5章

プロローグ

 

≪蒼汰SIDE≫


『これより我々はダンジョン遠征を行う。諸君らには既に通達してある通り、水曜から金曜にかけての3日間で、〔ミミックのダンジョン〕を出来るだけ深い階層にまで潜る予定だ』


 先週から冒険者学校に留学に来た僕らは、ついに本来の目的、ダンジョン遠征を行う事になった。


 僕らの現状のステータスを考えると、この遠征でようやくレベル100を超える事になるので、これでスキルスロットが増えて、新しいスキルが覚えられるはずだ。

 ……ようやくって言っても、まだ冒険者になって3カ月程度だけど、その3カ月の間に自分でまともに戦ってたのって最初の1カ月くらいで、あとの2カ月間は乃亜達の後ろでほとんど立ってるだけだったから、長かったと感じるよ。


『〔ミミックのダンジョン〕を占有ダンジョンにしているだけあって、レベル上げの効率などは確かにいいが、深い階層にいるミミックは、普段君達が相対しているミミックとは別物と思って行動する事を念頭に置いておいて欲しい』


 20階層辺りで動き回る甲冑のミミックがいたけれど、それよりもヤバいのがいるんだろうか?

 どんなミミックが出るのか想像つかないな。


『それでは各グループごとに、今からダンジョンに向かってもらう』


 パッと見た限り全校生徒の三分の二、600人ぐらいは参加するようだ。

 1班大体30人で行動するのか、20組の集団にまとめられているように見える。

 全員が一気に行動出来ないし、何グループかに分けるのは当然かもしれないけど、ダンジョンで30人もの集団で行動するのは初めてだ。


「しかしこれだけの人数がダンジョンに行ったら、倒せるミミックの数はそんなにないんじゃないかな?」

「そうでもないと思いますよ。聞いた話では、50階層よりも下はかなり広い上に、ミミックの数も多く、1パーティーだけで行くと凄い体力を消耗するらしいです。

 現れた矢先から近くにいるパーティーが始末していく事になると思うので、意外と倒せるんじゃないでしょうか?」

「周囲のパーティーの援護もあれば、自分達より戦闘力の高いミミックが出たとしても倒せるでしょうから、レベル上げも捗るんじゃないかしら?」

「蒼汰君が集めてる黒い石と白い石も沢山集まるだろう、ね」


 ミミックから時たまドロップする謎の黒と白の石の欠片。

 それが何故か僕のスキルと反応したため石を集めてみる事にした訳だけど、現在集まった石の数、黒が3283個、白が3158個。

 目標個数がどちらも5000個である事を考えると、今回の遠征で十分目標に到達しそうな気はする。


 レベル上げに加えて、この石の回収も行う事もしなければいけないけど、石の方は正直オマケでいいと思う。


「石はついででいいとして、レベル上げの方が重要だね。出来るだけレベルを上げて、よりランクの高いダンジョンに潜れるよう頑張ろう!」

「「「はい」」」


 気合十分に僕らは周囲の人達と共に〔ミミックのダンジョン〕へと向かった。



≪桜SIDE≫


 昨日土御門課長に異界の住人を見つけるための発見器であるペンダントを渡された。


 私の友人である冬っち達が“平穏の翼”という団体の中でも、ユニークスキルに恨みのある人間に襲われた時に、異界の住人が現れたとか。

 その異界の住人と接触した“平穏の翼”の人間から情報を絞り出し、現場に残された痕跡も調べつくした結果、この安っぽいペンダント型の発見器が作られ配られた。


 これを使う事で件の異界の住人を探せるらしいけど、使うには魔力を消費することになるのだから気が乗らないさ。

 しかも効果範囲が狭くて、せいぜいこの学校程度の建物を覆う程度だから、これで探すのは無理があると思うさね。


 今日学校に来る前に1度使ったけれど、当然のごとく反応はなし。

 もしかしたらとっくに遠くに移動してるかもしれないのに、わざわざ魔力を消費してまでこの発見器を使うのはハッキリ言って疲れるし面倒さ。


「そもそも何で今になって姿を現したのか、見当もつかないから不気味さね」


 100年くらい前にダンジョンを通じて異界と繋がってから、いくらでもこちらに接触する機会はあったはずなのに、これまで音沙汰なしだったくせに今になって現れるとか。


「あと100年くらいは接触してこなければ、こんな面倒な事しなくて済んだのに……」


 バイト先の人に聞かれたら、また白い目で見られそうだけど、まあ普段から白い目で見られてるから別に構わないさー。


「あ~そうだ。一応学校でも使っておくさー」


 現在昼休み中で、学校内には今日休んでいる人を除けば関係者全員がいる。

 なら今日1回だけ使っておけば、明日からは学校でわざわざ使用しなくて済むようになるし、面倒な事は早めに済ませておくに限るさ。


 朝学校に来る際にしたのと同じようにペンダントに魔力を込める。

 これに魔力を込めると魔術師にすら分からない微弱な魔力波が拡散し、ペンダントに登録してある人物がその魔力波に触れるとペンダントが赤く光るらしい。


 まあ今朝と同じようにペンダントが光る事なく、無反応――


 ――ピカッ


「……マジ?」

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