第5話 [アイドル・女装]

 

「いや、多すぎでしょ!?」


 僕らは進むペースが徐々に遅くなりつつも、確実に下の階層へと降りて行ったのだけど、59階層で突然出てくるミミックの数が異様な事になっていて、体育館並みの広い空間に入ったら、まるでモンスターハウスの時のようにミミックが押し寄せてくる。


「59階層は60階層へ行くための試練だって言われてるよ。これを突破出来る実力がないと、60階層に行くのは危険だろうね」

「矢沢さん達は手伝ってくれないんですか!」

「ボクらはいざとなったら手を出すかな。1年生とかまだレベルの低い子達はここで一気にレベルを上げられる代わりに、実力不足と判断したら地上に帰ってもらう事になってるし」


 つまりここが一種の関門となってるのか。


「じゃあここは全力で――」

「君たちの実力は把握してるから、ほどほどでいいよ」


 止められてしまった。

 ここで僕らも一気にレベルを上げたかったのに……。


「君達が張り切っちゃうと、レベルの低い子達が頑張ってここまで来た意味が無くなっちゃうから。

 60階層へ行けば人数が少なくなって魔物を狩る機会が増えるから、ここで無理しなくても大丈夫だよ」


 そういう事なら安心だ。


「それじゃあ僕らは近づいてきたミミックだけ倒していこう」

「「「了解」」」


 そうして僕らは適当にミミックを倒していった。


 倒していったミミックの中には、ミミックの中にミミックがいてそこからさらにミミックが出てくるミミックもいた。

 う~んゲシュタルト。


 マトリョーシカに擬態していたのか、そんな感じのミミックもいたと思えば、上の階層で見かけた甲冑型のミミックもいて、色々な強さのミミックが現れているのかと思ったけど、実は違った。


 甲冑型のミミックも、上の階層では手や足だけが本体というパターンだったのに対し、ここでは手担当、足担当、頭担当といった具合に全身が別々のミミックの集合体で、下手に近づくと甲冑全体に牙が生えて噛みつかれてしまう。


 油断した生徒が1人怪我を負ってしまったけど、すぐさま鈴さんが短剣でそのミミック達を一瞬で切り刻んでしまった。


「油断しない」

「……っ、はい!」


 まるでアサシンみたいな黒装束の恰好をしており、防御力は薄そうな装備だけど、その分軽装なので身軽さ重視しているんだろう。

 初めて会った時、僕に一瞬で近づいてきたし、高速で移動して敵を倒すスタイルなんだろうね。


 このみさんはたまに火の遠距離攻撃で他の生徒を援護しているので、火魔法のスキルをおそらく持っていて、和泉さんはそのたくましい肉体を裏切らず、拳で敵を粉砕しているので肉体強化のスキルを持ってるはず。

 ……まさかスキルを使わず、素の身体能力だけで敵を殴り倒している訳ではないと思いたい。


「そろそろかな……」


 おや、矢沢さんがポツリと呟いて動き出した。


 確かに戦闘を開始してから1時間近く経っており、息を荒げている生徒も出てきている。

 何か援護するなら今のタイミングが良さそうだけど、ついに見れるのか。

 僕ら以外のデメリットスキルの力を!


 その僕の考えは的中しており、矢沢さんが声を張り上げた。


「みんな! 今からみんなを強化するから心構えしておいて!」


 支援系だと言っていたスキルだし、何も言われずに強化されたら体の感覚が狂い――


「「「Yeeeeeah!!!!!!」」」

「え、何?」

「わっ、なんですか?」

「ちょっ、うるさ!」

「ビックリした」


 突然あちらこちらで響く歓喜の声。

 僕ら以外にも、1年生と思わしき生徒達も先輩達のテンションが急に上がった事に驚いている。


 僕らが困惑している中、ついに矢沢さんがスキルを使用した。


「[アイドル・女装]派生スキル[コスチュームチェンジ][マイクセット]」


 制服をベースにした飾りの多い赤い衣装に服装が変わり、手にはマイクが、足元には大きなスピーカーが現れた。


『いくよ1曲目! 派生スキル[戦え! 私の戦士たち]』


 え、その曲名みたいなのもスキルなの?


『~♪』


 アップテンポの激しい歌がスピーカーを通じて、大勢の人へと伝わっていく。


「「「HEY! HEY! HEY!」」」


 先程歓喜の声を上げた人々が、まるでアイドルのコンサートかのように熱狂しながら敵を倒していく姿は、若干不気味だ。

 その不気味さから少し引いていた時、ふと自分の身体に違和感を覚えた。


「あれ、体が軽いような?」


 なんだか体から力が湧いてくるような気がするし、気分が高揚してきたような?


「うふふ、恵の派生スキル[戦え! 私の戦士たち]は味方に身体強化と士気高揚を付与する効果があるのよん」


 近くにいた和泉さんがスキルの効果を教えてくれたので、効果は理解できた。

 しかし驚いたことがある。


「これだけの人数をいっぺんに強化出来るんですね」

「そこが恵の凄いところよん。自分が味方だと認識している相手全員にバフをかけられるのだけど、この人数をまとめてかけられるのは恵くらいなものでしょうねん」


 それはそうだろう。

 なんせ今現在この空間には、ダンジョン遠征に参加した人の実に半分、300人近い人間がいるのだ。

 その全員にバフをまとめてかけられるなんて、どれだけ強力なスキルなんだよ。


 さすが生徒会がこの学校で最強のパーティーと言っていただけあって、その生徒会長は規格外なスキルを持っているようだ。




 常時女装しないといけないけれど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る