第6話 各国の刺客

 

「オリヴィアさんも転校早々にダンジョンに来たんですか?」

「ああそうだ。いつもと潜っているのと同じランクのDランクダンジョンに来てみたんだ。ところで私というとそこの彼女の事、ではなさそうだな」

「はい。先輩のクラスに転校してきた方と先ほどダンジョンで遭遇したんです」

「そうか……」


 乃亜とオリヴィアさんの会話は分かる。

 お互い何を言っているのか傍から聞いてても理解できるよ。


「オルガさんもダンジョンに来るとは思わなかった」

「……お金」

「なるほど」

「……帰る?」

「うん。さっきまで潜ってたから」


 咲夜とオルガさんの会話は何故あれで成立しているかが分からない。

 オルガさん、魔道具を使ってなくて日本語をまだ上手く喋れないのかな?


 ……いや、魔道具使ってなくて上手く喋れないにしては会話をキチンと理解しているみたいだし、素であの喋り方な気がする。

 よくそんな子が日本に来ようと思ったな。やはり親の都合だろうか?


「先輩方とは学校で会うこともあるだろうからよろしく頼む」

「……じゃ」


 2人は少しの間話した後、ダンジョンへと入っていった。

 それにしても、放課後になってから結構時間が経ってるのに今から潜るなんて、何か用事でもあってこんな時間になったんだろうか?


 少しだけ転校生2人の事を不思議に思いながら、僕らは帰るために更衣室へと移動した。


 ……今日は残念ながらレベルは1しか上がらなかったんだよなあ。

 レベルがある程度高いと弱い魔物じゃレベルは上げにくいんだろうな。


 ◆


≪オリヴィアSIDE≫


 放課後早々にターゲット達がダンジョンに行ってしまったために戻って来るまで待っていたが、思ったよりも早く戻って来てくれて良かった。

 これでこちらをある程度認識してくれたから、今後も接しやすいというものだ。

 もっともそう考えたのは私だけではないようだが。


 成り行きで共にダンジョンに潜っている小柄な隣人へと視線を向けつつ、丁度いいから聞いておきたいことを聞いておこうか。


「貴様も私と同じ目的か?」

「………」

「だんまりか。

 だが貴様を見れば何の目的であの者達に近づいたのか容易に分かる」

「……あなたも」

「ああそうだ。ダンジョンには元々ついていけないから私でも問題なかったというわけだ」


 私と同時期に転校してきたオルガ・ポポワ。それにソフィア・グティレス。

 オルガは問題ないだろうがソフィアは危険だ。

 あれを彼らに近づかせるわけにはいかないだろうが、対象と同じクラスに所属しているのは厄介だな。


 先んじて手を打てればいいのだがどうしたものか。


「……何も」

「ん? 何が言いたいんだ」

「………」


 ちっ、口数が少なすぎてこいつとの会話は面倒だな。

 言ってる意味が読み取れる時と読めない時があって会話にならん。


「まあいい。お前がどうしようと私は私の目的を果たすだけだ」


 祖国のために少なくとも第一目的だけは必ず果たさなければいけない。

 私はそのために送り込まれたのだから。


「……無駄」

「何だと? どういう意味だ!」

「………」


 くそっ。ロシアも送るならせめて会話ができる人間を送るべきだろうが!


 いや、考えを切り替えろ。

 こいつと会話しようとすること自体が無駄だと思っておけば、そうイラ立つこともあるまい。


 私はため息を吐きながら初めて相対するであろうラミア相手にどう戦うか考えながら、さっさと分かれ道でこいつから離れようと思った。


 ◆


≪ソフィアSIDE≫


「さてワタシも地上に戻るとするかな」


 偶然を装って先ほどソウタ達と遭遇したところまで全力で移動してきた甲斐は……まああったとは思う。

 もっとも、ソウタ達が想定以上の実力を持っていて、ダンジョンの探索についていくのは1人では到底無理だという現実を認識させられただけなのだが。


 それを収穫があったと言っていいかは微妙だが、少なくとも他の国から送り込まれたあの転校生の2人では、Cランク以上のダンジョン探索を共にしたり偶然を装って遭遇したりは難しいので、ダンジョン内での警戒はそうしなくてもいいはず。


「それにしても、一瞬で地上にまで戻れるアイテムを持ってるとか羨ましい……」


 ワタシ、ここからまた元来た道を戻らないといけないのに~。


「幸いワタシのスキルなら敵とほぼ遭遇せずに移動できるとはいえ、大変であることには変わりないんだけどな」


 いや、ここはポジティブに考えよう。

 もう今後はダンジョン内にまでついていく必要がないのだから、この1回でいいと考えれば耐えられる。


「でも今からだと、おそらく家に帰れるの10時くらいだろうな……」


 うんざりした気分でワタシは移動を開始しながら、今の情勢と他の転校生の2人について思考を巡らせる。


 日本はSランクダンジョンを占拠していた【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がいなくなったことで、ある程度安全に魔物が狩れるようになった結果、もう迷宮氾濫デスパレードに悩まされることはないだろう。


 そんな日本を見て当然自分達もその恩恵にあずかりたいと考えるだろう。


 今来ているオリヴィア・ローズ・ウォーカーのイギリス、オルガ・ポポワのロシアには【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が出現して攻略不可能ダンジョンとなってしまったSランクダンジョンがある。

 イギリスでは1箇所ありロシアでは2箇所あるが、が深刻だ。


 なんせ迷宮氾濫デスパレード国が無くなってしまうのだから。

 そのため毎年少なくない数の冒険者や軍の被害を出しながら、ダンジョンに潜って魔物を間引いているのだから、一番必死なのはこの国とみて間違いないだろう。


 ワタシはオリヴィア・ローズ・ウォーカーが一番の要注意人物だろうと思いながら、地上へと戻っていく。


「一瞬で別の場所に移動できる力は実際にダンジョン内をこうして移動しているとより羨ましく感じるね。

 でもソウタ達は安全地帯に加え、それを利用できる能力をくだんの件で手に入れた。そりゃ他の国の連中も欲しがるわけだよ」



ーーーーーーーーーーーーーー

・あとがき

またラーテさんがファンアート描いてくださりました!

今度は冬乃です。

色まで付けていただき感激しております!!

よろしければTwitterでご覧いただければと思います。

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