第50話 効果切れ
『まあ分断されたのであれば、その原因を排除すればいいだけですが』
そう言って謙信は素早くバリケードの扉に向かって駆けだした。
「させない」
だけど咲夜が素早く足元の石を拾うと、謙信目掛けて投擲する。
『おっと。やはりそう簡単にはさせてくれませんか』
投げられた石を易々と避けて言うけど、言葉とは裏腹にもの凄く余裕を感じるのは僕の気のせいじゃないと思う。
もしかしなくても、本気を出せばすぐにどうとでもなるにも拘らず遊んでいるとしか思えない。
だけどだからこそ僕らが今生き残れているので、出来れば本気は出さずにいて欲しいと切に願うよ。
『先輩……』
『どうしたの乃亜?』
乃亜が深刻そうな表情でこちらに近づいて来る。
今はまだスケルトン達の数が少ないお陰で冬乃達が足止め出来ているけど、出来れば唯一〝金剛冥助〟で強化されているスケルトンを倒せる乃亜には、今のうちに一体でも多く倒して欲しいのだけど。
『[強性増幅]の効果が切れました』
『えっ、マジ?!』
『そのせいでスケルトンを大楯で殴っても、倒すことが出来なくなってしまったのでお願いします』
『今!? ここで!?』
大樹達がいて、【
『迷ってる場合じゃないでしょうが蒼汰! あの扉が壊されたらそんな事する暇なんてないんだから、とっととしなさい。他人のふりしとくから』
『それは気遣いじゃないよ!』
他人のふりじゃなくて、見て見ぬふりをしてよ!
「何してんだ蒼汰。ボーっとしてる場合じゃないぞ!」
事情を知らない大樹が僕に発破をかけてきた。
そりゃ大樹からしたら、ただ乃亜と一緒に突っ立ってるだけに見えるだろうからしょうがないと思うけど、せかさないでよ。
『急ぎましょう、先輩。それではお願いします』
そう言って乃亜は僕へと抱き着き、一度その顔を僕の胸にうずめた後、顔を上げて目を閉じた。
くっ、こんな状況なのに胸が正しい意味でドキドキしてしまう。
僕は自分の高鳴る鼓動を抑え、乃亜の唇にそっと口付けした。
『なっ!?』
謙信から凄く驚いた声が聞こえてきた。
「はああああああ!!?? ちょっ、蒼汰、てめぇこの緊急時にナニしてやがんだ!!?」
「うっ、羨ましいんだな……!!」
外野の声がうるさいけど、これは仕方がないことなんだよ。
僕は自分を納得させるために心でそう唱え、そろそろいいかなとキスを止めようとした時だった。
「んっ」
「ん!?」
なんと乃亜が舌を僕の唇をこじ開けて侵入してきた。
軽く口を開けてキスしないと歯がぶつかるから少し開けていたとはいえ、まさか舌を入れられるとは思わなかった。
――クチュ、クチュ
『なっ、なな……!』
先ほどまで謙信と咲夜との激しい戦闘音が響いていたはずなのに、今は妙に静かになってるのは何故?
そんな事を思いながらもこれは[強性増幅]の為だからと開き直って、乃亜の舌を受け入れ僕自身の舌を乃亜の舌に絡ませるように動かした。
「んんっ」
少し乃亜が震えて、僕にしがみつく力が強くなったような気がする。
その後僕らは数秒激しいキスをしてそっと離れた。
「ふぅ」
乃亜が息を軽く吐きながら、ペロリと唇を舐める。
顔を少し赤らめていて、正直見た目にそぐわぬエロさを感じてしまったのはとてもじゃないけど言えないと思った。
『はっ、はっ……』
ん?
『破廉恥です! ふしだらです! このような戦場で接吻などと恥を知りなさい!!
いけません、いけません。そういった行為はそっと人目を忍んで行うべきことであり、このような衆目の中で快楽を貪るなどありえません! 人は獣ではないのですからもっと理性をもって性欲に流されずに生きねば!』
何故か知らないけど謙信が顔を真っ赤にしながらまくし立てる様に訴えてきた。
いや、なんで敵にそんな事言われないといけないの?
「そう言えばあの人、生涯伴侶を持たず世継ぎも作らないで死んだんでしたっけ」
『それの何がいけないのですか? 別に子などなさずとも養子をとればよいだけでしょう』
「いや、戦国時代って世継ぎを残すために多くの伴侶がいたのでは? それに跡継ぎをちゃんとしてなかったのが原因でお家騒動が起こったんですよね?」
『うぐっ! い、言ってはならないことを……』
謙信が咲夜に攻撃を受けていた時とは、比でないほどのダメージを受けているような表情をしてるよ。
「貞淑であるべきという考えは否定しませんが、それに固執しすぎて周りに迷惑をかけるのはどうかと思いますよ」
『う、うるさい! うるさいですよ!!』
謙信が髪を振り乱して、目を見開いて乃亜を睨みつけてきた。
『もう勘弁なりません。あなたから倒します!』
謙信が乃亜に向かって槍を構え突撃しようとした時、あまりの事態に呆然として攻撃の手を止めていた咲夜がハッとして謙信を止めようと拳を振るう。
『遅いです』
さっき乃亜が攻撃を受けた時、まともに耐えきれなかったのに謙信に狙われるのはマズイ!?
そう思った時には既に謙信は乃亜の目前まで移動しており、その槍で突かれる寸前だった。
『乃亜ちゃん!?』
――ガンッ!
――ドンッ!
2つの音が同時に聞こえた気がした。
あまりの速さに何が何だか分からなかったけど、結果として言えば何故か地面に転がっているのは謙信であり、大楯で敵の攻撃を受け止めたであろう乃亜の近くにいつの間にか移動した咲夜がいることだけだった。
「ふふっ、[強性増幅]はよりエッチな行為であればパワーが増えるのであなたの攻撃を受け止めることもって、あれ? 何故咲夜先輩が目の前に?」
ああ、だから舌まで入れてきたのか。
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