7.22.Side-鳳炎-いやいやながら
移動速度は空を飛んでいるので速い為、時間はほとんどかけていない。
だが本を読む時間が必要になってくるので、今日は夜通し調べ物をさせてもらうとしよう。
現在は八軒全ての古本屋を回ったところだ。
もう私が知っている場所はない。
あとあるとすれば……。
「貴族の館……もしくはサレッタナ城、かぁ……」
というかそれ以外にない。
本は基本的に高価であるため、貴族に買われてから庶民へと回されることが多い。
古い物は捨ててしまう貴族もいるので、昔の文献などはそういった趣味を持っている人物か、それこそ城の書庫などに行かなければ見ることすらできないだろう。
こう考えてみると、貴族の所に行くのはあまり良い策ではない。
行くとすれば、古い本があってもおかしくない城へと向かうのが定石だ。
今のコネがあれば入ることは容易いだろうし、閲覧も可能だろう。
しかし……しかし……!
私は貴族や王族に基本的には会いたくないっ!
あいつらの勧誘は本当にねちっこいのだ!
私は普通に生活したいだけなのに、こんなかたっ苦しい場所に放り込まれるのは勘弁願いたい。
なーにが冒険者の割には礼儀作法がしっかりしてるだ。
前世の知識だよ!!
「さて、脳内で愚痴り倒すのはこのくらいにして、覚悟を決めよう……」
目の前にある城壁に沿って歩いていき、門へと到着する。
飛んでは行ってもいいのだが、さすがにそれだと不法侵入扱いされるだろうからな。
ここは普通に歩いていくことにする。
門を通っていくと、兵士が二人前に出てきた。
だが私の事を知っている者たちだったので、すぐに中に入ることができた。
「ご苦労さん」
「「はっ!」」
兵士二人はザッと足を揃えて姿勢を正した。
別に私は君たちの上司ではないので、楽にしてもらっても良いのだが……まぁいいか。
あとはそうだな……。
とりあえずクライスのいる所に向かうとしよう。
私であれば通ることができるだろう。
特に難しく考えることなく進んでいくが、残念ながら止められてしまった……。
そんなに簡単に物事は進まないらしい。
「失礼、鳳炎様。どちらへ?」
「クライス王子の所へ行こうとしていたのだ。何か問題があるか?」
「許可は取っておられますでしょうか?」
「急用でな」
「……申し訳ありませんが、予約のない場合は誰であろうと──」
「鳳炎ーーーー!!」
兵士が断りを入れようとした瞬間、後方にあった階段から小さな子供が飛び出して転がった。
なんだなんだと思って見てみれば、それは紛れもないクライス王子がそこにはいた。
焦っていたのか、階段を下り切ったところで盛大にすっころんでしまったが、すぐに立ち上がってこちらに走ってくる。
その後方からは執事のバスティが顔面蒼白になりながらクライス王子を止めようと走ってきていた。
なんだね、この有様は……。
「鳳炎! 鳳炎ー!」
「な、なな、どうされたのですかなクライス王子!」
「れ、れい零漸が起きたのである! 起きたのであるー!」
「なに!?」
このタイミングで!?
もう何がトリガーなのか分かったものではないな!
どうなっているんだ!
「呼ぶ手間が省けた! 早く鳳炎の炎で零漸を温めて欲しいのだ! また眠ってしまう!」
「な、なるほど。それでこんなに慌てて……」
「お、王子……! ぜぇ……ぜぇ……ゲッホゴホ」
大丈夫なのかこのお爺さんは……。
まぁ子供の速度に勝てる老人ってなかなかいないよな。
本当であればご老体を労わりたいところではあるが、今は零漸の方が大切である。
クライス王子も手をどんどん引っ張って行くので、それに置いていかれないようにする。
結局兵士を無視してきてしまったが、これはこれでいいだろう。
時間が省けるからな。
「クライス王子! 零漸の容態を今聞いてもよろしいか!?」
「うむ! 少し前に目を覚ましてな! だが寒い眠いというのだ! 暖炉の火ではあれ以上部屋は温かくならない!」
「……容体は?」
「元気である!」
元気であれば問題はないだろう。
あとは起きているのを維持させるだけであるか……。
私にできるかどうかは分からないが、やれることはやっておこう。
ダンッと扉を開けて中に入ると、そこは非常に暖かい空間だった。
本当に火を一度も絶やさなかったのだろう。
だが空気が少し悪い気がする……。
一度換気をした方がよさそうだ。
そして暖炉の前に、布で体をくるんでいる零漸の姿があった。
随分と眠そうな表情をしているが、意識はしっかりしている様だ。
こちらを見てにへらと作り笑いを見せてくれた。
「クライス王子、申し訳ありませんが一度窓を開けます」
「なに!? そんな事をしてしまったら零漸がまた眠ってしまうぞ!」
「空気が悪いです。体に毒なので空気を入れ替えなければなりません」
「なぬ……そうであったか……」
「零漸、耐えるのだ」
入ってきた扉を、窓を一気に開放する。
風の通り道ができたことにより、部屋は一気に冷たくなって新鮮な空気が入って来た。
三十秒ほどで温かさは何処かへ過ぎ去り、空気が大体入れ替わったことを教えてくれる。
そのあとすぐに扉と窓を閉めてから、一つの技能を発動させた。
「『ファイヤーバラージ』」
数個の炎の玉を部屋の中に出現させる。
その場に漂うだけの玉なので、触れない限りは怪我をすることはない。
だが危ないので、手の届かない上の方へとそれを置いておく。
これで暫くすればまた温かくなるはずだ。
さて、零漸は……。
「……ふぁ~……」
「起きているか。大丈夫か?」
「眠くて仕方ないっすぅー……。でも今は起きれるっすよ」
「ったく。お前が居なくて結構苦労しているんだぞ私は。前鬼の里で何度死んだことか」
「ふぇ? 前鬼の里っすか?」
こいつはいなかったから知るわけもないか……。
今話をしても、その間に寝てしまいそうだしまた今度にしよう。
「お前がどれだけ起きていられるか分からないから、簡潔に今の状況を話すぞ。私は今悪魔のことについて調べている」
「悪魔っすか。魔水晶作ったのも悪魔なんすよね?」
「多分そうなるな。そしてレクアムの体には悪魔が入っていた」
「死体から出てきてたっすからね。でもなんで悪魔がレクアムの体に入っていたのかは分かんないっす。乗っ取られてたわけじゃなさそうっすけどね」
「ああ、お前と話して新たな問題が浮上してしまった……」
そう言えば魔水晶然り、レクアムのこと然り分からない事ばかりだ。
一体これからどこにいって何から調べればいいのやら……。
「……あ、そういえば……」
「ん? なんだ、何かあるのであれば言ってくれ。こちとら手詰まりなんだ」
「いやー、ムカデの魔水晶探してるときに魔女っ子と会ったんすよ」
「……魔女っ子……?」
「そいつが魔水晶のこと知ってたんすよね。で、俺にその場所まで案内させて……何か弄ってたっす」
一瞬思考が停止する。
魔水晶の事を知っている人間はいなかったはずだ。
それこそ、零漸が教えてくれて初めて知ったのだから。
それを既に知っていて、それを使って何か弄った?
「お前馬鹿! なんでそういうこと早く言わないんだ!!」
手がかり一つ目!!
やっと見つけた!
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