第4話 ダンジョンで迎える朝

 

≪蒼汰SIDE≫


「先輩、朝ですよー」


 頭上から響いてきた声に、眠っていた頭が徐々に覚醒しだす。


 ……ああ、そうか。

 昨日からダンジョンの遠征に来ていたんだっけ……。

 それで野営中は誰か1人が見張りをする事になってて、見張りをする役は乃亜が最後だったから時間になって僕らを起こし――


「……ねえ乃亜。今僕どういう状態になってる?」


 起こそうとした体が、上手い具合に何かに絡まっているせいで力が入らず起き上がる事が出来ないんだ。

 ハッキリ言って今どういう状態なのか、体から伝わる感触でなんとなく分かるんだけど一応聞こうか。


「事後?」

「断じて違う」


 なんとか見える範囲では全員服をキチンと着ているというのに、とんでも無い事言うんじゃない。


「冗談です先輩。でも冬乃先輩と咲夜先輩に手足を抱き着かれている状態なので、服を着てたとしてもかなりヤバいとだけ」

「やっぱり?」


 右側は狐耳が僕の顔に来て、首辺りに吐息を感じるし、左側で腰の辺りに凄く柔らかいものが当たっていて、足は素足に触れられているのを感じる。

 位置的に考えると、冬乃が僕の右腕ごと胸の辺りに腕を回して拘束し、咲夜が僕の両脚を自身の脚を回して拘束していて、僕が自由に動かせるのが左腕だけ。確かにこれはヤバい。


 冬乃が何かに抱き着くのは赤ん坊だった時に、冬乃の自宅に泊まった時に体感したけど、まさか咲夜も抱き着き癖があるとは思いもしなかったよ。


 というか僕端っこに寝てたはずなのに、どうやったら2人に挟まれて眠る事になるの?

 乃亜の前に僕が見張りをしてたから、挟まれて眠るなんて事はないはずなんだけど?


「う~ん、ここがダンジョン内じゃなかったら、わたしは先輩の上に乗って眠っていたいですねー」

「ダンジョン内じゃなかったらこんな事有り得ないから! というか、早くこの2人も起こしてよ」

「幸せそうな2人を起こすのも気が引けますが、そろそろ時間なのでしょうがないですね」


 乃亜はそう言って、咲夜と冬乃に近づいて2人の体を軽く揺らしだした。


「冬乃先輩~、咲夜先輩~、朝ですよー」

「「ふぇ……?」」


 2人は寝ぼけているのか、何かの鳴き声みたいな声を発したけど、徐々に目が覚めてきたのかそれぞれリアクションしだした。


「ち、近っ!? そ、蒼汰! ……だ、抱き着いたりして悪かったわね!」

「蒼汰君だ~」

「ちょ、咲夜さん、いつまで蒼汰に抱き着いてるの?!」

「えへへ~」

「話を聞きなさい!」


 冬乃はすぐに起き上がって僕から離れたけど、咲夜は僕にしがみついてる事を認識した上で抱き着き続けている。


「咲夜先輩、気持ちは分かりますけど、いつまでも抱き着いてたら先輩に迷惑ですよ」

「………………うん、分かった」


 咲夜は少し名残惜しそうにした後、ムクリと体を起こして伸びをしだした。

 ようやく僕も動けるよ。


「はぁ、私が何を言っても起きなかったのに……」


 冬乃が咲夜を呆れた目で見ているのに、咲夜は何も気にせず着替えを、って!


「僕外に出てるから!」

「咲夜さん!」

「見られても蒼汰君だから気にしない、よ?」

「お願いだから恥じらいは持ってください!」

「そうですよ、咲夜先輩。恥じらいがある方が男心をくすぐるらしいです」

「なるほど、分かった」

「なんで乃亜さんの言う事にはそんなに素直なの……」

「言い方の問題だと思いますよ?」


 僕はテントの外でそんな会話を聞きながら、大きくため息をついた。


「……やっぱりテントは2つ必要だったんじゃないかな?」


 そんな事を呟きながら、僕は2日目のダンジョン遠征の朝を迎える事となった。


 ◆


 朝ご飯を食べて少ししたらすぐに拠点の撤去を行った後、昨日のようにダンジョンを進む事になった。


 現在の地点は56階層だけど、移動し始めてからすでに1時間経っているにもかかわらず、僕らは1つ下の階層までしか進めていなかった。


「昨日までは順調に下の階層に進めていたのに、急に進みが遅くなりましたね」

「50階層になってからドンドン時間がかかるようになると思ってたけど、55階層から移動距離が長くなってより遅くなったような気がするよ。襲ってくる魔物の数が急に増えたから、それも原因で時間がかかってるんだろうけど」


 昨日までミミックを倒す機会もそんなに無かったのに、上から天井に擬態したミミックが降って来たり、床に擬態したミミックが噛みつこうとしてきたり、壁に擬態したミミックが体当たりしてきたり……ダンジョンに擬態しすぎでは?


「そうだね。鹿島君の言う通りかな。50階層からこの〔ミミックのダンジョン〕の本番だと言っていいくらい、1つ下の階層に降りるのに時間がかかるようになるし、魔物の数も増えてくるよ」

「やっぱりそうなんですね矢沢さん」

「数だけじゃなく強さも上がってるから、気を付けて戦ってね」

「はい、忠告ありがとうございます」


 そう言いながら矢沢さんは他の生徒達にも声をかけに行った。


「そう言えば矢沢さんが戦ってるところを見てませんね」

「あ、言われてみればそうだね」


 乃亜の言う通り、ここまで矢沢さんのパーティー以外の人達がミミックを倒しているので、矢沢さんが戦闘に参加している姿を見ていない。

 僕と同じで支援するスキルのようだけど、[アイドル・女装]がどのようなスキルなのか気になるところだ。

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