4.30.ダンジョン⑦ ふと気になった事


 第六層……蟹型の軟体動物(?)。

 第七層……石のゴーレム。

 第八層……雷を帯びたナマズのような生物。


 第六層の蟹型の軟体動物はアレナが重加重で倒した。

 第七層の石のゴーレムはウチカゲが粉砕してくれて、第八層の雷を帯びたナマズは零漸が対処してくれたので、そんなに苦戦はしなかったのだが……。

 現在第九層……俺たちはやっと人の形をかろうじてしている植物系の魔物と戦っていた。


 どうやらこの植物は偽装魔植物というようで、人間を取り込んでそれを養分にする植物らしく、異性にそれとなく化けて襲うようなのだが……その恰好がなんとも魔物とバレバレであったので誰も騙されることなく戦闘になった。


 だがこいつが非常に厄介極まりない。

 正体がバレたと分かった途端姿を消し、周囲に生えている植物を自在に操って俺たちを攻撃し続けていた。


「むぅ……。こう弱点……というか本体が見えないのであれば何もできませんね」

「アレナはMP切れで技能は使えないと」

「うぅ……」

「あのーすいませーん! いや問題はないんですけどー! できればー! 助けてほしいなーって思ってるんすけどー!」


 めちゃくちゃに絡めとられて宙ぶらりんになっている零漸は問題なさそうだし、ついでに元気そうなので放置するとしよう。


 速度の速いウチカゲも、こうして無造作に動く植物の波を捌ききることはできないようだった。

 何より地面にも植物が広がっているので、ウチカゲ本来の速い攻撃ができなくなっていたのだ。


 アレナに至っては言うまでもない。

 動きが封じれれば何とかなっただろうが……できないことを求めても仕方がない。


「ま、時間かけるのもあれだし、さっさと終わらせるか……」

「応錬様。相手は全ての植物を操ることができるはずです。お気をつけて」

「おう」


 さて、久しぶりに本気を出すとしよう。

 とは言ってもこの場所を壊すようなことはしないようにしなければならないのが、何とかなるだろう。


「『連水糸槍』」


 ここで一番制圧力が高く、攻撃力が高いのはこの連水糸槍である。

 弓を引くように糸を張り、手を放して糸で植物を根こそぎ刈り取っていく。


 この植物は強いが再生能力は一切ないようで、育ち切っている植物しか使えないのだろう。

 切り取られた植物から新しい芽が生えてこないというのが何よりの証拠である。

 全て切り取ってしまえば……。


「ん?」

「なああああ!?」


 植物が零漸を俺の前にぶら下げた。

 どうやら盾にする気のようだ。

 という事は俺のやっていることは間違っていないかったようだが……残念ながら植物のとった行動は間違いだ。


「うん。すまん」

「うぇええええ!!!? ちょっちょちょちょちょ──」

「『多連水槍』」


 連水糸槍をニ十本作り出して植物に向かって零漸ごと突き崩す。

 足場周りは連水糸槍で完全に薙いで植物を全て断ち切るように糸を張る。


 植物は全て切り伏せられ、全て地面に倒れた。


「ふべあ!」


 零漸も解放されて、植物の本体らしきものがちらりと見えたため、零漸の眼前を通るようにして一直線に一つの槍を発射させる。

 植物の本体は非常に脆かったようで、一撃で倒すことができたようだ。

 本体を槍で突くと、周囲にあった植物は全て枯れ果てたようで、更には崩壊していった。


「こんなもんか~」


 やっぱり呆気なかったなと感じながら、皆の無事を確認する。


「よし。皆無事だな」

「兄貴ちょっとぉ!」

「なんだ」

「いや確かに無事ですけどね!? 確かに無事だけど! 違う!」


 問題ないのであればいいではないか。

 全く心配性なのだから。


 しかし今回は意外と苦戦したような気がする。

 再生しないと分かっていればもっと早く手を打てたと思うのだがな。

 火を使えば手っ取り早いがそうするわけにもいかないし、うん、面倒くさい敵だった。


 アレナのMPもなくなってしまっていることだし、とりあえず今回はここで休むとしよう。


「……」

「はーなんかずっとでっかい敵と戦いっぱなしっすね」

「確かにそうですね……このダンジョンは一体どこまで続いているのでしょうか」

「アレナ寝るー」

「はいはい……」


 ウチカゲのいう事は確かに気になる。

 このダンジョンが一体どこまで続いているのかがわからない。

 アレナが全ての階層の地図を作っているので、記録ミスなどはないはずだが、ここだけでも九階層……次で十階層になる。


 終わりは見えないし敵は出てくるし、そこそこ強い敵ばかりなので経験値は随分とうまい物ではあるが、何処まで続くかわからないというのは何故か不安になってしまうものだ。

 キリの良い十階層で終わってくれればいいのだが……。


「……待てよ……? なぁ。もしこのダンジョンの最下層についたとして、どうやって帰るんだ?」

「え? ゲームとかだと魔法陣的な物があるはずですけど……」

「それ以外の帰り方はわからないですね。しかし、もし何もなくても教会で購入した魔石があります。これで帰ることはできるでしょう」

「それだと最下層まで突破したという証拠がなくないか?」

「最下層にある何かを持って帰ればいいんじゃないっすか?」

「んー、それもそうか」


 ふと気になったのだが、別にどうとでもなる問題であった。

 だが……こんな強力な敵が出てくる場所にギルドの職員が時々来て、宝箱の中身を補充しているとはとても思えない。


 ここまで来たがやはりただの一人も冒険者と出会わないし、この道で合っているのか少々不安になってきているのは事実。

 問題はないのだが……どうも妙な雰囲気があってそれを拭えないのだ。


「ま、今まで順調ですしー、気楽に行きまっしょー」

「考えても無駄か。なるようになる……かねぇ。ここまで順調だし、人もいないのなら久しぶりに蛇の姿で戦ってもいいかもな」

「おおーいいっすね! 俺も亀になるっす!」

「…………え? れ、零漸殿も変化できるのですか!?」

「……あれ? 言ってなかったっけ?」


 そういえば零漸のことに関しては誰にも言っていなかったような気がする。

 俺はもういろんな人に蛇だという事がバレているので問題はなかったので気にはしなかったため、零漸にまで気が回っていなかった。


 とは言っても俺はもう普通の蛇ではなくなってしまっているのだが、進化するという事をウチカゲは知っているので別に驚きはしないだろう。


「てことで変身してもいいっすか?」

「あ、あの零漸殿。アレナは零漸殿が変化できることを知りません。こういうのは話し合ってからにする方がよいかと……」

「ま、それもそうだな。Cランク冒険者になったらそれらしい敵と戦えるだろうし、その時になってからでもいいだろう。今回のダンジョンは人の姿で攻略するとするか」

「了解っす! まー俺は人の姿のほうが強いっすからね~」


 零漸の防御力はこの場にいる誰にも劣らないし、もしかしたら世界の誰も零漸には勝てないかもしれない。

 それにあの多彩な攻撃方法だ。

 爆拳、貫き手、高い防御技能に加えて、仲間を守ることのできる得意技能。

 ぶっちゃけ言ってしまえばチートである。


 俺はどちらの姿の方が強いのだろうか。

 遠距離攻撃のほうが多いので、どちらでも問題ないのだが……あるとすれば今まで頼りにしてきた剛牙顎が使えないという事くらいだろうか。

 後は経験値が入りにくいと……いうくらいか。


 致命的じゃねぇか。

 つってもそれは零漸も同じか……。


「ま、もうちょい頑張るとするかー」

「はっ」

「了解っす!」

「むー……にゃ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る