第48話 〔太郎坊兼光・天魔波旬〕

 

≪蒼汰SIDE≫


 ああガチャしたいガチャしたいガチャしたいガチャしたい。


 心の中から溢れる感情に逆らわず、僕は目の前の敵を排除するために行動する。

 先ほどまで膨れ上がっていたガチャ欲のせいで頭がのぼせ上っていたのに、まるで一周して正常に戻ったかのように今はスッキリとしていて、1つの目的に集中できている。



 そう。僕は外に出て自分のスマホでガチャを回すんだ。



「真髄を見せろ、〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕」


 だから力を寄こせ。僕のとなって。


 毛の無い筆だった〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕は変化し、今は〔典外回状〕により日本刀になっていた。

 ただし、鍔から先が存在していない刀とも呼べない代物だけど。


 でも問題はない。

 これに変化した後の使い道は頭に流れてきている。


「〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕」


 僕の【典正装備】である黒い紙が黒い光の粒子となって分散した次の瞬間、右手に持っている刀の鍔に収束していき黒い刀身へと変化していった。


『ガチャガチャガチャ』


 【Sくん】は近くに来ている乃亜達よりも僕を脅威に思ったのか、ガチャで出てきた3つの【典正装備】の内2つを構え、残りの1つでその身をいつでも守れるようにしていた。


 〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット

 〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション

 〔曖昧な羽織ホロー コート


 僕の知る中でも強力な遠距離、近距離攻撃のできる【典正装備】であり、そして互いに干渉不可となる【典正装備】。

 このタイミングでかなり強力な【典正装備】を引き当てたようだ。


 だけど


 〔桃源鏡エンドレス デイリー〕を引き当てられず、その程度の【典正装備】しかガチャから出せなかったガチャ運のないお前では僕を止められない。


『ガチャー!』


 右手に持つ〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕から放たれる炎の塊。

 射出される炎はあまりにも速くて大きく避ける術なんてありはしない。


 もっとも、無理だと分かってるから最初から避ける気なんて無いのだけど。


「ぐうっ!」

『ガチャ?!』


 まるで動く素振りの無かった僕に驚いている【Sくん】。


 さすがに〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕の炎の直撃はキツイな。

 【Sくん】仕様なせいで冬乃が使うのより威力が高い。

 いくら乃亜の[損傷衣転]や[カジノ]で手に入る魔道具の〔替玉の数珠〕を使ってダメージを軽減していても、これだけダメージが大きいと火傷を負うレベルだ。


 アリスのような服も体もボロボロとなってしまった。だけど問題ない。


 僕は吹き飛ばされた後もすぐに起き上がって駆けだし【Sくん】へと近づいていく。

 冬乃はよく連射するけれど本来〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕にはインターバルがあるから連射は出来ない。2発目がないと分かっているから出来ることだ。


 【Sくん】はすぐに使えないと判断した〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を投擲する構えを取りだした。


 あ、マズイ。


 そう思った時には〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕を使用しており、あれを投げつけようとしているのが分かった。


『ガ――』

「ばぶ(〈解放パージ〉)」


 後方から飛んできた炎が【Sくん】が投げようとした〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を吹き飛ばしてくれたお陰で、死ぬようなダメージは負わずに済んだ。

 なら後は走るだけだ。


 ドンドン近づいて来る僕に対し、【Sくん】のとった行動は回避だった。


 何故か僕に対して不審なものを見る様な、奇妙なものを見る様な目をしていた【Sくん】はせっかく〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕を使用しているにもかかわらず、安易にも絶対安全な〔曖昧な羽織ホロー コート〕で逃げることを選択していた。だから――


「お前の負けだ【Sくん】」

『ガチャッ?』


 何を言っているんだという目を向けてくる【Sくん】目掛けて、僕は自身の手に持っている〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕を振り下ろした。


『ガチャ?』


 僕の行動が理解できなかった【Sくん】は何をしているんだという風に問いかけてきているようだった。


 それもそうだろう。

 なにせまだ刀の届く様な間合いではなく、距離にして20メートルは離れているのだから。


 


 振り下ろした刀は刀身が粉々に砕けて消えてしまう。


『ガチャーーー!!?』


 その次の瞬間、【Sくん】は自身の周囲から突然生えて絡みついてくる黒い枝に対して驚愕の声を上げていた。


 それはそうだろう。なにせ〔曖昧な羽織ホロー コート〕はまだ発動しているのだから。


 〔曖昧な羽織ホロー コート〕で干渉できなくなっていたはずの【Sくん】があんな目に遭っているのは当然〔太郎坊兼光ヘゲモニー オブ天魔波旬デーモンキング〕の効果だ。

 その効果は必中と真に迫る〔典外回状〕。


 どんな手段を用いて攻撃を防ごうとしても、あらゆる干渉を素通りして敵に必ず中るのだ。

 効果範囲は20メートルであり、どんな攻撃が中るかは刀身にした【典正装備】によって決まる。


 今回刀身に用いたのは〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕のまだHPや体力を吸収していない黒い紙。


 その〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕は〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕の時以上の疑似的な〔典外回状〕によって強化された効果を発揮。


 【Sくん】に絡みついた黒い枝が白く染まっていくにつれ、【Sくん】の動きは鈍化。

 〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕が【Sくん】からHPと体力を奪っており、それは僕に還元されるので先ほど受けた火傷はあっという間に治っていく。


 【Sくん】はこれ以上HPと体力を奪われて堪るものかと拘束状態をなんとかしようと試みるもどうにもならず、ガチャから出るアイテムでどうにかしようもあの枝をどうにかできる物は出てこなかった。


 結果として【Sくん】は見る見るうちにやせ細っていき、そしてついに動かなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る