エピローグ1

 

≪彰人SIDE≫


「蒼汰が無事戻ってきたし、【Sくん】騒動も収まって一件落着かな」


 蒼汰が五体満足なのと、現在崩れて消えていってる巨大なカプセルトイから光の粒子が集合してたくさんの人間が出て来るのを遠くから見てボクがそう呟く。

だけどボクの横では桜が不満そうな表情を浮かべていた。


「どこが一件落着なのさ!」

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないさね。今世界がどうなってるのか分かってるでしょうに」

「もちろん。だけどボクには都合がいい事だし、今までも規模の大きいことなら何度もあった事でしょ?」


 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の【アリス】が倒された後、ここを中心に大量に地上に広がった蒼汰、もとい【Sくん】も一緒に消える際に地上に大量の魔素がばら撒かれることになった。


 さすがにダンジョンの中ほどではないけれど、以前よりも地上の魔素が濃くなったことでボクのような存在にとっては都合のいい状態へと地上は変わった。

 普通の人間にとっては魔素が濃くなったところでさほど影響はないし、そういう観点では何の問題もない。


「今回の騒動でどんな影響が出るかは未知数なのに、よくそんな平然としていられるさね」

「そういう事は上が考える事でしょ。ボクはただ面白いと思う事を行うだけだよ」


 ま、どうなるかはある程度予想できるけど、考えられる範囲では大した事は起きないはず。

 ボクが知りえない情報やイレギュラーな事が起きない限り、世は並べて事もなし、ってね。



≪エバノラSIDE≫


『やってくれたわねあんた達……!』


 私はあの男の子達と連絡の取れなくなった後、ヤキモキしながら待っていたら地上がドンドンとんでもない事になっていった。

 そんな自分達の仕出かした事をこの双子達が全く気にせずに平然と顔を出してきたので、何をしてくれたのかと睨みつけたけど、相変わらずこの2人は平然と、むしろ笑っていたわ。


『あらいやだ。エバ姉様ったら何をそんなに怒っているのかしら?』

『ええそうね。私達怒られるような事なんて何一つしていないというのに』

『どの口が言うのよ!』

『『この口よ。ふふふ』』


 全く悪びれもなく自分達の口端を人差し指で押さえて、愉快気に笑う双子達に私は思わず頭を抱えたくなったわ。

 この2人、自分達がした事を本当に分かっているのかしら?


『あんた達のせいで地上の魔素が濃くなったのよ。そのせいでのに、何笑ってるのよ』


 本来であれば迷宮氾濫デスパレードでもなければ起きない現象が常時起きるようになってしまったのよ。


 だけどしかりつけた2人は何故かキョトンとした表情でこちらを見つめ返していた。


『あらあら? エバ姉様ったらもしかして気が付いていないの?』

『そんなよりも放置しすぎてヤバい事が起きてるのにね』

『なんですって?』


 放置しすぎてヤバい事って一体何が起こってるというの?


『確かに魔素が濃くなった事で魔物が外に出て来るようにはなったけど、それはダンジョンの入口付近にいるような弱い魔物限定よ』

『強い魔物にとってはより魔素の濃いダンジョンの方が居心地が良いから出てこないしね』

『だからそんな些細な事よりも今まで人類が気が付いていない場所で起きてる方が問題なの』

『前のままだと人類が滅びてしまうところだった』

『『だから私達は地上の魔素を濃くしようとしていたのよ』』

『……詳しく教えなさい』


 そしてその後、双子から聞かされた話に私は冷や汗をかかずにはいられなかった。



≪ハイエルフ:エルサリオン・ホーラスSIDE≫


「組織を潰してまで行った作戦だが、想像以上に上手く事が運んだ。しかし残念ながら目的の1つは多大な成果を発揮したが、もう1つの目的はまるで達成しなかったな」

「仕方ありません。あのような【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になるとは誰も想像できませんでしたから」


 嘆息する私に対し、ティターニアである私の秘書、ティアがフォローの言葉を投げかけてきた。


 そうは言うが我々の目的を考えると、予想出来なかったからダメでしたでは済まない事なんだ……。


 地上に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を呼び寄せてまでした、目的である地上の魔素が濃くするのと人間を間引く事。

 その2点の内、魔素を濃くする方は想像以上の成果を上げたが人間を間引く方に関しては全然成果を上げなかった。

 まさか人を殺さずにスマホにのみ執着するなど、今まで伝え聞く【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】からは考えられない行動だったからな。

 確かに予想しろと言う方が無理ではあるんだが……。


「んなこたどうでもいいんだよ! 俺は世界が混乱して秩序が乱れ、思う存分暴れられるっていうからてめえらに協力してたんだぞ。

 なあ!」

「うるさい、大声を出すな。だがオレもカティンカと同意見だ。ユニークスキル持ちをたくさん殺せるから話に乗ったんだぞ」


 我々の近くにいたロシア人の戦闘狂女にアメリカ人のシリアルキラー男が思った通りわめき出したか。

 心情的には傍に置きたくない人間達だが、人間を間引く上では役に立つ人材であるから仕方ない。


 すでに“平穏の翼”は壊滅していて、人間を減らしてくれる人材は今回の件でほぼいなくなった以上こんな奴らでもいるだけマシか。

 こいつら以外にも同じような性格の人間が数人ワーワーと騒ぎだすが、それを抑える様に私は手を上げ黙らせる。


「分かっている。幸いにも多少ながら世の中が混乱している今がチャンスだ。次に行う事だが――」

『生憎じゃが、もう貴様に与えられる役は賑やかし要員しかないのじゃ』

「誰だ!?」


 この場にいるのは我々関係者しかいないはずなのに、聞き覚えの無い老人臭い喋り方をする若い女の声が聞こえ、思わずそちらへと振り向いた。


 振り向いた場所にはシスター服のようなものを着た1人の少女がそこにいた。


「あん? なんだこのクソガキは?」

『黙れ。私は貴様らのような奴は殺したいくらい大嫌いで声を聞くのも不愉快だ』

「その声は……!?」


 先ほどとは違う声色で少女が喋り思わず驚いてしまう。

 声が変わった事ではなく、に変わった事がだ。


『ほう、覚えていたか。このまま殺してやりたいが安心しろ。貴様と同じ様にその肉体から魂まで丸ごと活用してやろう』

「はっ。私だけならともかくここには私以外の実力者が何人もいるのだぞ」

『そんなもの、とっくに処理したのじゃよ』


 そう言われようやく気が付いた。

 すでに周囲には誰もおらず、私しかいないということに。


『ではの。貴様の処理は私の担当じゃ。でなければ間違って殺してしまうからのう』

「そんな、一体何が――」


 私は何も認識することなく意識を奪われた。

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