エピローグ1
≪桜SIDE≫
「冬っちが冒険者学校に留学しに行ったから、暇でしょうがないさね」
「あなた、この状況でよく暇だなんて言えたわね」
今私はアルバイト中であり、他の魔術師達と一緒にパソコンの前でダンジョンからリソースの回収作業をしている最中さ。
全員がせわしなく指を動かし、少しでも多くのリソースを必死に回収しようとしている時に暇発言なんてしたものだから、隣に座っていたOL風の女性がこめかみをピクピクさせながら怪しい笑顔をこちらに向けて来たけど、たとえ忙しかろうとも暇で退屈だと感じるのはしょうがないさね。
先週冒険者学校に行ったから、今日入れてあと4日か~。
土日もどうせ会えないから、正確には6日だけど。
あー、早く冬っちをからかって遊びたいさ~。
「この仕事がどれだけ大事な事か、あなた分かってるの?」
「リソースの回収を怠ったダンジョンでは【
「そこまで分かっていて何故やる気を出さないの?」
「それはそれ。これはこれ」
「こいつ……!」
先ほどよりも怒りのゲージが上がっている隣人は無視して、適当にリソースの回収作業を続ける事にするさ。
確かにこのリソースの回収作業は重要な事だけどこんなの焼け石に水だし、SとAランクのダンジョンから【
Bランク以下のダンジョンで出現した【
むしろ【
「先輩、人に注意してるけど自分の作業はいいのさ~?」
「分かってるわよ! くっ、手だけはちゃんと動いてるから、軽口叩いてるだけじゃ軽く注意するぐらいしか出来ない……!」
ぼんやりとしながらアルバイトをこなしていると、土御門課長がどこからか戻ってきた。
リソースの回収は下々の者に任せて、自分は優雅にティータイムさね?
「訝し気な目で見るのは止めたまえ。私もやるべき事をやっていたところであり、けしてサボっていた訳ではないのだから」
「ホントさ~?」
「……はぁ~」
「ため息は幸せが逃げるって言うから、あまりしない方がいいんじゃないさね?」
「ため息の原因は誰のせいだと思っているのか……」
額に手を当ててどこか疲れた表情をしているけど、少なくとも気疲れを感じるのは自分自身がそう感じ取るせいなので私じゃないさね。
「まあいい。全員手を止めて一度こちらを見てくれ」
土御門課長はこの部屋にいる全員にそう言うけど、わざわざ手を止めさせるほどの重要事項といったら、やっぱりあれかな?
「全員分かってると思うが、先日ダンジョン内で異界の住人の痕跡を得ることが出来た。それはユニーク殺しの犯人3名の内、2名が接触していたのでそいつらから情報を抜き取ったりした結果な訳だが――」
ああ、結局廃人になったっていう2人の事か。
残り1人は目を覚ました後、こちらの指示に素直に従って冒険者用の拘置所で不気味なくらい大人しくしているらしいけど、廃人になろうが大人しくしていようが、他人に危害を加えない状態になっているのならどっちでもいいさね。
「あの事件から時間はかかったが、普段の作業の合間を縫ってようやく完成した物を今から全員に配る」
土御門課長が近くにいた河西班長に指示すると、班長が私達に妙なペンダントを配り始めた。
「安っぽいペンダントさ~?」
「おまっ、それ作るのがどれだけ大変だったと……!」
河西班長が隣にいるOL女性と同じようにこめかみを引くつかせているけど、どこからどう見ても怪しげな露店で売ってるようなペンダントにしか見えないからしょうがないさね。
「……諸君らにはそれを常に身に着けて行動して欲しい」
「このデザイン性皆無のただのペンダントを?」
「………」
「言いたいことがあるなら、言った方が精神的に良いと思うさ」
「……いや、いい」
喉元まで出かかった言葉を必死に呑み込んだような表情をしながら、土御門課長はこのペンダントを私達に見える様に掲げてきた。
「このペンダントは異界の住人の痕跡を元に造り上げた、件の異界の住人を見つけるための発見器だ。諸君らには日常生活をする上で時折起動させ、近くに潜んでいないか探してみて欲しい」
「普通ならとっくにどこかに行ってるんじゃないかな? それにその話しぶりじゃ、他の異界の住人は見つけれないように聞こえるさね」
「……確かにこれは現場に痕跡を残した人物しか探せないが、その人物が近くにいる可能性は0じゃない。
なんとしても探し出して、その目的を聞きだすためにみんなには協力をお願いしたい」
確かに異界と繋がってからというもの、向こうの世界にいる知的生命体が一切表に出てこず、こちらにコンタクトをとってこないのだから、なんとしても探し出したい気持ちは分からなくもない。
いつの間にかこちらの世界に潜んでいたようだけど、一体何の目的があってこちらにいるのか――
それを考えるのは私じゃないからどうでもいいさー。
そういった面倒な事は上の人が勝手にやるから、私は今まで通りの生活を送るだけさね。
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