話になろうかな?


「じゃあ、あと数日だけお願いね」

「ずっとでもいいよ! そしたらお菓子が毎日食べられるから!」

「夏希……。お願いだから少しは遠慮してよ……」


 恥ずかしそうに顔を伏せている秋斗君。大変だね。

 でも秋斗君も子供なんだから、そんなに遠慮しなくていいんだよ?


「……あと数日か」


 冬乃がボソリと呟いた声が、少し寂し気な感じに聞こえたのは気のせいだろうか?

 まあさすがに元の姿に戻ったら高校生同士が一緒に暮らすのはマズイし、なんだかんだでほとんど毎日顔を合わせているのだから、そんな分かりやすく尻尾を垂れさせて落ち込まないで欲しい。


 乃亜達と違って直接言ってきた訳じゃないけど、さすがにここまで分かりやすかったら僕でも冬乃の好意には気づくよ。

 まあ冬乃はハーレムを嫌っていたし、乃亜達との関係上、変につついて一緒にダンジョンに行けないと困るから何も言わないけどね。


 出来れば今まで通りの関係のまま、ダンジョンに潜れればいいんだけど無理だろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る