第6話 アイドルムーブ

 

「超絶かわいい!め・ぐ・み!」

「恵!恵!おーれーの!恵~!」

「はいせーの!ハーイハイ、ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」


 ここはダンジョンであってアイドルのコンサートではないはずなのだけど……。


 そこかしこから聞こえてくるコンサートのコールのような掛け声が響いてくる。

 大丈夫なのかな、この学校の生徒達?


「はっ、まさか矢沢さんのスキルには洗脳の効果が……」

「むしろあったなら良かったわねぇん」


 素で人を引き付けてしまった結果なのか。


「テンションが高まっててミミックを倒す勢いが凄い、ね。周囲にいたミミックが凄いペースでいなくなってる」

「まあ僕らは体力温存しておけばいいんじゃないかな?」


 咲夜が少し引いてるような雰囲気で、ドンドン駆逐されていくミミックを眺めていた。


「咲夜さんはあまり騒がしいのは好きじゃないの?」

「ううん。ただちょっと、人の熱にあてられてビックリしただけ」


 集団で熱狂している様を見るのに慣れてない人には、確かになんとも言えない気分になるかもしれない。

 僕だって少し浮足立つ様な気分というか、胃の中がグルグルするような変な気分になるのだから、あまり人と関わってこなかった咲夜は、よりそれを強く感じているのかな。


『みんな~盛り上がってるー?』

「「「ウオーーーーーー!!!」」」

『よーし、それじゃあ2曲目[鋼の意思と肉体で]いっちゃうぞ!』


 スピーカーから聞こえてくる矢沢さんの声。

 しかしその声に僕らは首を傾げずにはいられなかった。


「矢沢さん、なんかちょっとおかしくない?」

「そうですよね。今の矢沢さんは何と言うか、ちょっとかわい子ぶってる女の子的な感じがします」


 乃亜の発言が的を射ていて、僕らはそれに頷いていた。


「会長がスキル使うと~、何故か口調がアイドルムーブになるみたい~。使い終わった後はいつも凹んでるよ~」


 女装だけでもデメリットなのに、スキルを使ってもデメリットが起こるとか切なすぎる。

 このみさんの話を聞いて、矢沢さんに同情せざるを得なかった。


「それにしてもあのスキル、バフがどのくらい持つのかしら?

 1曲目に受けたバフの効果はまだ続いていると思うけど」

「会長が歌ってる間はずっとかな~。1曲目が終わっても2曲目、3曲目と続いていたら~、その間はずっと1曲目で受けた効果が続くよ~」

「矢沢さんの喉がつぶれない限りは延々と効果が持続するんですか」


 僕はあまりの効果時間の長さに驚いていたら、和泉さんは首を横に振った。


「正確に言うなら、バフだけ恵のが続く限り効果が持続するわねぇん」

「あ~言われてみればそうだね~」

「仲間のスキルくらいキチンと把握して姉さん。あの派生スキルを使う機会は滅多にないから分からなくないけど」


 ライブとは一体?

 そう思って聞こうとした時だった。


 ――ドガンッ!


 壁を壊して現れた巨大なロボミミック。

 ミミック達が集合して1つの塊になっているようで、そこかしこに牙の生えた口が開いていた。


「59階層だとあんなヒーローもののロボットみたいなのも出てくるのか」

「それはない。あんなのが出てくるのはもっと下の階層で、今の階層には出ないはず」


 鈴さんが淡々と説明してくれるけど、そんな下の階層のミミックがここにいるのはかなりマズイ事では?


「はぐれってやつかな~? ごくたまに別の階層の魔物が出てくるんだけど珍しいね~」

「しょうがないわねん。こうなったらあたしが行くわ」


 和泉さんが颯爽とロボミミックへと駆けていくけど、あんな3階建ての建物くらい大きなもの相手にどうする気なんだろうか?


『頑張れケイー! 3曲目[こっち見ちゃヤダ!]』

「うふふ、ナイスタイミングよん」


 矢沢さんが歌い始めると、何故かロボミミックは全体的に動きがかなりぎこちなくなった。

 今度はどんな効果の歌なんだろうか?


「[こっち見ちゃヤダ!]は敵の視線誘導。文字通り会長のいる方向に視線を向けられなくなるスキル」


 強くないかな?

 視線が向けられないって、地味に厄介だよね?


 あのミミック達に視界というのがあった事にも驚きだけど。

 ロボミミックはミミックの集合体だから、ロボのあっちこっちで視線を向けないようにした結果、動かせる範囲が狭くなってしまったんだろう。


「一撃で決めるわよん!」


 あれだけ集合しているミミック達相手に一撃って、どうするつもりなんだろう?


 和泉さんは走る勢いを緩めず、そのままロボミミックの腹部へと跳躍して拳を振りかぶった。


「喰らいなさい、[ラブ・インパクト]!」


 なんか凄い名前のスキルを使った!?


 放たれた拳がロボミミックのお腹に当たると、まるで衝撃が全身に伝播し、全てのミミックが砕けて落ちてしまった。


「[ラブ・インパクト]は本来不人気商品のスキル。想いの強さで攻撃力と攻撃範囲が変動するスキルで、効果が不安定なのが理由。

 ケイがこのスキルを買ってきた時はどうしたものかと思ったけど、何故か普通に使いこなせてる。

 本人曰く「乙女は心も自由自在なのよん」。意味が分からない」


 確かに意味が分からない。

 あと乙女じゃないし。

 なんだか理不尽な者を見たような気分になった。


 しかしそんな悠長な事を考えている余裕は一瞬で無くなった。

 なぜなら、ロボミミックが現れた時以上の衝撃が僕らを襲ったのだから。


『ケケケケケ!』

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