7.21.Side-鳳炎-情報収集


 サレッタナ王国大図書館……があればよかったのだが、残念ながらこの国にはそういった場所はない。

 なので情報を収集するときは、小さな古本屋がメインとなる。

 ガロット王国にはあるのになぜここにはないのだと愚痴を頭の中でこぼしながら、現在五軒を梯子しての情報収集をしている私。

 だが……。


「ないっ!!」


 読んでいた本を思いっきり閉じて大きな音を出す。

 ここまで有用な書物がないと流石にイライラしてくるものだ。


 古本屋の場所は全て把握したとはいえ、それを一軒一軒回って手当たり次第に本を見ていくのは非常に大変な作業。

 本屋には行っても本が読めない応錬、寝ている零漸、まず私たちの状況を知らないリゼ、そしてまだ幼く書いてある内容をしっかり把握することのできないアレナ。

 消去法からして、情報を収集できるのは私しかいないわけなのでこうして頑張ってはいるが……!

 欠片すら出てこない!


 一体どうなっているのだ!

 悪魔の情報、文献、お伽噺は一切ないし、白蛇だの赤鳥だの黒亀だの白虎だのと調べてみるがこれもない!

 鬼と関係を結んでいる事は知っていたが、ここは鬼の里ではなく人間の住んでいる場所だ。

 他種族間の情報などのやりくりはないので、その線でも情報は得られない。


「何かないか……? 他に……何か……」


 もう一度情報を整理するか。

 まず私がこの事を知ったのは、あの悪魔……名前をダチアと言ったな。

 あいつが私たちに放った言葉により、謎が増えた。


 生まれ変わり……お前たちの為に行動している……。

 そして、あのイーグルとか言う悪魔が叫んでいたな。

 お前たちの為……貴方たちの為……そして、眠っていられなかったのか、だったか?

 前の事だからあまり覚えてはいないな。


 ダチアは私たちの為に行動していると確かに言った。

 だがそれがサレッタナ王国の襲撃と何の関係があるのだ?

 この国を襲撃することが、どうして私たちの為になるのかが一切分からない。


 あれから悪魔は行動を起こしてないし、名前も聞かなくなった。

 恐らく何処かで何かの準備をしているのだとは思うのだが……。

 その場所すら分からないんじゃ、考えても意味ないな。


 次に前鬼の里で出会った鬼だ。

 あのヒナタという鬼は様々な事を知っていた。

 先代白蛇と実際に出会っている貴重な人物。

 彼女からはまだ情報を得られそうな気はするが、先代白蛇の技能によって記憶を消されてしまっている。

 思い出すのは断片的な事ばかり……。

 それも極々僅か。

 当てにならないというわけではないが、希望は薄いかもしれないな。


 年齢は五百七十歳。

 で、最後に先代白蛇、日輪に会ったのが五百年前。

 なぜ今になって記憶を取り戻したのかは不明。

 本当であればもう少し話を聞きたかったが、悪鬼の住む場所は長く滞在すると毒になる。

 私たちには効かなかったようだが、あの時は飛竜のラックが心配であったからな。


 ああ、そうだ……。

 ヒナタが言っていたな。

 『俺たちと同じ奴らに協力しろ』、だったか?

 この発言からして、日輪は私たちが転生することを予知しているということになる。

 どうやってその事を知ったのかも疑問ではあるが、これも……分からない……。


 だが実際にこうして私たちは転生してきている。

 彼らも元日本人であった可能性は十二分にあるだろう。

 鬼の武具がそのいい例だ。

 どの時代の人間かは分からないがな。


 ……そして、先代白蛇と悪魔は何かの関係性を持っていた。

 丁寧口調になる辺り、悪魔たちにとって何か重要な存在であったのだろうとは思う。

 悪魔は生まれ変わりである私たちのことを知っていた。

 いや、見るまでは知らなかったというところか。


 だが……であれば何故隠すのだ。

 言いたいことがあるのであれば言ってしまってくれた方が楽だというのに。

 話せない事情があるのだろうか……?


 しかし参った……。

 本当にこれ以上の情報が出てこない……。

 もういっそのこと悪魔を見つけて仕留めて尋問した方が早い気がするぞ。

 何処かにいないのか?

 いないよなぁ……。


「あ、あのーお客さん……」

「む?」

「随分読みふけっておられましたが……お気に召しましたか?」

「ああ、そうだった……」


 ここはあくまで古本屋。

 やはりこの世界でも立ち読みはあまり良くない様だ。

 面倒くさいので適当な本を一つ手に取って、それを店主に渡す。


「これをくれ」

「ありがとうございます」


 古本でも金額はそこそこした。

 やはり本の価値は非常に高いらしいな。

 今まで買ってこなかったのでよく知らなかった。


 とりあえず店を出て、次の古本屋を目指すことにする。

 しかしこの適当に取った本は何だったのだろうか?


 魔道具袋から取り出してその本の題名を見てみる。

 そこには“意味なき戦争”とだけ記されていた。


「意味なき戦争……? 戦争の悪さを伝えるための物であるか? 命を大切にしましょうとか、そんな話だろう」


 そんな本をよく出すことができたなと思いながら、また魔道具袋の中に突っ込む。

 変な買い物をしてしまった。

 今度はもう少し手早く本を探すことにしよう……。

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