4.29.ダンジョン⑥ フロアボス?
ムカデを全て制圧し、先ほど水晶を壊したところまで来ることができた。
とは言ってもその水晶は粉々に打ち砕かれており、見る影もないのだが……これは何かしら重要な役割を担っていたのかもしれないので、破片だけでも持ち帰ってみることにする。
あれだけの魔物を延々と湧かせ続けていた水晶なのだから、何かしら使えるかもしれない。
このダンジョン限定のものかもしれないが……。
アレナが第五層の地図を完成させたところで、ようやく第六層に降りた。
第六層への道は比較的簡単に降りれる坂のような場所だったので、何の問題もなく無事に第六層に降りることができた。
「寒いっす……」
「火が使えないからな……そこは勘弁してくれ」
「うぅ~……」
少なからず、今回の戦闘で全員が汚れてしまった。
虫の返り血というのはなんとも気味が悪い物ではあったが、これを放置するわけにもいかなかったので、俺の無限水操で全員を洗い流してやったのだ。
が、やはりここは洞窟の中。
寒い。
日の光が届かないのは当然のこととして、火もあまり使っていないのだ。
ここまで深く潜ってきて、あまり息苦しさを感じていないあたりこのダンジョンは酸素が多いという事はなんとなくわかるのだが、やはり洞窟内で火を起こすのは躊躇われる。
何かしら、温もる技能でもあったらいいと思ったが、残念ながら俺たちにそう言った技能はないのであった。
「んん?」
「どうされましたか?」
「いや……この階層だが……随分と短い」
ざっと周囲の確認をしたところ、この階層は細い道と大きな開けた空間以外何もないことが分かった。
それに気になるのがもう一つあり、その大きな開けた空間に一つの山があるのだ。
山といってもそんなに大きなものではないが、明らかに不自然なとんがった山がある。
操り霞ではシルエットで確認する事しかできないので詳細はわからないが、微動だにしないという事は何かしらのオブジェクトの可能性もある。
が、ここまで来てこんなところにそんなものを置くだろうか。
「とりあえず、広い空間以外に敵はいない様だ」
「そこにはいるのー?」
「分からん。それっぽいのはいるが……動いてないから生物でない可能性もある。零漸。前を頼めるか」
「任せてくださいっす!」
とりあえず、零漸を先鋒に出し、アレナを次鋒、俺が中堅となってウチカゲが殿を務めるような布陣で歩いていく。
相変わらずアレナはしっかりと地図を作っているが……飽きないのだろうか……。
俺であればすぐに飽きてしまいそうである。
とか言っても俺に地図は全く持って必要ではないので持つことすらないかもしれないが……。
進んでいくと、やはり広い空間に出た。
そこまでの道で何かに襲撃されるなどという事はなかったが、その広い空間にあるとんがった山を見て確信する。
「敵だな」
「あれで隠れているつもりなんすかね……」
「頭隠して尻隠さずとは……まさにこのことかと」
「なにそれー」
「これを諺といいます」
この世界のも同じような諺があることに驚いたが……今は目の前にいる何かに集中しよう。
それは茶色い山の様ではあるが、見てみればそれが何かの一部であるという事は明白だった。
そのとんがった山には赤い血筋のような物が駆け巡っており、一定のリズムを保って脈打っているように見えたのだ。
そして、明らかに呼吸をしているようで、白い煙がこれも一定間隔で噴出していた。
魔物よ……何故そこだけ出したのだ。
もうちょっと隠せなかったの?
ていうかどういう進化をしていったらそんなばれっばれな形状に辿り着くわけ?
「これどうするか……」
「おっきぃー。あれ何処の部分だろうね」
「背中っすかね? ていうか……でかくないっすか?」
山と呼称するだけはあると思うほどの大きいそれは、人が五人ほど縦に並んでやっとという高さだった。
この洞窟はそれよりもはるかに高い空間であるため、この魔物が動くには全く問題が無いように思われるが、それでも一部しか出ていないというのにこの大きさは少し警戒しておいた方がいい気がする。
さて、問題は……。
「どうやって起こすか……」
「殴りません?」
「そんなんで起きるのか?」
「恐らく。俺はこのダンジョンであまり活躍出来てないので、俺が行きましょう」
確かに今回ウチカゲはほとんど後ろにいたような気がする。
何もしていないのがやはり気にかかっていたのだろう。
まぁウチカゲは鬼だし、力には自信があるはずだ。
これなら簡単に出てきて──。
「フッ」
「!? 零漸! 結界!」
「うぇ!?」
ウチカゲが一瞬にして消えた。
あれはウチカゲが本気を出した時の速度である。
つまり……この次に来るのは……恐ろしいほどの衝撃。
ウチカゲは速度に特化した鬼ではあるが、鬼であることには変わりない。
その力は……強大である。
「はっ」
バゴオオオオン!!
山が消し飛んだ、という表現が一番適切だろう。
確かにウチカゲは殴ればよいといったが、まさかそこまで本気で殴るとは思わなかった。
まぁ鬼というのはあまり本来の力を発揮できないようなので、鬱憤がたまっているのはわかるのだが……こんなところで本気を出さないで欲しい。
何とか零漸が防衛に結界を展開してくれたので俺たちは無事で済んだのだが……ここまで石の破片が飛んできていた。
零漸はともかく……俺とアレナは普通にダメージを負うので今後は注意してほしい。
あとで注意しておこう。
「なんか地面が抉れてるっすけどぉ!?」
「おお……ウチカゲの一撃で強制的に掘り返されたんだな……」
やはり土の中に隠れていたのだろう。
未だ土埃で全容は見えないが……あの山はどうやら背中だったようで、折れた部分らしき場所が見えている。
そして、その出てきた生物なのだが……。
非常に気色が悪い。
出てきたその生物は、蟹のような形状をしているのではあるのだが、その足になる部分や腕になる部分は全て触手のようにうねうねと暴れていた。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」
「うるさ!!」
「いやああああああ!! 重加重!!!!」
「あ、ちょっと待て!? まだウチカゲが!」
いや気持ち悪いのはわかるけども!!
見境なさすぎるんじゃないですかねアレナ!!
「ジィィイイィィィイイイィイィイィイイ!!!!」
触手が全て地面に叩きつけられた。
何とか立ち上がろうとはしているようだが、アレナの技能のほうが強力だったようで、一向に立ち上がる気配はない。
それを確認すると、ウチカゲが一瞬で結界の近くに現れた。
「ふぅ……」
「おお、ウチカゲ生きてたか」
「アレナの声が聞こえましたからね……近づいているのはまずいと思ったので」
まぁあれだけ大きな声を上げたら誰でも気が付くだろうな。
しかし……アレナが虫嫌いだとは思わなかった。
あれは甲殻類なのか軟体動物なのか分からないが、どちらかといえば軟体動物の方に寄っている生物といえるだろう。
……ん?
もしかしてだけど、アレナが虫嫌いになったのって俺のせい?
確か俺が……ダトワームになった時アレナは気絶していた……と思う。
はい……完全に俺のせいですね。
「ぬぬぬぬ……!」
「え、えっとアレナ? アレナー? もういいんじゃないっすか? 完全にきまってるから……ね? おーい」
アレナは一切手を緩めようとはしない。
もう完全に相手は気絶しているはずなのだが……どうやら技能の効果が切れたらまたかけなおすことを繰り返しているようだ。
そこまでしなくてもいいのだが……。
と、思っていると地面がへこんだ。
「え?」
それから見る見るうちに奴のいる場所がへこみ続け、ついにはべちっという嫌な音を立てた。
その音が合図だったかのように、ようやく重加重の効果が切れたようでその場が静かになる。
重加重をかけている対象が死ぬと自動的に解除されるようだ。
「ふー……よし!」
「アレナの技能強いっすね~……」
先ほどの攻撃でほとんどのMPを使用してしまっているようで、額には汗がにじみだしている。
だが、やり切ったような非常に良い笑顔を見せているので、とりあえずは何も言わないようにしておこう。
しかし……こうして倒した敵を見てみると……やはり気持ちが悪い。
アレナの技能のおかげであまり強さがわからなかったのが残念ではあるが、無駄な戦闘を避けるというのは良いことだ。
今度このような敵が現れた時は、アレナに頼らずに俺たちだけで処理するとしよう。
「んー……なんでここだけこんな作りになっているんだ?」
「確かに妙ですよね。今までは随分長い道筋でしたのに、ここだけ待ち構えるようにして敵がいるのは」
「故意に作られたものだろうか……」
「あのー……多分これフロアボスとかいう奴っすよ」
「なんだそれは」
フロアボスという物を俺は知らない。
前世でゲームとかにこういうのはあるのだろうが、そういう知識がないという事は俺はゲームなどに興味がなかったのだろう。
このことに関しては零漸のほうが詳しそうである。
そのフロアボスとやらのことは零漸に聞かせてもらおう。
「零漸、教えてくれるか?」
「あれ? 兄貴は知らないんすか。フロアボスってのは階層毎にいる強力な敵の事っす。六階層という微妙な階層っすけど、ダンジョンにならボスがいるのが普通っすね」
「一般常識なのか……?」
「どうでしょう……」
とりあえずフロアボス……というのがここにいた以上、他の階層にもフロアボスがいると見ておいてもいいだろう。
上層に強力な敵が上がってきているのにはおそらくこのフロアボスが関わっていると見て間違いないだろう。
「ま、いいか。とりあえず出てくる敵全部倒せば問題ないな。よし、アレナ。解体を手伝って──」
「絶対いや!!!!」
今までで一番大きな声で拒絶された。
仕方がないので……俺たちだけで処理するとしよう……。
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