第10話 戦闘回避! ……あれ?

 

「俺がてめえに勝ったら、2度と乃亜に近づくんじゃねえ!」


 なんか1人でヒートアップして変な要求を叩きつけてきたんだけど、どうしたらいいの?


「先輩、失礼」

「ん?」


 乃亜がそう言って僕に正面から抱き着いて来る。

 先ほど見せられた筋肉の塊同士の抱擁のような暑苦しくて辛そうなものと違い、女の子らしい柔らかさと匂いを感じる抱擁にドキドキする。

 僕はそんな風に思いながら、自然と手は乃亜の頭を撫でていた。


「いいな」

「乃亜さんの行動力とスキルが少し羨ましくなるわね」

「てめえぇ! 俺を無視して乃亜に抱き着くとかいい根性してんじゃねえか!!」


 僕は抱き着かれた方なんですが。


「もう決闘とかまどろっこしい。ここで死ね!」

「穂玖斗兄さんいい加減にして。先輩に手を出すなら容赦しない」


 穂玖斗さんがこっちに向かって拳を振り上げようとした瞬間、僕に抱き着いていた乃亜が一瞬で僕から離れると、穂玖斗さんに向かって蹴りを放っていた。


「うおっ!?」

「ちっ、[強性増幅ver.2]で強化したのに避けられた」

「くそっ、てめえ乃亜をけしかけるなんて卑怯だぞ!」


 そんなことしてないよ。

 もうヤダ。人の話を聞かずに自分の捉えたい様に捉える人がこんなにも面倒くさいなんて思いもしなかった。


「あらあら穂玖斗ちゃんったら、ちょーっとおいたが過ぎるんじゃないかしらぁ~? またあたしのあつ~い抱擁を受けたい様ねぇ」

「な、なんだよ? 俺はそんな脅しに屈しねえぞ! 俺は乃亜を守るんだ!」

「迷惑だよ」


 乃亜が凄いしかめっ面をしていて、相当うんざりしているのが分かるね。


「もう、穂玖斗君。自分達は留学生の子達に学校の案内をしなくちゃいけないんだから邪魔しないでよ。まあここが紹介する最後の場所だけどさ。

 でも、留学生の子に危害を加えるようなら、いくらクラスメイトであっても生徒会長として処罰しない訳にはいかないよ」


 矢沢さんがキツイ口調で穂玖斗さんにそう言い聞かせると、穂玖斗さんは少したじろぎ顔を引きつらせていた。


「処罰はもちろん、穂玖斗君達と自分達のパーティーでのガチバトルだよ。ここで引かない様なら本当に処罰せざるを得ないけど、良いんだね?」

「ぐっ、恵のやつだけならどうとでもなるが、他の生徒会の連中まで一緒じゃどうにもならねえ。それに俺の事情に他の仲間を巻き込むわけには……」


 なんで仲間にはキチンと配慮出来てるのに、乃亜が絡むことになると明後日の方向に思考が飛ぶんだか。


「生徒会がこの学校で最強のパーティーであること、今一度その骨身に叩きこんでみる?」

「……ちっ、分かったよ」


 ほっ、なんとか戦闘は回避出来たようだ。

 僕の戦闘力じゃ、[強性増幅ver.2]で強化した乃亜の不意打ちを避けられた穂玖斗さん相手では、フルボッコにされる未来しか見えないから助かった。


「会長~。こんな所で何やってるの~?」

「何言ってるの姉さん。私達と同じで留学生の案内に決まってる」


 後ろから間延びする喋り方をする女の子と、ボソボソと小さな声で淡々と喋る少女が現れた。

 身長的には2人とも150センチ後半くらいの矢沢さんに比べ、少し小さいくらいかな?

 ただそんな事よりも、この2人顔がそっくりなんだけど、どう見ても双子だよね。


 双子なんてほとんど見る機会がないから、少し感動しながら僕は彼女たち……彼女たちでいいんだよね?

 矢沢さん達と同じで実は男の娘だったりしないよね?


「その目は失礼。私達はれっきとした女性」

「うわっ」


 目を逸らしたりとかした覚えもないのに、気が付けば僕の横に立って小声で喋っていた少女が立っていた。


「謝罪を要求」

「えっと、ごめんなさい?」

「ん」


 僕がすぐに謝って満足したのか、すぐに先ほどの位置へと戻っていく。


「あはは~。会長達を見た後だと、私達まで男の人かと疑われちゃうのは仕方ないよね~。会長がこんなにも可愛いのがいけないんだよ~」

「ぐっ、可愛いとか嬉しくない……! って、それより2人とも、その後ろの人達は?」

「会長が連絡を受けて8人まとめて案内すると決めた後、追加で4人来ると連絡を受けたから、会長には黙って私達だけで案内することにした」

「自分生徒会長なのに、何の連絡も受けてないよ?!」

「会長はなんでもかんでも1人でやろうとする。だから私達が勝手に動いた」

「駄目だよ~。私達はパーティーメンバーで生徒会役員なんだから、全員でお仕事しないとね~」


 生徒会である少女達の後ろにいた、この学校の制服を着ていない僕らと同年代くらいの男達4人。

 どうやら彼らも僕らと同じ短期留学生であり、今日この学校を案内してもらっていたようだ。


「君達もあのガチムチ校長にこの学校に誘われた口かい?」


 そう問いかけてきたのは、いわゆる砂糖顔イケメンと言われる童顔でくりっとした目が特徴の男子だった。

 身長は僕よりも少し小さいから、160ちょっとくらいだろうか?


「ええ、そうですね」

「と言う事は、君達も実力を買われてここに来たわけだ。ちなみにどういう組み合わせなんだい?」

「オレ達男子4人で1セット、こっちの女子3人はこれのハーレムだ。ペッ」


 唾を吐かないでよ。これとか雑に親指で示さないでよ。

 大樹が若干やさぐれたような言い方で教えると、イケメン君は驚愕の表情を浮かべていた。


「学生でハーレムパーティー、だと……!? そっちの女子が誰とパーティーを組んでいるのか気になって聞いたけど、まさかこんなにも可愛い子達を1人で独占しているなんて……!」


 いや、そんな悔し気な顔されても。

 イケメン君のパーティーメンバーも全員が何かしら悔し気だったり、羨まし気だったりといった表情で見てくるけど、勘弁して欲しい。


「くっ、男として負けた気分だが、戦闘では負けないぞ! 確かここでは生徒同士の模擬戦が出来ると聞いた。ボク達と勝負してもらいたい!」


 いや、そんな急に模擬戦とかできるはず――


「いいよ~。生徒会権限で許可しちゃう~。お相手は~そこのハーレム君のパーティーでいいんだよね~?」


 マジで?

 ……あれ? 穂玖斗さんと戦わなくてよくなったはずなのに、別の人と戦う事になってしまったぞ?


「へっ、丁度いい。あいつの実力、見せてもらおうじゃねえか」


 見せるほど大したもんじゃないと、声を大にして穂玖斗さんに言いたいよ……。

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