第10話 やっぱりあだ名があると覚えやすい

 

「パーティーの方全員がハーレムメンバーの方なんですね」

「ええ、そうよ。私以外も全員この人の嫁ね」

「8人も奥さんがいるって、ケンカとかなりそうな気がするわね」

「そうでもないわよ。私達パーティーメンバーは昔からの友人だし、他の4人とも何だかんだで相性が良いからむしろこの人の方が大変なんじゃないかしら? 8人同時なのよ?」

「どっ、同時って、やっぱりそういう事なの?!」

「凄い。咲夜達もそのくらい仲良くなりたい」

「ちょっ、咲夜さん!? そんないきなり4人でだなんて……!」

「咲夜先輩は初めからそうしたいと言ったわけではないと思いますよ?」


 ハーレムを築いている菅沼さん、もとい沙彩さんの事が気になったのか、乃亜達はその後の道中は沙彩さん達とよく話していた。

 仕事の時は菅沼で通しているけれど、普段から名前で呼ばれているから沙彩と呼んで欲しいと言われたので、そのように呼ぶことになった。

 ちなみに風間さんの方も、名前で呼んでいいと言われたので亮さんと呼ぶことになった。


「ハーレムは大変だぞ。俺は[貯蔵庫]があったから8人相手でもなんとか問題ないが、3人より増やすのは体力的にかなりきつくなるからな。

 若いからハーレムの人数をもっと増やしたいと思うかもしれないが、この辺りで自重した方がいい」


 亮さんが親身になってアドバイスをくれるのだけど、日本で一番と言われる冒険者にしてもらえるアドバイスが、ダンジョンのことではなくハーレムのことなのはどうなんだろうか?

 いや、元々増やすつもりなんかないから大丈夫ですよ?


「ガッハッハ! いや~若いのう。ワシも嫁をもっと増やそうと思った時期があったもんじゃ」


 そういって豪快に笑うのは亮さんよりも小柄であり、もじゃもじゃとした髭が特徴的な人物、安藤あんどうはじめさんだ。

 明らかにユニークスキル[小人化(ドワーフ)]を持っているのが一目で分かる人だ。

 ちなみに嫁は3人いるらしい。


「いいじゃねえか! 強いやつはいい女を侍らしてるもんだぜ。そこのボウズは見所があるってもんだ!」


 槍を持っている野性的な雰囲気でボウズ頭の男性、大坪おおつぼひろしさん。

 嫁は4人。


「何を言っているのやら。真に愛するべき人は1人だけでいいというのに」


 杖らしきものを持っていて、メガネを掛けている理知的な青年、笠井かさいさとるさん。

 嫁は1人。


 この3人は亮さんと一緒にダンジョンに潜ることが多いらしい。

 亮さんは[貯蔵庫]のお陰で寝だめしておけばずっと起きていられて、いつまでも動いていられるスタミナがあり、休憩せずにいられるので誰もついていけず基本ソロなのだけど、たまにこの3人とは組むこともあるのだとか。


 覚えやすい覚え方だと嫁3さん、嫁4さん、嫁1さんと……逆に覚えにくそうだから、初手のインパクトでドワーフさん、野生ボウズさん、真の愛さんと心の中で呼ぶことにしよう。

 亮さんは食べ物を食べ続けている姿とか見たせいか、変なあだ名をつけなくてもバッチリ覚えられたので問題ないし、沙彩さんも亮さんの嫁ってことであっさり覚えられたから問題ない。

 他の嫁3人に関しては話してないから、名前聞いてもあだ名と関連付けて覚える事になりそうだけど。


 それはともかく、道中は順調に進んだ。僕らを除く50人のベテラン冒険者がいるのだから当たり前なんだろうけど。

 変に緊張しすぎないためにか、ベテラン冒険者の人達が適度に僕らに話を振って色々な事を教えてくれたりしてくれたお陰だ。

 ……下世話な話もあったけどね。まだ未成年に言う事じゃないと思うんだけどなぁ。

 え、高校生ならそれぐらい普通だとか言われても、女を喰っただけ男の魅力が上がるとか酷い話は聞かさないで欲しいな。

 言ったのは野生ボウズさんで真の愛さんに高校生に言う事ではないと頭を叩かれていたけど。


「はっ!」


 奥深くに進むにつれ、出てくるスケルトンの種類もドンドン増えていった。

 僕らが知っていたのは剣や槍を持っているのの他に、鎧を着こんだのや陰陽師の恰好をしたリッチだけど、今はそれに加えて10メートルくらいの巨大な骸骨までもが現れ――


「凄いな。一瞬で倒しちゃったよ」


 それら全てが僕らと一緒に来ている冒険者達の手で瞬殺されていた。


「まだそこまで深い階層に来てないからな。

 それにこのダンジョンはどちらかと言えば質より量だ。だから範囲攻撃が充実していればSランクダンジョンの割に簡単に攻略できるはずなんだ」

「それじゃあ亮さん達なら道中は安全に移動できるわけですね」

「ああ。【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】さえ混ざってこなければ、なっ!」


 亮さんはそう言って倒したスケルトン達が魔石となって転がっている方に向かって、どこからか取り出したナイフを投げつけ――


 ――キンッ


 何もないはずの空間で明後日の方向に弾かれていった。


『おやおや、随分物騒な挨拶じゃないかい』

「ちっ、やはり〝まむし〟か」


 初老に差し掛かっていそうな見た目の女性が突然現れた。

 上杉謙信とは違い鎧なんかは身に着けておらず着物を着ているだけなので、ダンジョンに入ってしまった一般人のように見える。

 だけど謙信と同じで目が白目の箇所が真っ黒になってるので、明らかに人間じゃないと分かる。


 その女性はウェーブのかかった肩甲骨あたりまで伸びている黒髪を弄りながら、どこか馬鹿にしたような表情でこちらを――亮さんを見てきた。


『おやおや、どこかで見たと思ったらしばらく前に会った坊やじゃないかい?』

「3カ月くらい前にダンジョンの外でな」


 3カ月ほど前だと迷宮氾濫デスパレードのあった時か。

 そう言えば上杉謙信以外にも確か2体現れてたはずだから、その時の1体か。

 ダンジョンに入って数時間もしない内に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と邂逅してしまったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る