第19話 それぞれの戦い

 

「ふん、もっとも警戒していたがこの程度か」

「ぐっ!」


 中川が2本の曲刀を自在に操り、咲夜の防御を掻い潜るように肉体へと的確にダメージを与えていた。

 [鬼神]の力で肌が頑丈なため、斬られることはないけど殴打によるダメージで、乃亜の[損傷衣転]によって服はドンドンボロボロになっていく。


 咲夜には迷宮氾濫デスパレードの後、ダンジョンに潜る前に鉄板入りの防刃手袋を購入して装備させている。

 前はただの手袋だったので、攻撃力、防御力は強化されたと言えるけど、曲刀を手で受け止めようとしても、中川は己の手足のように曲刀を自在に動かして防御の薄い箇所を狙われては意味がない。


「[鬼神]」

「またそれか」


 [鬼神]の全力使用で咲夜の髪は真っ赤に染まり、肌は褐色になって、額からは大きな角が2本生える。


 咲夜は瞬間的に[鬼神]の出力を上げる事で、3分しか持たない時間制限を有効活用する特訓は行っていた。

 [鬼神]のスキルをある程度本能的に使えるとはいえ、微妙な力調整をするのは難しく、うっかりすると全力モードでなくても5、6分ほどで体力が無くなってフラついてしまう。

 なので戦い続けられる無理のない範囲で使う時以外、スキルの出力を上げて戦わないといけなくなったときは、全力使用のON、OFFで戦う方法を身に着けた。

 いずれはペース配分を考えて、スキルの微妙な力調整が出来るようになりたいとは言っていたけど。


「はあっ!」

「無駄だ。[先読み][瞬間ブースト]」


 咲夜が反撃しようと振るった拳は、中川が常時使用している[身体強化]も加えた3つのスキルの同時使用で、軽々と避けられてしまう。


「苦し紛れにそんなスキルを使ったところで、私には通用しないよ」

「くっ」


 お互いの距離が空き、一息付けれるところで咲夜は[鬼神]の全力使用を止めて元の姿に戻っていた。


「さあ続きといこうか」

「今!」

「ばぶっ!?」


 咲夜は自身が元に戻って相手が油断したであろう瞬間を狙い、一瞬では[鬼神]の全力の姿にはなれなくても、出せる最大限の力で一気に相手の懐へと近づこうとした。


「読んでいたとも」

「えっ?」


 ――ドゴンッ!


「ぐあっ!」


 咲夜が踏みしめた地面が突然光って爆発した!?


「[地雷]のスキルだ。使いどころは中々難しいが、[先読み]と併用すれば以外と便利なスキルだよ」


 何時の間にそんなスキルを仕込んでいたんだよ……。


「くっ……」

「見た目は随分ボロボロだがまだ立つか。いい加減くたばれ」


 服が裾や袖は弾け飛んで、背中部分やお腹の部分も一部無くなっていて、咲夜の格好がかなりファンキーになってしまっている。

 もう[損傷衣転]に頼れそうにないし、これ以上攻撃を受ければ今度は肉体がダメージを追うことになってしまう。


 唯一打開できそうなのが[鬼神]の〝神撃〟によるレーザーでの薙ぎ払いによる範囲攻撃だろうけど、間違いなく僕らも巻き添えを食らうので、咲夜は絶対に使いそうにはないし……。


 冬乃はまだラミア達を倒せていないのだろうか?


 そう思って冬乃の方を見ると、冬乃も冬乃で苦戦していた。


「「「「………」」」」

「くっ、こいつら~」


 姿が見えなくなるラミア達を、冬乃は音や匂いで察知しているけど、居場所を明確に分かる訳ではないのか、使うのを嫌がっていた[獣化]を使用して獣よりの狐獣人となってまで戦っているけど、中々攻撃が当たっていないように見える。

 [狐火]を放つもすでにそこにはいないのか、虚しく壁に[狐火]がぶつかって弾けている。


 ――ドカッ


「ちっ、そこ!」


 何かに弾かれたように体を揺らされた冬乃は、すぐさまお返しと言わんばかりに回し蹴りを敵がいるであろう場所へと放つ。

 ドコッと音がして何かが壁に叩きつけられる音がしたと思ったら、そこから透明になっていたラミアが現れる。


「姿を見せた今――ちっ、鬱陶しい!」


 追撃しようとした瞬間、他の3体の内のどれかが冬乃の妨害をしたのか、見えない何かにつまづいたようだ。

 さらにこけたところに、どこからか石が投げつけられ、一瞬そちらに冬乃の視線が向く。

 その間に姿を現したラミアが消えてしまい、姿を見失っている。


 これの繰り返しなのか、冬乃はラミアを倒せそうになく、かと言って無視して乃亜達の援護をしようとしても、すぐにラミア達の妨害が入っていた。


 今は[損傷衣転]で服がボロボロになるだけで肉体的には無事だけど、明らかにラミア達が優勢であり、この状況が続けばいずれ倒れるのは冬乃だろう。


 どこもかしこもヤバい状況。

 このまま時間が経つごとに、服による防御は出来なくなり、体力もなくなって状況が悪化する一方だ。

 3人の顔には焦りが浮かんでおり、どうにかしないといけないと思っていても、どうにも出来ない為に歯噛みをしているようだった。


「うふふ。どうしたの? お腹が空いたのかしら?」


 僕は片瀬さんの腕の中で揺られているだけだけど、この状況を打開するには何としてでも動かなければ!

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