第21話 第二の試練〝雪の道〟(6)
腹上死するかもしれない男性Cはさておき、僕らはその後順調に迷路を進んでいった。
道中アンが現れて僕らを襲って来ようとしたけれど、青の花や緑の花を使う事で難を逃れる事ができた。
「アンッ」
「青い花!」
アンが後ろから現れたり、曲がり角の無い場所で正面からふいに現れた時には青い花を使い、氷の壁を出現させてアンがこっちに向かって来れない様にした。
青い花を地面に叩きつけると、その場所に向こう側が透けて見えるほど綺麗な分厚い氷がアンと僕らの間を遮ってくれるので、たとえ1分だけとはいえ非常に助かるね。
「アンッ、アンッ!」
――カリカリカリ
「氷の壁を引っ掻き続けてまでこっちに来ようとしなくても、諦めてどこかに行ってくれればアンのいる方に行けるんだけどね」
「はぁはぁ、仕方ないですよ先輩。こっちの姿がバッチリ見えてるんですから……」
こんなにも透き通った氷ではなく、向こう側が見えないような白い氷だったら良かったのにね。
そんな感じにちょっと青い花の効果を残念に思いながらも、アンが後ろから来た時なんかは大変重宝した。
もっとも、青い花は他の花より多いとはいえ5つしか持ってないので、後ろからアンの声がしたとしても急いでその場を離れ、追いつかれた場合にのみ使用したけれど。
まあ後ろから来る分には問題ないけれど、アンが進行方向から来た時には厄介だった。
青い花を使ってアンがこっちに来るのを防げても、進みたい方向には進めずに戻らざるを得なくなってしまうから。
でもそんな時に有効だったのが緑の花だった。
「アンッ、アアンッ!」
「緑の花であっちの道に誘導しよう!」
アンが正面から現れてこっちに向かって来た時、T字路や十字路なんかの時は非常に活躍したよ。
緑の花を誘導したい方向に投げるとムクムクと花が大きくなっていき、人並みに大きくなるとアンと同じで二足歩行で歩き出して、アンを引き連れて行ってくれた。
どうやらアンは緑の花を優先して襲うような仕様なのか、僕らと緑の花の両方が見えている状態でも緑の花に着いて行ってくれるので、緑の花も非常に役に立ったね。
そう思うと赤い花より青い花と緑の花を多めに摘んでいたのは運が良かったかな。
赤い花なんて1回使うのに2つ必要だし、残り1つしか残っていないから実質使い物にならないし。
行き止まりの場所でアンと遭遇した時には赤い花を使うしかないけれど、矢印に従っている限りは行き止まりになる事はないので安心だ。
ちなみに仮に行き止まりで緑の花を使ってアンを誘導しようとしても、緑の花は1度花粉をかけられたらそこで効果が切れてしまうから、行き止まりで使っても意味ないんだよね。
「どの花もなんだかんだで役に立つ場面があるけど、残りの数もだいぶ少なくなってきたし、いい加減ゴールに辿り着けないかな?」
「あっちこっち曲がってるから、今どの方向に向かって歩いているかも、はぁはぁ、分からないし、ね」
見える景色全て白い壁だし、アンに追い立てられて慌てて逃げたりしてるから、咲夜の言う通り入口に対して今どちらの方向にどのくらい歩いたのかすらも分からない。
矢印に従っているから道を間違えたりはしてないだろうけど。
……もしもこの矢印がフェイクとかだったら詰むなー。
そう思いながら雪の上を音を立てながら僕らは歩き続けた。
本来であれば咲夜と冬乃が入れ替わって背負う人を変えるはずだったのだけど、花粉が冬乃にはかなり効いたようで、ほとんど喋ることもできず耐えるので精一杯でまともに歩けそうになく、ずっと僕が冬乃を背負っていた。
「ご、ごめんなさい、咲夜さん……」
「いい。咲夜なら花粉のせいで体の内側から熱いから寒さも平気だし、後で蒼汰君に背負ってもらえばいい」
「わたしも先輩に背負って欲しいです。みんな平等に同じ時間背負ってください。はぁはぁ」
「試練関係なしに背負えと!?」
もう乃亜の荒い息が意味深すぎて怖い。
というか、試練だったから水着でも背負うのはしょうがないって免罪符があったのに、それがなくなると色々マズイ気しかしないよ……。
どうにか僕に突然降りかかってきた試練をどうやって躱すか考えながら道を歩き続けていた時だった。
「え、また人の腕!?」
男性Cの時のように曲がり角から腕が出ていることに気が付いてしまう。
今度は男性B、お前もか。
そう思ったのだけど、その腕はピクリとも動かないしどうしたのだろうか?
まさか意識を失うほど襲われてしまったのか……。
「行きたくはないけど今度は矢印があっちを示しているし、行くしかないよね」
「仕方ないです」
「うん」
「………(コク)」
全員の同意が得られたので、意を決して僕らはそちらに向かって歩き出した。
そしてそこで見たもの。それは――
「っ!?? だ、大丈夫ですか!?」
女の人が1人、この雪の上で倒れていたのだった。
そう、1人でだ。
寒さを遮断する恩恵は異性に触れていなければ発揮しないのに、たった1人でこんな雪が降っている
ほど寒いのにも関わらず水着でいるなんて自殺行為でしかない。
慌ててその女性に触れると手は完全に冷え切っており、今にも凍え死にそうになっていた。
マ、マズイ! 一体どうすれば……?
そう思った時、触れていた手に衝撃が走った。
「さ、触る……な」
「えっ?」
女の人がまるで死力を振り絞って僕の手を叩いて振りほどいたので、何が起こったのか分からず呆然としてしまった。
「なっ、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」
乃亜が激高し、どうにか僕に触れさせようとするも女性は拒否してくる。
異性の肌と肌が触れあっていれば恩恵を発揮する空間なら、僕と触れ合っていれば寒さは凌げるはずなのに、何故そこまで頑なに拒絶するんだ?
「あ、エバノラさん。エバノラさんを呼んだら何とかしてくれない、かな?」
咲夜がそれを提案した時、目の前に突然、呼ぼうとしていたエバノラが現れた。
『……今回はハズレが混ざっていたのかしらね』
「エバノラ……?」
冷めた目で女性を見下ろしながら、ボソリとそんな事を呟いているけどそんな事言ってる場合じゃないような……。
『私の試練で死人を出させるつもりはないし、手を振り払ったのを暴力行為と認定するわ』
パチンっと指を鳴らすと女性はこの場から消えてしまい、ここには僕らだけが残っていた。
『あの男、赤い花が1つしかないからって、1人犠牲にして回避するなんて、くだらない事してくれるわ』
「「「「なっ?!」」」」
それはあまりにも非道な選択だ。
そんな事をすれば残された1人は凍え死んでしまうかもしれないのに、どうしてそれを選択できるんだ?
あの女の人を愛してはいないから簡単に見捨てることができたのか?
様々な疑問が頭をよぎり、軽くパニック状態になってしまった僕らをエバノラは優しい目で見ていた事にふと気づいた。
『あなた達には嫌なものを見せちゃったわね。もっと早く回収できれば良かったのだけど、中々禁則事項に抵触してリタイアしようとしないから手を出せなかったの。ごめんなさいね』
「い、いえ……」
ふざけている印象の強いエバノラなのに、今はまるで母性溢れるお姉さんのような優しさが醸し出されていてちょっと困惑してしまうな……。
『ゴールまではあと少しよ、頑張りなさい』
僕らに一言そう告げると、エバノラはフッとこの場から消えてしまった。
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