10.41.昔話③ 説教
ダチアと日輪が正座をしていた。
その前にはヒナタが笑顔で怒っている。
どうしてこうなったのかは言うまでもないのだが、日輪はあまり納得がいっていなかった。
襲ってきたのはダチアであり、自分は防衛として返り討ちにしただけ。
だというのになぜ自分まで怒られなければならないのだろうか。
「ダチアさん? なにか、言うことはありますか?」
「……いや、日輪の姿を見て人間ではないと判断する方が難しいだろう」
「かと言っていきなり刃を向けますか!? 鬼たちの中に人間の姿をした人物がいれば、まず何か理由があると考えるのが普通でしょう!?」
「普通かそれ!?」
「口答えしない!!」
圧に押されて引き下がる。
ヒナタは次に日輪を見た。
「日輪様?」
「……何故俺も怒られているのだ?」
「あ・な・たが吹き飛ばした剣が家を切ったからですよ! ダチアさんなんですかあの剣は!」
「魔剣」
「見たら分かります!! その性能を聞いているんです!」
「魔力を籠めることによって切れ味が良くなるものだ。攻撃を防ごうとして思いっきり魔力を籠めたら、飛ばされた」
「なんてもの振り回してるんですか殺しますよ!!」
「お前が言うと洒落にならないから止めろ!!」
「まったくもう!!」
怒鳴って少し気が落ち着いたのか、一つ息を吸って大きく吐いた。
今余計なことを言うとまた怒りだしそうだったので、二人は口を閉ざすことを決め込んだ。
とりあえず、あの一件では怪我人は出なかった。
家が一つ両断されてしまったが、それだけである。
立て直しも効くだろうし、特に問題はない。
「はぁ~……。日輪様も、強い相手がいたからって躍起にならないでください」
「昔の血がな……」
「何が昔の血ですか……。で、ダチアさんは今日どういったご用件で?」
「鉄が欲しくてな。物々交換ができないかと訪問した」
「あれ? 以前は報酬で鉄を頂きませんでしたっけ?」
「情けない話だが、鉱脈が人間軍に占拠されてしまってな……。供給がストップしてしまったのだ」
「なるほど……。分かりました、エンマ様を呼んできます」
ヒナタはすぐに部屋から出ていき、エンマを呼びに行った。
とりあえず足を崩し、ため息をつく。
なんでここに来て早々怒られなければならないのだろうか。
紛らわしいこいつが悪いのにと、ダチアは日輪を睨む。
「……なんだ」
「お前あの時の蛇か」
「気付いたのか」
「二度目とか言っていたしな。魔物が人の姿に化けるとは、面白いこともあったものだ」
「面妖なのはお前らも同じだろう。鬼だの悪魔だの……よく分からん存在ばかりだ」
「お前人間臭いな」
「そうかもなぁ」
日輪は小さく笑ってから足を崩した。
元人間であるとはこの様子で言えるはずもなく、隠すことにしたらしい。
しばらくの間が開いた後、ダチアが話しかける。
「お前、魔物だってのになんでこんなことができるんだ?」
「こんなこととは?」
「その……お前の持っている日本刀……だったか? あとは衣服や建物。この知識を教えたのはお前だというではないか。何処で知った?」
「……俺が元々住んでいた場所で行われていたことを真似してみただけだ。随分近づけた故に、これ以上手を加える必要はないがな」
「……何処にいたんだ?」
「そうだな……妖が住まう街、とでも言っておこうか」
人間という言葉を避けると、こうなってしまった。
恐らく人間の知識だと言えば嫌悪する者もいると考えたからだ。
ダチアはその答えに納得はいかなかったが、これ以上聞いても同じようにはぐらかされそうだと思ったので聞くのはもうやめにした。
妙な奴が仲間になったなと嘆息したところで、襖が音を立てて開かれる。
そこに居たのはエンマでもヒナタでもなく、レンマだった。
「おあぁっはっはっは! おいおい問題児共! 調子はどうだぁ? っはっはっはっは!」
「癪に障る。失せよ」
「んなこと言うなよ日輪よぉ! それともまだ陣羽織のこと怒ってんのかぁ?」
「お前にはあれがお似合いだ」
「かもなぁ~。よっと」
腰から大きな日本刀を外し、右脇に置いて座った。
以前のものとはまた違う武器だ。
これも作ったのだろうか。
「久しぶりだなダチア。ヒナタから話は聞いたが、これからどうするつもりだ」
「まずは戦力を調えたい。武器がなければ勝てないからな」
「そいつぁ同感だ。兵は?」
「自分たちの不始末だ。悪魔だけで何とかするつもりである」
「そりゃ感心しねぇなぁ。兵が死ねば次に支障が出る。さらにお前らの持っていた鉱脈は自然の要塞と言っても過言じゃねぇ。お前らだけだと、近づく前に撃ち落とされるぞ」
「だが一番早く動けるのは悪魔だ。相手が戦力を調える前に蹴りをつけたい」
「間違っちゃいねぇが援軍は待てねぇのか。幸いにして人間の足は
「む、むぅ……」
ダチアの判断も正しければ、レンマの判断も正しい。
今はダチアが折れるかどうか、といったところだろう。
地の利は悪魔側にあるのは間違いない。
それを駆使すれば勝てる見込みはある。
だが相手は人間。
魔法攻撃を得意としている為、接近する前に落とされる可能性があった。
そうなると勝てる見込みは一気に薄くなり、負けたことによって人間の援軍が確実に鉱脈へと送り込まれるだろう。
そうなってしまえば、もはや悪魔だけで手に負える話ではなくなってくる。
とはいえ、人間軍も鉱脈を落としたばかりで疲労は残っているはずだ。
激戦だったのでそれは確信している。
そこで考え事をしていた日輪が口を挟む。
「……悪魔よ」
「ダチアだ」
「ダチアよ、兵糧攻めはどうだ」
「ひょうろう……?」
日輪は水を何個か作り出して、空中に浮かせる。
一つを山脈の形にし、他の水を人形の形にして山脈に配置した。
もう一度水を作り、今度は悪魔の人形を作った。
最後に物資を積んだ人間の兵士を遠くに作り出して準備が完了。
これから説明に入る。
「以前、悪魔の飯は鬼には合わないと言っていたな。それは人間でも同じことか?」
「人間の捕虜に飯を食わせた時、そういった反応はあった。ひどく渋い顔をしながら食べていたが」
「ではそう仮定する。鉱脈には食料もあるはずだが、それは悪魔用の物。人間は好んで食べないだろう。彼奴等が持ってきた食料のみで賄うはずだ。数千の兵士を賄い続けるのには限度がある。だから必ず、物資が送り込まれてくるはずだ。それを何としてでも阻止すればいい」
作り出していた人形を操って、分かりやすく説明をしてくれた。
なるほど、と手を叩きそうになったが、そこでレンマが口を挟む。
「だが日輪。不味いだけで食べられねぇわけじゃねぇだろ?」
「然り。されど……悪魔の食料に手を付けるより、腐る方が早いだろう」
「よく知っていたな……。魔力を注ぎ込んで作った食べ物は美味いが日持ちはしないのだ。だがどこでも育てられるというメリットがある」
「ほえー。まぁ空を飛んで移動する悪魔にとっては飯なんてあんまり必要ねぇだろうからな。日帰りだろ?」
「ああ」
「うらやましぃなぁおい」
レンマの発言は無視しておくとして……。
確かにこの作戦であれば、悪魔の被害も減らすことができ、人間の戦力を削ぐことができる。
だが、問題は運ばれてくる物資をどう壊すかだ。
物資を破壊するために向かわせた魔族が返り討ちにあいましたでは話にならない。
この辺はどうするのだと日輪に聞いてみたところ、予想外の答えが返ってきた。
「寸手まで待てばいい」
「……と、いうと?」
「物資を強襲するのは、鉱脈にいる人間兵士からの攻撃が届かない……要するに、敵から見える位置で強襲を仕掛けるのだ」
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