9.11.バルパン王国


 二台の馬車が砂煙を上げていた。

 騎竜とバトルホースがまるで駆けっこをするように走っている。

 大体同じ速度で走っているのだが……力強さはバトルホースの方が圧倒的に上だ。

 だが機動力の面に関しては騎竜の方に軍配が上がっているらしい。


 バトルホースの御者はウチカゲが。

 騎竜は飼い主のローズが担当している。


 ウチカゲが御者を務める中、俺たちは中で大きな地図を広げていた。

 この馬車でどこまで行くか、どこに隠すか、そして俺たちの具体的な行動方針を固めるため、まずは地形を頭に入れておくことになったのだ。


 今この馬車に乗っているのは俺とアレナ、鳳炎とシャドーアイの隊長、ビッド。

 地図を指でなぞりながら、ビッドは説明をしてくれる。


「この調子だと五日後くらいにはバルパン王国付近に到着するはずです。馬車が壊れないか心配でなりませんが……」

「まぁ大丈夫だろ……。どっちも騎竜用の馬車なんだろう?」

「そうですね……。えーと、では聞いてください。私たちはまずバルパン王国から少し離れたここに馬車を隠します」

「ずいぶん離れているのであるな」

「目立ちますからね。ここからは徒歩です」


 ビッドは大きな森の中を指さした。

 そこはバルパン王国から少し離れている場所であり、馬車を隠すにはちょうどいい場所なのだという。

 そこからバルパン王国までは徒歩半日。


 まぁ……こんなの連れて近づくのは危険だよなぁ。

 あれ、でもこの辺って斥候とか追跡していた兵士が通った道なんだよな。

 襲撃とかこない?

 大丈夫?


「可能性はゼロではないですね」

「だよねー」

「もし見つかった場合はどうする?」

「決まってるじゃないですか」


 ビッドは真剣な表情でこちらを向いた。


「全力で口封じです」

「「「……」」」


 いや、まぁ必要なことなのかもしれないけどさ。

 そうはっきりものを言われると引けるんだが。

 もう少しオブラートに包んでくれないかな。


 そこで鳳炎が首を傾げた。


「ふむ、その必要はあまりないかもしれないな」

「どうしてー?」

「普通の馬車の足でバルパン王国はサレッタナ王国から二十日掛かる。だが私たちの乗っている馬車は五日で到着する。連絡の速度を考えれば、別に気にしなくてもいいというわけだ」

「……鳳炎さん。通信水晶のこと忘れてないですか?」

「あっ」


 おいっ。

 なんでそこまで自信満々に言ったのにガバッてんだよ。

 斥候や連絡役が連絡できるアイテムを持っていないわけがないだろう。

 伝書バトとかもいるかもしれないしな。


 えーと、そうなってくると……。

 俺たちはすれ違う、もしくは見つけた馬車や人などを確認して通信を妨害しなければならないわけか。

 連絡される前に何とかしないといけないから、結構難易度は高い……。

 それを五日間気を張りっぱなしでやらないといけないんだもんな。


 んー、騎竜とバトルホースは速度こそ出るが、傍から見れば明らかに異質な存在。

 早期救出を目的として動くことになった俺たちにはこの速度はありがたいが、その一方で発見されるリスクと連絡をされてしまうリスクの二つを背負ってるんだよな。

 まぁ見つからなければいい訳だ。

 見つかってもなんとかすればいい……。


「……見つからなければいい、か……」

「応錬、何を考えているのだ」

「音は消せないけど、姿を隠すことができる技能は持ってるなーって思って」

「え、なにそれ凄い! やってみて!」

「その前に詳細を聞かせてくれないだろうか」

「ああ。操り霞は霧も操ることができるんだ。それを展開させればいいんじゃないかなって思ってな」


 あんまり使ったことはないけど、今展開している霞の代わりに霧を広げれば問題はないはずだ。

 霧の濃さとかも変えることができたと思うけど……。


「応錬。お前はいいかもしれないけど、バトルホースや騎竜が」

「ああー……そうか……」

「不自然な霧は返って相手に興味を持たせるかもしれません。ただでさえ目立っているのですから、これ以上は大人しくしていましょう」

「んじゃ霞を広げて索敵範囲を広げておくか」

「そうしてください」


 俺と鳳炎、今日はから回ってんな……。

 こんな調子で零漸を助けられるか不安になってきた。

 もう少し気を張ろう。


「それと……。この調子で行くと、私たちは零漸さんが乗っている馬車に追いつくかもしれません。もしくは追い越します」

「そうだろうな」


 あいつらが三日前にサレッタナ王国を出立したとしても、その道のりは長い。

 だが俺たちはそれを五日で走り抜けることができる。

 もしかしたらクライス王子が乗っている馬車にも追いつくことができるかもしれないな。


「見つけた場合は、速攻で戦闘になる可能性があるので気をつけてください」

「望むところである。馬車で移動中であれば敵兵力も少ないだろうからな」


 そこで、ウチカゲがこちらに声をかけてきた。


「皆さん、一度休息しましょう」

「そうですね。馬車の様子も気になりますし……」


 了承を得たウチカゲが、隣で並走しているローズに手で合図を送る。

 それを見たローズが前方を指さした。

 あの場所で休息しようと提案しているらしい。


 同じ様に指を指して確認したウチカゲは、バトルホースを操ってそちらへと向かわせる。

 道から逸れていくのを確認したローズも後ろをついていった。


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