第33話 飢餓自食
≪亮SIDE≫
〔
それが俺の胃と融合してその効力、食べたものを即座に100%エネルギーに変換する力を発揮していた。
そしてその〔典外回状〕である〔
肉体にエネルギーが保持されていなければ一気にエネルギーに変換されてしまうため、[貯蔵庫]なしでは10秒と持たない諸刃の剣。
だが――
『馬鹿な!? 先ほどまでとは強さが桁違いになってる!?』
俺の刀を槍で受けた謙信は弾き飛ばされながら、目を見開いて驚愕していた。
そう。筋肉すらも消費してしまうリスクにあったメリット、俺の裁量でエネルギーを自由に消耗できる力を得る。
たとえば本来1キロ走るのに75キロカロリーを消耗するとしたら、今の俺はそれをたった1歩に凝縮することができる。
1キロ走るのに使う力をたった1歩に凝縮したら、何十、何百倍では収まらない力を発揮でき、パワーとスピードは通常時とは比べものにならないだろう。
――バツッ
「ぐっ!」
だが耐久度は変わらないため、そんな力を発揮したら肉体が自壊してしまうのだが。
今も足の筋肉が断裂し激しい痛みが俺を襲う。
すぐさま〔
〔
刀を振るう腕も一度の振り下ろしで腕の筋肉には深刻なダメージを負い、攻撃の反動で全身の骨にはヒビが入っていることだろう。
それを無理やりポーションの効果と〔
「だからとっとと倒れてくれ」
『はぁはぁ、舐めるな!』
謙信は俺に対し槍で薙ぎ払ってきて、それと同時に先ほど俺を拘束した白い縄が四方八方から襲い掛かってくる。
「無駄だ」
毘沙門天の力のお陰か、槍の薙ぎ払いは今の俺に匹敵する速さで振るってきてるが、白い縄はあまりにも遅く、俺が通った後を虚しく通過するだけだった。
薙ぎ払われた槍の下をくぐるように躱すと、すれ違いざまに謙信の胴体に一太刀浴びせる。
『あり得ない! 毘沙門天の、神の力を纏う私がまともに攻撃すら当てられないだなんて……!』
「現実を直視しろ。もうこれで終わりだ。物語から生まれた虚像はここで消えるがいい!」
返す刀で斬りとばした謙信の首が宙を舞い地面に落ちて転がった後、ポンッと音を立てて3つの印籠が出現した。
それを見てようやく俺は苦戦を強いられた謙信との戦いに勝利したのを確信した。
問題はこの後だった。
「がぁああああ!!」
[貯蔵庫]からエネルギーを供給するのを止めて数秒後、肉体がみるみる衰弱していき立っていられなくて俺は地に伏せる事となった。
〔
謙信を倒すためだったとはいえ、できれば使いたくなかったと思いながら、重くなっていくまぶたに抗えずそのまま瞳を閉じた。
≪蒼汰SIDE≫
亮さんと謙信の戦いは何が何だか分からなかった。
地面がひび割れ轟音がなり、気が付いたら謙信が倒されていたのだから。
「あれが人間が可能な動きなのか……」
他の冒険者が亮さんの動きを見て呆然としながらそんな事を呟いているけれど、正直速すぎて今までとどのくらい差があるのか僕にはさっぱり分からないので、いまいち先ほどの動きがどれくらい凄かったのかは全くピンとこないね。
「がぁああああ!!」
「亮!?」
よく分からないけど凄かったなぁ~とか呑気に考えていたら、突然亮さんが叫びながら地面に倒れ込んでしまった。
沙彩さんと他の人達は慌てて亮さんの元へ駆け寄っている。
謙信に何か最後にされたのか?!
いやそれとも〔典外回状〕を使った代償だろうか?
〔
しかし倒れてしまった亮さんに僕が出来ることはないし、沙彩さん達が見ているので僕は乃亜達のもとへと向かう事にした。
「乃亜、冬乃、咲夜、大丈夫?」
「はい。結構ボロボロにやられちゃいましたけど、致命傷だけは避けれたので」
「私は1回攻撃を受けただけだし、乃亜さんの[損傷衣転]のお陰で無傷よ」
「咲夜は、もう、ダメ……」
無傷なのは冬乃だけで、乃亜は手足に痛々しい傷がついていてるし、咲夜は完全に体力がなくなったせいで起き上がる事も出来そうになかった。
「咲夜はフラフラだし、傷はポーションで治すってことでいいかな?」
僕はそう言いながら取り出したポーションを乃亜に渡す。
「はい、ありがとうございます先輩」
「ごめん、乃亜ちゃん。[スタミナ自然回復強化]のスキルは手に入れてるからしばらく休めば動けるようになると思う。ただ今日はもう[鬼神]は使えない、かな」
冬乃がレベルが上がってスキルスロットが増えたので[気配感知]のスキルを購入したのと同様に、咲夜も討伐作戦が始まる前に[スタミナ自然回復強化]を買っている。
[鬼神]のスキルはとにかく体力を使うのでスタミナ関連のスキルは必須だからね。
ただ急速にスタミナが回復するものではないので、スタミナを使い果たした今はしばらく休憩しないと立つこともできないだろう。
どの道、亮さん達がこの後どうするのか指示を待たないといけなそうなので丁度いいのだけど。
そんな訳で寝転がっている咲夜に栄養補給のためのバナナを与えながら、先ほどまでの戦闘の疲れを癒すためにのんびりと座って待った。
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