第6話 都合のいい事

 

「………」


 オルガは黙々と敵を倒し続けていた。

 魔道具だと言っていたナイフを投げると、ゴーレム、レイスに拘わらずそのナイフが貫通し、敵を絶命させていく。


 魔道具のナイフなんて高価な物、使い捨てるように投げていいのかと思っていたら、いつの間にかその手にはナイフがあり、敵に高速で接近して切ったり、ナイフを投げたりしていた。

 僕らのようにオルガの腰には〔マジックポーチ〕があるけど、そこからナイフを取り出している様子はないし、どうやって投げてどこかにいったナイフを手元に戻しているんだろうか?

 ここにいる誰よりも素早く移動しているから、回収している瞬間を見逃した、というにはナイフを投げた方向に移動せずともナイフがすでに手元にあるし、やっぱり何らかのスキルの効果かな。


 冬乃を除けばこの中で誰よりも早くたくさんの魔物を倒しているし、魔物を倒すのに慣れている上にレベルも相当高いように思える。

 一体いくつぐらいなんだろう?


「くっ、ゴーレムは硬いな!」


 おっと、スマホを操作したりオルガばかりに気を取られていたせいで、いつの間にかオリヴィアさんがゴーレムに襲われていることに気が付かなかった。

 オリヴィアさんは相手の攻撃を避けて反撃しているけれど、光を纏っているロングソードで多少の傷をつけるので精一杯で、思った通りゴーレム相手には効き目が薄そうだった。


 苦戦しているようだし、咲夜に頼んで助太刀してもらうか?


 そう思った時にはすでにオルガがオリヴィアさんの近くにいた。


「……困ったら呼ぶ」

「くっ、この借りは後でしっかり返すぞ!」

「……いつでも」


 オルガがゴーレムをあの手に持っているナイフでバラバラにしていた。

 オルガはスキル名を言わないから何をしたのかサッパリ分からないけど、言える事は凄いの一言だ。


「オルガ滅茶苦茶強いよね」

「でもあんなに激しく動いてスタミナは持つのかしら? 〈解放パージ〉」


 もはや語尾が〈解放パージ〉になってしまっている冬乃の心配をよそに、オルガは動き続けて魔物を倒し続けていた。

 時折立ち止まった時に表情を見る限りでは疲れた様子は見えないし、あの小さな体に無限のスタミナでも詰まっているかのようだった。


「これなら日本であった迷宮氾濫デスパレードの時よりも余裕を持って戦えそうだね」


 僕ら7人(1人全く戦っていない)なら十分押し寄せてくる魔物を押しとどめる――どころか、押し返す勢いで殲滅出来ており、周囲と協調しながら魔物を倒すペースや場所を考慮するほうがむしろ大変だった。


 そんな勢いで魔物を倒しているためか、放課後に魔物を探して倒すのとは比較にならない数の魔物を倒せてレベルが上がりやすくて嬉しいけどさ。


 ――ピロン 『レベルが上がりました』


「あ、レベルがまたあがっ――」


 ――ピロン 『派生スキルの一部がアップデートされました』


 レベルが上がると共にそんなメッセージが頭に響いてきた。

 確認したいところだけど、今は冬乃の〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕の交換作業があるのでそんな事をしている暇はない。

 残念だけど休憩時にでも確認するかな。


 気になる気持ちを押し殺しながら、自分がするべきことをし続けること1時間。

 ついに交代の人員がやって来てくれた。


 日本の迷宮氾濫デスパレードの時同様、1時間ごとで交代することになっているので、適宜休みつつ魔物の討伐を行う事ができるのはありがたい。


「はぁ~、ほぼずっと〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を構えてる状態だったから疲れたわね」

「冬乃先輩はその場から動かずにひたすら撃ち続けるだけですからね。動けないのは大変そうです」

「どうかしら? 魔物と接近戦で戦わないといけないから、乃亜さん達の方が怪我をする可能性が高いし大変じゃない?」

「でも乃亜ちゃんの[損傷衣転]があるから、傷は負わないし動いてるとあっという間に時間が経つから楽な気がする、かも?」


 冬乃達は肩を回したりしながら、戦線から離れた場所で休憩するために移動しているが、その様子はまるで遠出して買い物をした帰りのような雰囲気だった。

 乃亜と咲夜は見る限り服が多少破けただけで怪我なんてしていないし、冬乃は魔物に近づいてすらいないのだから怪我なんてないので、本当にただ疲れたといった感じだ。


「ノアとサクヤ、あれだけ魔物と近距離で戦ってたのに、擦り傷1つないって絶対おかしい」

「ハァハァ、レイスはともかくゴーレム相手は私には厳しいな。だがだいぶレベルが上がったぞ」

「……疲れた」


 ソフィアはあり得ないものを見るかのような目で乃亜と咲夜を見ているけど、それはスキルのお陰だからなんとも言えないね。

 オリヴィアはこの中じゃ誰よりも疲労感を表に出していて少し辛そうだけど、レベルが上がった事に喜んでいるようなので、本人的には満足なのかな?

 そんなオリヴィア同様オルガも疲れたと口では言っているけれど、表情とか無表情のままだし汗1つかいてないんだけど、あれだけ走り回ったのにスタミナどんだけあるんだと言いたいよ。


 ……う~ん、今更だけど女の子達にだけ戦わせて、後方でスマホをタップし続けるだけの仕事は罪悪感があるなぁ。

 しょうがないって分かっているんだけど、乃亜達だけならいつもの事と割り切れるのに、ソフィア達女の子3人が近くで戦ってるから、そんな気持ちがふつふつと湧いてしまう。


 せめてソフィア達にも何か援護できればな、って思うけどそんな都合のいい事――


「あったわ」


 先ほどアップデートされた派生スキルを確認したら、そんな都合のいい事だったよ。

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