第26話 謝罪

 

≪蒼汰SIDE≫


「鹿島はいるかしら?」


 教室の外から誰かが僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


「鹿島君ならあそこにいますけど……」

「そう、ありがとう」


 そう言って教室に入ってきたのは白波さんだった。

 トレードマークの狐耳と尻尾を揺らしながら僕の方へと近づいてくる。

 一体どうしたのだろうか?


 そしてクラスメイトの男子諸君。

 またこいつか、みたいな目で見ないでくれません?

 殺意がこもってて怖いですよ。


「蒼汰~なぜ貴様ばかり……」

「ふふ、落ち着きなよ大樹」


 大樹をなだめてくれるのは助かるんだけど、また面白いことになりそうだなって顔して見ないで彰人。


「ちょっといいかしら?」

「え~っと何か用かな?」

「………」


 黙ったまま何か言いたげにしているけどどうしたのだろうか?


「こ、ここではあれだから放課後少し時間をもらいたいのだけど……」

「いいけど、放課後はダンジョン行くからあまり時間はとれないのだけど」

「大丈夫よ手短に済ますから。ただできれば2人だけで話したいの。放課後体育館裏に来てもらっていいかしら?」

「分かったよ。それじゃあ放課後に」

「ええ、お願いね」


 白波さんのピンッと立っていた狐耳が少し緩んだので、おそらく少し緊張していたのかもしれない。

 表情には出なくてもケモ耳や尻尾に出てしまうのは大変だなと思いながら――


「それでどう言うことなんだ? もちろん説明してくれるよな~」

「知らん」

「「「ギルティ!!」」」


 この嫉妬の鬼共をどうあしらうべきか考えねばならなかった。

 いやホント、白波さんがなんの用事で話しかけてきたのか分からないから。


 なんとかクラスメイトの追及を躱して放課後となったので、まずはある人物を教室で待つことにした。


「先輩、今日もダンジョン行きましょう!」


 ほぼ毎日のように放課後、乃亜が教室にやってきてダンジョンへと誘ってくるのだ。


「きゃっ!?」

「うおっと」

「あ、ありがとうございます先輩……」


 そして何かしらエッチなハプニングが僕と起こる。

 今日はつまずいて僕に抱き着く程度なのでマイルドな方だね。

 一番やばかったのは色々あって乃亜が僕の顔面に座ったやつだろうか?

 リアルであんな事ってあるんだね。


「オ、オレガオマエヲナグッテモユルサレルハズダ!!」

「片言になってて怖いよ大樹」


 ただ教室でそのハプニングを起こしてるので、毎回クラスメイトの前で見られているのがかなり問題だと思う。

 彰人以外の男子がここ最近すごい目で見てくるんだよ。

 今日は白波さんの件もあって余計に目が鋭くなっている気がする。


「ごめん、乃亜。ちょっと用事を済まさないといけなくて、すぐに済むはずだから待っててもらっていいかな?」

「そうなんですか? 珍しいですね。先輩がダンジョン以外のものを優先するだなんて」

「ほっとくと余計に面倒なことにもなりかねないから」


 なんの用事かは分からないけど、少なくとも告白の類でないのは先日の様子から間違いない。

 ただホントなんの用事なんだろうか?

 告白の前段階みたいな誘い方だったせいで、授業中に大量のメモが飛んでくるくらいにはクラスメイトの追及がしつこかったけど。


「分かりました。それではしばらくお待ちしますね」

「うん、じゃあ行ってくる」


 そして僕が乃亜を教室において体育館裏へと訪れると、すでに白波さんがそこで待っていた。


「遅かったわね」

「ごめん、ちょっと色々あって。それで何の用かな?」

「えっとね、その……色々酷いこと言ってごめんなさい」

「はい?」


 急に謝られてしまったが一体何を言っているのか分からなかった。


「初めてダンジョンで会った時や2度目に遭遇した時、ハーレムを目指しているものだと勘違いして色々と暴言を吐いてしまったじゃない。

 だから、その、謝りたくて……」


 おや? 人の話を聞かない高飛車な性格かと思っていたけれど、意外と素直に謝れる人だったのか。


「ふ~ん、それで先輩をこんなところに呼び出して今更謝罪ですか。謝るならもっと早く謝るべきだったんじゃないんですか?」

「えっ、乃亜!?」


 後ろから突然声が聞こえてきたので振り向くと、そこには乃亜が仁王立ちしていた。


「し、知らなかったのよ。鹿島がハーレムを目指してないって聞いたのが今日だったから……。それに私はあなたにも謝りたくて……」

「わたしはあなたから何一つとして話を聞きたくはありませんけどね」


 おおぅ……。

 乃亜は未だに先日の件を根に持っているのか、あからさまに不機嫌そうな表情をしていた。


「先輩に謝れたならもうそれでいいじゃないですか。わたしはハーレムを悪く言ったあなたとは関わりたくありませんし、あなただって家族がハーレムであるわたしを汚らわしいとでも思っているのでしょう?」

「違う!!」

「「っ!?」」


 あまりにも必死な表情で大声で否定した白波さんに、僕も乃亜もビックリしてしまった。


「私が汚らわしいと思うのはちゃんと1人の女性を見ようとせずに、複数の女を囲うことを目的として行動している男や平気で浮気をするような男だけよ!

 けしてあなたの家族を侮辱する気はこれっぽっちもないわ。

 あなたが私に対して怒りを持つのは当然よ。だって私だって家族を侮辱されたらそいつを燃やしたくなるもの」


 物騒だな。


「だから高宮さんごめんなさい! そして鹿島もごめん、何も知らないのに一方的に決めつけて暴言を吐いてしまって……」

「僕は別にいいけど……」


 白波さんにはモンスターハウスから助けてもらった恩があるし、もともとたいして気にしてなかったからいいんだけど、乃亜はこの謝罪を受け入れるのだろうか?


「………」


 長い沈黙が場を支配するも白波さんは頭を下げた姿勢のまま、ピクリともせずに深い謝意を示し続けた。

 その様子に乃亜の方が折れたのかふぅっと息を吐く。


「分かりました白波先輩。その謝罪を受け入れますから頭を上げてください」

「高宮さん……」

「正直に言えばまだわだかまりはありますが、キチンと頭を下げて謝ってくれた相手を無下にはしません。でも次またハーレムを悪く言ったら今度こそ許しませんからね」

「わ、分かったわ」

「はい。それじゃあ行きましょう先輩」

「あ、うん。じゃあね白波さん」


 乃亜がこの場を立ち去っていくのでその後ろ姿を追いかけ横に並ぶ。


「ところで乃亜。教室で待っててくれるはずでは?」

「すいません先輩。上級生の教室で待っているのは居心地が悪くてついてきてしまいました」


 あー確かに。

 その辺の配慮をしなかった僕が悪かったよ。


 いつもの様子に戻った乃亜を見てホッとした僕は日課のダンジョンへと行くべく、乃亜と一緒に教室に荷物を取りに戻った。

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