第6話 襲撃者

 

 僕らは朝ご飯を共にとり、〔ゴブリンのダンジョン〕へと手をつないで一緒に訪れた。


「付き合ってるのあなた達?」


 冒険者組合施設のロビーで待っていた白波さんから開口一番そう尋ねられるのは、男女で手を繋いで来たのだから仕方のないことなのかもしれない。


「違うよ。乃亜のスキル対策だから」

「ああ、なるほど。やっぱり高宮さんのスキルって生活に支障をきたしてるのね」


 乃亜がどれだけスキルのデメリットのせいで酷い目にあったか白波さんは聞いているので、それを察して同情しているけど、何故か乃亜が少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「むぅ~、そんなキッパリ否定されなくても……。わたしとしては先輩がこのまま付き合ってくれても全然OKなのですが」


 どうやら僕が即行で否定したことに対して怒っているようだった。


「あなた達が付き合うのは勝手にすればいいけど、ダンジョン内で男女のいざこざを持ち込むのは止めてよね」

「分かってますよ、白波先輩。浮ついた気持ちで探索をすれば大怪我につながりますからね」


 肉体的によりも精神的にダメージが行くからね。

 乃亜の[損傷衣転]でダメージを衣服が肩代わりしてしまうせいで、大ダメージを食らえば強制的に全裸にされてしまう。

 もしもそれを他の冒険者に見られたら、体は無事でも心に酷いダメージを負うのは間違いないよ。


「だったらいいけど。それじゃあ早く準備して早速行きましょ」


 今日の目的も再び、ボス部屋へと赴き経験値稼ぎと金稼ぎだ。


「それにしてもこの〔ゴブリンのダンジョン〕程度なら結構余裕で探索できるようになったね」


 僕以外。だって2人のサポートをしてるばかりで、ほとんど戦ってないし。


「何度か周回してレベルを上げたら、ランクが1個上のダンジョンに行くのもいいかもしれないわね」

「まあその事は後で相談しようか。今はこっちのダンジョンに集中しよう」


 僕らは一旦分かれて各々準備して集合した後、いつものように多目的トイレにて[チーム編成]の登録をした。


 ◆


 僕らは順調に1階層から順番に下の階層へと降りていく。


 ダンジョンの構造は変わらないので、道さえ覚えていればFランク程度の狭いダンジョンならすぐに下の階層へと行けるため、放課後の短い時間でも下の階層で探索できる。


 それに加えて、ダンジョンは各階層の階段付近に転移魔法陣があるので、帰りはそれでダンジョン入口へと戻れる。

 もしもそれがなかったら放課後の短い時間ではレベル上げも順調にいかず、今よりももっと低いレベルのままなのは間違いない。


 残念なのが一方通行なので、帰りにしか利用できないことだけど。

 そうじゃなかったらボス部屋にすぐに移動できたのにな。


 そんな事を思いながら、5階層へと降りてしばらくした時のことだった。


「誰か来たみたいね」


 白波さんが狐耳をピクピクと動かしながらそう言ったので、僕らはそちらの方を注視する。


 前から誰かが歩いて来たようで、僕の耳にもコツコツと音が聞こえて来た。

 ゴブリンは裸足で行動してるので、明らかに冒険者であることが分かる。


 誰が来たのかと思ったら僕らと同年代くらいの少女が1人で現れた。

 少女の身長は丁度僕と同じ170センチくらい。

 茶髪混じりで肩甲骨くらいまでありそうなゆるい巻髪を、左耳の後ろ辺りで無造作にポニーテールにしていた。


 ダンジョン内は薄暗いので分かりづらかったけど、よくよく見ると顔立ちの整った美人で何故こんな人がここにいるんだろうと思った時だった。


「咲夜と、戦え」


 あまりにもいきなりすぎて困惑してしまった。


 ◆


 少なくともここ数日では聞いたことが無い名前のようで、サッパリ思い出せられなかった。

 なんて無駄な回想だったんだ。


「何故いきなり襲って来たんですか!?」

「そんな事はいいから戦え」

「くっ、全く会話をする気がないんですね」


 乃亜が大楯で女性の拳や蹴りを受け止めながら、何故襲って来たのか問いただそうとしてるけど、向こうは話す気がないようで容赦なく攻撃を仕掛け続けてくる。


「[幻惑]」

「んっ?」


 白波さんが放った紫色の煙が女性へと当たり、女性の拳が乃亜から逸れて見当違いの方向へと攻撃しだした。

 手応えに違和感を持っているのか女性は首をかしげていた。


「どうする? こんなの相手にするのは面倒よ」

「そうですね。何故襲ってきたのかは不明ですが、とっとと逃げてしまいましょう」

「それなら気づかれないようコッソリ行こうか」


 僕らが逃げようとした時、女性の体の周りがわずかに緑色に発光した。


「幻、か」

「嘘!? すぐに見破られた!」


 本来白波さんの[幻惑]はかかっていても、軽く衝撃を受けただけで効果を失ってしまうけれど、僕らは女性に何もしてないのに効果から逃れられたため、全員が驚いてしまった。

 その隙をつかれた。


「そっちの2人とは戦った。後はあなた」


 そう女性がつぶやくと僕に向かって一直線に駆けて来た。


「先輩!?」


 乃亜が間に割り込む間もなく、女性は僕に近づきその拳を放ってきた。


 その拳はこちらが動くよりも速く僕の体に向かってくるけれど、誰も止めることは出来なかった。

 頭ではその拳を避けないといけないと分かっているのに、そんなに速く体は動くことが出来る訳もなく、徐々に近づいてくる拳に対してなす術はなかった。


「?」


 一瞬女性が首を傾げたようなしぐさをした後、僕にその拳が届く寸前で握りしめていた拳を開き、何故か掌底へと切り替えた。


 ――バンッ!

 ――パンッ!


 2つの音がダンジョン内に響いた。


 1つは僕の体と女性の掌底がぶつかった音。

 もう1つの音は受けたダメージがせいで、僕の着ていた服が弾け飛んでしまった音だ。


「えっ?」

「ぐはっ!」


 痛ってえええええ!!!


 服が全て弾け飛んだという事は、当然服が肩代わり出来なかった分のダメージを僕が受けたという事。


 全裸であることを気にする余裕もなく、僕はその場でうずくまった。

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