第17話 第二の試練〝雪の道〟(2)
エバノラの指示に従って早速僕らは迷宮への入口へと移動したわけだけど……。
「手を握るだけだとほとんど寒さが防げないからって、これはどうなの?」
入口への移動中、どの程度の接触で寒さを遮断できるかを試してみたんだ。
男性Cのグループは発情が辛いのかそんな余裕は無くて、試したのは僕らと男性Bのグループだけだけど。
その結果、手を繋ぐだけだと今も吹雪いている風を感じなくなる程度で、雪が積もってる中水着で外にいるのと変わらなかった。
つまり、寒くて耐えられない。
手を繋ぐ程度ではダメならもう腕を組むしかなかったのでそれを試すと、寒さは大分和らいで冬に入る直前の秋ぐらいだった。
寒いと言えば寒いけど、なんとか耐えられなくはなかった。
しかし長時間その寒さに耐えるのはかなりきつそうな感じではある。
ならばと完全に寒さを遮断でき、かつ移動できる手段はないかと試した結果――
「水着でおんぶはヤバくない?」
「わたしは幸せですよ。先輩は背中が幸せですか?」
「……ノーコメントで」
ヤバいね。
「乃亜ちゃん、時間が経ったら交代だ、よ」
「分かってますよ咲夜先輩。女同士で抱き合っても寒さは遮断できませんからね」
男と女が抱き合っている時に限り寒さが遮断できる設定だったため、咲夜が冬乃をおんぶしたところで意味はなく、結果として僕は乃亜をおんぶし、冬乃と咲夜に腕を組まれている状態だ。
「人数が多いから花の数も他のグループより1人分多いけど、その分移動が大変だから若干不利かな」
「幸いなのが順位を争う訳じゃないところね。もっとも、移動が遅ければその分あの花に追いつかれる危険が高まるんだけど」
冬乃の言う通りなんだけど、顔を赤くしている上に寒さのせいか体をより密着させようとしている今の状況のせいで、そちらに意識を持ってかれてそれほど緊張感を持てられない。
水着という薄着でおんぶと腕組をして触れあってるとか、感触がダイレクトに伝わってきてドキドキしてしまうよ。
まあ追いつかれても死ぬわけではないのもあるかもしれないけど。
……いやある意味死かな?
結婚は人生の墓場って言うし、万が一にでも子供が出来ようものなら社会的にも死にそうな気がする。
お腹の大きくなった冬乃達と登下校。………………うん、違った。物理的に殺されちゃうな。男子生徒と乃亜の親兄弟に。
『はいは~い。あなた達準備はいいかしら? そろそろ始めるわよ!』
過ちを犯してここを出たらどうなるかを考えたら、意地でもあの花から逃げきってやると覚悟が決まった。
「よし、みんな逃げ切るよ!」
「「……え?」」
「逃げるに決まってるでしょうが!?」
乃亜と咲夜が1回くらい花粉を受けててもいいんじゃない? みたいな様子だったので、冬乃が眉間にしわを寄せて叱責していた。
『それじゃあ試練開始~!』
エバノラの合図とともに僕らは一斉に迷路へと侵入していく。
男性Bのグループがやはり移動が一番早くて、発情していないし3人しかいないだけはある。
続いて僕らのグループが早く、男性Cのグループが一番遅い。
発情状態になると動きが鈍るのであれば、植物のアンにすぐに追いつかれるだろうし男性Cのグループがこの試練を突破できるかは怪しいところだ。
しかし今は他人の事より自分の事。
早速僕らの目の前には分かれ道が存在し、T字路になっていて右か左かの選択をしないといけない。
「どっちに行けばいいんだろ?」
「ヒントらしきものはありそうにないですし、適当に進んでみるしかないですかね?」
「でも乃亜ちゃん、行き止まりだった、ら?」
「追いつかれて花粉をかけられるだけなので、むしろ好都合では?」
「赤の花を使って壁をすり抜ければいいでしょうが!」
行き止まりならアンから逃げるために赤い花を使うしかないだろうけど、できれば花は極力温存していざという時に使いたいね。
僕らの持っている花は赤が3つ、青が5つ、緑が4つだ。
この迷路でおそらくもっとも有効な赤の花が3つしかないのが非常に残念だ。
色とか気にしている余裕が無かったから、第一の試練では見つけた物を手当たり次第に摘むしかなかったとはいえ、僕らが壁を通り抜けるには1回につき赤い花が2つ必要だと考えると、1回しか壁をすり抜けれないのは厳しい。
その上赤い花が1つ余ってしまうのがもったいなく感じる。
だからと言って、二手に分かれる意味が無いどころか、むしろデメリットでしかないから無理に使ってもしょうがないんだけどね。
「とにかく動かないことには仕方ないし、とりあえず左に行こうか?」
「左回りの法則ですか?」
「何それ?」
「人は無意識に左に進んでしまう法則です。なのでお化け屋敷とかだと順路をあえて右回りにしてるとか」
「う~ん、じゃああえて右にしておこうか。エバノラが僕らを迷わせるために左を行き止まりにしている可能性が高いし」
「それはエバノラが知っているか次第でしょ。でも何回もこの試練をしているならそのくらい知っていてもおかしくない気もするわね」
「最悪ハズレでもいいから、ね」
「「いや、ダメでしょ」」
僕と冬乃が声を揃えて咲夜にすかさずツッコミをいれていた。
やはり命の危険が薄くて冒険者学校の時のような切迫感がないせいか、緊張感を維持できないな。
僕らは若干緩い感じで迷路を進んでいった。
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