第12話 天国と地獄

 

 あれから僕と大樹以外は黙ったまま待っていると試験の受付が開始されたため、各自必要事項を記載した紙を提出しに行く。


「先輩、出来ればあの人達に近づきたくないんですが」

「同感ね。私の耳や尻尾を見る目が、なんか凄い嫌」


 各パーティーごとに書類の提出となるため、大樹達と離れた直後、2人からそんな事を言われた。


「気持ちは凄い分かるよ。正直、大樹と同じパーティーじゃなかったら、僕も彼らに近づかなかっただろうし」


 3人が凄い目で見てくるのが色々きつかった。

 最近、クラスメイト達に嫉妬の目で見られることで、その目には慣れていたけど、もしもそうじゃなかったらトイレと言ってその場から逃げてたんじゃないかと思う。


「下手したら、四月一日わたぬき先輩にずっと見られていた時よりもキツイかもしれない」

「襲われた相手に四六時中見られるよりキツイって相当ですよね。わたしも先輩と同じ気持ちですけど」

「普段はこのダンジョンに来てるみたいだし、ここに来ることだけは止めましょ。せめてあいつらが別のダンジョンに探索場所を変えるか、ダンジョンに行かないときだけね」


 徹底してるね。

 ダンジョン内で遭遇したり、一緒に探索することはないから、そこまでしなくてもいいとは思うけど、白波さんの気持ちを重視することにしよう。

 決して、自分があの人達と遭遇するのが嫌でそう決めた訳じゃないよ、うん。


 僕らは同じ気持ちを抱えながら書類を提出すると、番号札を渡された。

 どうやらこの番号札を呼ばれたら、施設内にある訓練所へと行けばいいらしい。


「蒼汰、お前は何番だった?」

「「げっ」」


 こらこら、人に向かって、げっ、なんて言ったらいけないよ。

 気持ちは分かるけど。うん、ホントに分かるけど。


 大樹達が近づいて来たのを見て、思わず声が出てしまった2人の壁になるように、僕は大樹達の前へと出る。


「18番だったね」

「おっ、じゃあオレらの次だな」


 そう言って大樹は17番の番号札を見せてくれた。


「それじゃあ行こうぜ。順番が来るまで、あっちで座って待ってないといけないみてえだからな」

「……うん、行こうか」


 他の3人がいなかったら素直に頷けたんだけどな……。


「幼い少女が背中に隠れる、ありなんだな」

「揺れる尻尾こそ至高」

「無口系な姉もいいものです」


 さすが性癖三銃士。

 独り言から漏れる言葉は性癖か。


「「気持ち悪い」」


 言わないであげて。


 廊下のような場所で椅子が横一列に並んでおり、番号順に席に着くよう指示された。

 連番だった為、隣り合った僕らは談笑しながら自分たちの番を待つ。

 まあ、ほぼ僕と大樹だけでたまに他の三銃士に話しかけられてただけだけど。


「あっ……」

「あ、四月一日わたぬき先輩」

「ここに四月一日わたぬき先輩がいるってことは、先輩は19番なのかしら?」

「そう」


 四月一日わたぬき先輩を見た2人はホッとした表情で、そちらに嬉々として視線を向けて話しかけていた。

 つい先日襲撃してきたばかりの人なのに、そんなにこっち側と関わりたくないとか、ある意味凄いな三銃士!?


 僕から見たら、大樹と僕を挟んで天国と地獄なんだけど。

 僕も乃亜達の方を向いていたい。

 三銃士地獄側を向いていたくないよ。


 大樹と話すのはいいんだけど、大樹の向こう側に見える光景が嫌すぎる。


「ふぅー、幼女がお姉さん2人と楽し気に会話している姿は心が洗われるんだな」

「いや、時たまピクリと動く耳こそ至上」

「相槌を打つだけながらも、微笑ましく年下を見るような目は最高に素敵ですね」


 ……地獄だ。


「なんでこの3人とパーティー組んでるの?」


 小さな声でこっそりと大樹に尋ねる。


「言いたいことは分かるが、性癖を除けばいい奴らだぞ」


 じゃあダメじゃん。


「志を同じくする同士とか言ってなかった?」

「性癖は偏ってるが、こいつらもハーレム希望だぞ」

「で、大樹は全てを受け入れると」

「オレは色んな女性と愛を育みたいんだ」


 カッコよく言ってるけど、まるで不特定多数の女性に手を出すと言ってるみたいに聞こえるよ。

 まったく、類は友を呼ぶとはよく言ったものだと思う。


 しかしその考えだと、僕や彰人も性癖が腐ってることに……。

 いやいや、彰人はリアルの女性に興味はないし、僕はガチャが恋人なんだ。


 ……彰人はダメかな?


「17番のパーティーは試験場へとお願いします」


 性癖について考えていたら、大樹達のパーティーが呼ばれた。


「よし、じゃあ行ってくるぜ!」

「うん、頑張ってね」

「おうよ。“迷宮氾濫デスパレード”への参加資格をもぎ取って来てやるぜ」


 頼もしい発言をしながら大樹達は試験場へと入っていった。


 普段からそういう姿だけを見せてれば、顔はいいんだからモテそうなものなのに。

 残念な友人を見送っていると、横からため息が聞こえた。


「やっと行きましたか」

「小声でぼそぼそと独り言をつぶやいていたけど、こっちの獣耳はよく聞こえるんだから意味ないわよ。ああ、気持ち悪かった」

「災難でしたね。わたしは視線を感じるのと、何か呟いてるな、程度にしか感じませんでしたが」

「本当よ。四月一日わたぬき先輩と会話するのに集中してなかったら、耐えられなかったわ」

「えっと……大丈夫?」

「精神的にかなりきつかったのですが、四月一日わたぬき先輩は平気でしたか?」

「何が?」


 どうやら四月一日わたぬき先輩は乃亜達の方にしか意識がいってなかったようで、あの三銃士の被害には遭わなかったようだ。

 あれを完全に意識の外に追いやれるとは凄いね。


 それにしても、あの3人に関わらないようにするためとは言え、2人は四月一日わたぬき先輩と会話をして結構仲良くなったみたいだ。

 ……羨ましい。


 僕も仲良くなるならそっちがいいよ!

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