第8話 面影を感じる
ダンジョンに入ってすぐのところに、まるで広場のような広い空間があった。
そこには
「援護の必要はないでしょうが、歌を聞いてもらう必要があるので早速いきます。……あまり見ず知らずの人にこの格好見られたくないんだけどな……。
派生スキル[コスチュームチェンジ][ライブステージ][マイクセット]」
矢沢さんが低いテンションで[コスチュームチェンジ]を行った後、続けて不可侵となるステージを出現させたりしていた。
ギリギリまでアイドル衣装を着たくなかったから、ダンジョンに入る前から準備をしたりしなかったんだろうなぁ。
『みんな、それじゃあいっくよ~![鋼の意思と肉体で]!』
「「「!??」」」
[鋼の意思と肉体で]は精神力、防御力を向上させるスキルと聞いている。
他にも[戦え! 私の戦士たち]や[走れ走れ走れ!]があるけど、どちらも身体能力を向上させるので、矢沢さんとはここで別れる以上、身体の感覚が変わらないスキルの方がいいということで、あの歌を歌う事になったみたいだ。
それはともかく矢沢さんのいきなりのアイドルムーブに、それを知っている僕ら以外の人達が矢沢さんを二度見していた。
うん。テンションが低かったのに、いきなりハイテンションかつノリノリで歌い出したらそりゃビックリするよね。
若干混乱があったものの、僕らは広場にいるスケルトン達を素早く片付けていった。
広場から敵がいなくなったため、自衛隊の人達は拠点を作り始めるのを尻目に他の冒険者の人達とダンジョンの奥に進もうとした時だった。
「あの……」
「あ、片瀬さん」
今度は自衛隊の人を引き連れてきた片瀬さんに声をかけられたので、そちらへと振り向く。
「えっと、なんでしょうか?」
気軽に声をかけるかけられる関係ではないと思うのだけど、一体何の用事なんだろうか?
「私が言えたことではないでしょうが……生きて戻ってきてくださいね」
まさか激励のために声をかけられるとは思いもしなかった。
やはり以前の片瀬さんとは違い、随分と真っ当になったようだ。
「あなたが死んでしまうと考えたら、凄く寂しいと感じてしまうの。
……あなたに私の赤ちゃんの面影を感じるからかしら?」
それは僕が以前赤ちゃんにされたからですよね!?
「だから気をつけていくのよ。私の赤ちゃん」
「断じて違うんですけど!?」
「やだ、これが反抗期なのね」
「だから違うんですけど!?」
正気に戻ったように見えて、実はまだ狂ってるんじゃないかな?
なんだか背中に狂気の混じった視線を感じる気がしながら、僕らはダンジョンの奥へと向かった。
ダンジョンを進んで行くと時折スケルトン達が現れるので、それを僕ら以外の冒険者の人達が倒していく。
僕らは基本的に安全地帯を創るのが役目なので、できるだけ戦わせず他の冒険者の人達に挟まれて移動する事になっているので戦うことはない。
Sランクダンジョンでの経験値は惜しいけど、戦ってる時にいきなり【
幸いにも周囲の人が魔物を倒しても安全地帯を創るために必要なリソースは貯まっていくので、無理して魔物を倒す必要がないしね。
まあ貯まってしまうせいで2箇所は安全地帯が創れてしまうので、1箇所設置したら即離脱するわけにもいかなくなったのだけど。
下手に嘘ついても、たとえば[虚偽発見]みたいな嘘を見抜く系のスキルを持っている人にはバレてしまうから、嘘もつけれなかったし。
そんな訳で割と深くまでダンジョンに潜ることが決まってる僕らは、他の冒険者の人にお守りをされながら進んでいるけれど、もしかしたら戦わないといけない時が来るかもしれないので、その準備は万全だ。
「…………ねえ、君達」
「はい、何でしょうか?」
「何で君達、男の子以外変な恰好してるのよ?」
ついに聞かれてしまいましたか。
会議の場でも発言していた黒髪ショートヘアーのOL風女性や他の人達が、実はダンジョン前に集合していた段階で乃亜達を凄い目で見ていたのだ。
確かにそれはそうだろう。
今の乃亜達の恰好は乃亜がメイド服、冬乃が巫女服、咲夜がチャイナ服になっていて完全にコスプレ女子だ。
しかもそれだけでなく、乃亜は身に着けていた時間分の強力な麻痺効果を敵に与えられる〔
つまり今の乃亜の姿は目隠ししながらメイド服を着て歩いているということで、他の2人の恰好も合わせて相乗効果で奇天烈さが増大しているのである。
視覚を封じていても乃亜には[第三者視点]のスキルで自身を含めた周囲を俯瞰して見ることが出来るスキルがあるので、移動に支障はないのだけど、まあそんな問題じゃないよね。
「いくら男の子の趣味でも、ダンジョンにまでその趣味を持ち込むのはどうかと思うわ」
「誤解なんですけど!?」
「先輩が原因かと言われたら、はいとしか答えられませんけどね」
「間違ってないけど更なる誤解が生まれる発言は止めて!」
趣味じゃなかったら一体何が理由で、みたいな周囲の目が痛い!
これが僕らのベストパフォーマンスを発揮できる状態なのが凄く悲しいよ……。
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