第10話 クソゲー

 

 安全マージンを手に入れた乃亜達は心配事がなくなったため、安心して黒い渦へと向かっていた。


「蒼汰くんのこの姿、赤ちゃんになった時を少し思い出す、ね」

『あの時のことは忘れて欲しいかな』


 そして今僕は咲夜に抱えられて移動していた。

 どうやら交代の時間のようだ。


 咲夜に抱えられると頭が胸に埋まってしまうので、ちょっと、いや、だいぶ気まずいというか、バツが悪く感じてしまう。

 なんというか恥ずかしいです。


 そんな僕の気持ちなど露知らず、上機嫌な様子の咲夜に何も言えなかった僕はただ大人しく抱えられているしかないわけだけど。


「この先に一体何があるんでしょうかね?」


 乃亜の見つめる先には、第二の犠牲者になりそうなセリフを吐いていたオリヴィアさんが入っていった黒い渦。

 とりあえず近いところからと思ったのと、オリヴィアさんがそこに入っていったのでそこから入る事が満場一致で決定したからだ。


 僕らはドキドキしながら黒い渦を潜る。

 その先にあった光景。それは――


「寺、ですね」

『寺と聞くと悪い予感がするのは僕の気のせいかな?』

「蒼汰君と寺の組み合わせだと、必然的にアレだよ、ね?」

「え、こんなのクリアできっこないんじゃないの?」

『クソゲーなのです』


 乃亜、僕、咲夜、冬乃、アヤメはピンときたからか僕らは苦虫を嚙み潰したよう顔をしていた。


 まだ〈育成〉も出来ていないのにいきなりボスラッシュとかどうしろと言うんだ。


「どうしたんだい? 何か分かった事でも?」

「……ボスラッシュ?」


 ソフィアさんとオルガは僕らの様子がおかしいのを見て首を傾げているけどそれはしょうがない。

 なんせ僕らが思い描いているのは、ソフィアさん達と出会う前のSランクダンジョンでの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐に参加した時のことなのだから。

 2人が分からないのは無理もないよ。


「かつてSランクダンジョンで【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と戦ったのですが、その時何人もの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】級の武将と戦った上に、先輩がいなかったら確実に全滅させられた【魔女が紡ぐ物語織田信長】がいたんです」

「それがこの寺ってことなのかい?」


 ソフィアさんは若干口を引きつらせながら確認するように寺を指さすと、冬乃がそれに対して頷いていた。


「寺にいたのは【魔女が紡ぐ物語織田信長】だけだから、ここにいるのは信長だけかもしれないけどね」

「信長って一番有名どころじゃないか……」


 何の慰めにもなっていないと言いたげな表情だけど、僕らだって同じ気持ちなんだよ。


『どうするのです? 引き返すのです?』


 黒のボディコンミニワンピースを着ているアヤメの問いかけに僕らは少し悩んでしまう。

 幸いにも入ったらクリアするまで出られないとかそういう仕様ではなく、僕らの背後には白い渦があったので戻る事は出来る。だけど――


『このまま何も確認せずに戻っても何の成果も得られないよね』

「先輩の言う通りですね。それに敵にやられても1回は復活できますから、ここで引き返すのはいくらなんでも慎重すぎるでしょう」


 乃亜の言葉に全員が頷き、寺の中へと入っていく事を決意した。


「何もない、ね」


 咲夜の言う通り寺の中は物が一切なく、なんというか外側だけ寺の様式をした昔の日本家屋の中の様な感じだった。


 しかしその中は異常なまでに広かった。

 外側から見た時は普通の寺なのに、正面にあるであろう壁が見えないくらい真っ直ぐに長い空間だった。


「入口付近には何もありませんがこの廊下のような場所を進んで行くと、左右に襖がありますね。

 中に入って探索すればいいんでしょうか?」

「分からないけどいくしかないわよね」


 乃亜達は建物の中へと入っていき近くの襖を開ける。


『『『ギャッ?』』』


 ――エンカウント 6体のスケルトンが現れた!


「きゃっ!? な、なんですか今の?」

「そんな事言ってる場合じゃないよ。あのスケルトン達がこっちに向かってきた」


 急に音声が流れてきて乃亜は戸惑っていた。

 ソフィアさんに驚いてる場合じゃないと言われるけれど、いきなり声が聞こえてきたら仕方ないと思う。


 もっとも、目の前のスケルトンを見ても深刻な気分にはなれそうにないのもあるのだが。


 何故ならこのスケルトン達の見た目が前にSランクダンジョンで遭遇したりした時の姿とは違い、デフォルメされた2頭身ほどの姿だったのだから。


 ――チュートリアル 敵を倒そう が発生しました。


「「「『『はい?』』」」」


 こちらに向かって来たスケルトン達は一定の所まで近づくとピタリと急に立ち止まり、何をする訳でもなくただ立ち尽くしていた。


 何故向かって来ないのかと困惑している中、スケルトン達の前に魔法陣が浮かび上がり、そこから現れたのはスケルトン達同様にデフォルメされた乃亜達だった。


 ――スマホから指示を与えてください。


 咲夜のスマホを見るとそこには〈攻撃〉〈道具〉〈逃げる〉の3種類があり、〈攻撃〉の箇所が点滅していた。

 どうやら〈攻撃〉をタップしろという指示のようで、咲夜達はそれをタップする。


『『『やああっ!!』』』


 するとデフォルメされた乃亜達がスケルトン達に向かって行き、各々が持つ武器でスケルトン達にだけ攻撃して元いた位置へと戻っていく。


『『『ギャッ!』』』


 すると今度は立ち尽くしていたスケルトン達がデフォルメされた乃亜達に向かってだけ攻撃して元いた位置へと戻っていった。


 ……ターン制のバトルゲームかよ!?

 今のところ単純すぎて別の意味でクソゲーだな。

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