4.28.ダンジョン⑤ これマジでBランクダンジョン?


 第五層に潜って一時間が経っていた。

 アレナは洞窟の別れ道が多くて地図を作るのに苦戦しているようで、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと俺たちを振り回している。


 それは別に何の問題もないのだが、それでも俺たちは五階層に潜って一時間だというのに非常に疲弊していた。


「せいやぁ!!」


 零漸は技能の貫き手でムカデのような魔物を屠り続けているため、今は返り血で黄緑色になっている。

 そこまでしなくてもいいとは思ったのだが、やはり零漸は暴れたいらしい。

 あとで洗い流してやることにしておこう。


 しかし、零漸が前に出てくれているおかげで俺たちはそれなりに楽に進むことができている。

 何故かというと……敵の数が異常に多いのだ。

 それに加えてこいつは毒を持っているようで、耐性技能を持っていないアレナとウチカゲは一撃喰らっただけで致命傷になりかねない。


 零漸が壁になってくれているおかげで、俺たちは安全に進むことができ、もし零漸が討ち存じても俺も零漸と同じように毒耐性を持っているので、俺が捌いてしまえば何も問題ない。


 ウチカゲはやることがないかもしれないが、こういうダンジョン探索は得手不得手が完全に分かれてくる。

 故にウチカゲには申し訳ないが今回はアレナの護衛に徹してもらっている。


「しっかし……敵多いっすな!!」

「だな……大丈夫か?」

「問題はないっす!」


 零漸はそのままの勢いでムカデを蹂躙していく。

 今は何とかなっていそうだが……このままで大丈夫かどうか少し心配であった。


 しかしこのダンジョン……これ本当にBランク指定のダンジョンなのだろうか?

 明らかに敵は強いし、その数も尋常ではない。

 この世界のBランク冒険者というのはこのレベルでなければならないのだろうかと少し心配になってくるのだが、Sランク冒険者である二人を見ている限り、このダンジョンがSランクに近いレベルなのではないだろうかと思ってしまう。


 五層だというのにこのレベル……。

 並の冒険者では太刀打ちできないと思うのだが……。


「これはいよいよ、敵のレベルが上がってきているというのが濃厚になってきたな」

「そうですね……この階層の敵を一掃したら、少し休憩しましょう。応錬様、敵の数はどうですか?」

「……聞きたいか?」

「…………遠慮しておきます」


 このムカデ……本当に減る気配がない。

 敵の数はどんどん増えているような気もするのだが、分かれ道から出てきていないことから考えるに、群れで行動するのだろう。


 操り霞で確認しているが……まだまだムカデの群れが奥に続いている。

 零漸の体力が続く限りは、何とか捌ききってもらいたい所ではあるが……これはこの根源を叩かないとじり貧になってしまいそうだ。

 無視してもいいのだろうが、無視したら無視したで六階層までも追いかけてきてしまう可能性がある。

 それに、それはアレナが許さないだろう。


 という事なので……今回だけは俺の操り霞の技能を使用してこの五階層の地図を埋めていっている。

 アレナも流石にこの現状を見てゆったりはしていられないと思ったのだろう。

 今回だけはそれを受け入れてくれた。


「アレナ、そこの道は向こうに続いている。だが結局ここにくっつくらしい」

「どんな形?」

「えーっと、こうだな……」


 とりあえず今回はこのように注意しながら地図を埋めていく。

 まだまだ終わりが見えそうにないのが不安だが、とりあえずしばらくはこれで行くしかなさそうだ。


 しかし、零漸もこのままでは疲弊してしまうだろう。

 ここは途中ではあるが少し休憩しておいたほうがいい。


「零漸! 結界を双方に張れ!」

「!! うぃっす! 『空圧結界・剛』!」


 俺の合図に従って、零漸は俺たちの前方と後方に結界を張った。

 零漸も結界を張る瞬間に後ろに跳躍してバックし、俺たちと合流する。


「兄貴! なんかあるっすか!」

「とりあえず汚いから洗え」

「がぼぼぼぼ!!?」


 無限水操でとりあえず水を作って零漸を洗濯していく。


 ぶっちゃけ言うと汚いまま俺たちに近づいてきてほしくない。

 黄緑色の液体まみれの人に誰が近づきたいと思うだろうか。


 とりあえずしばらく洗浄した零漸は綺麗になってくれたので、水を解除してその辺に汚くなった水を放り投げる。


「よし」

「げっほげっほ! ぜーはー……死ぬかと思ったっす……」


 まぁ零漸はこれくらいでは死ぬことは無いだろう。

 しかし零漸もこういう攻撃は普通に効くようだな。

 このことは覚えておこう。


「で、どうしたっすか?」

「いや、このままではじり貧なんでな。まず少し休憩して策を練ろう」

「了解っす」


 そう言うと零漸はドガっと地面に腰を下ろした。

 やはり疲れていたらしく、少し息を荒げているのがわかる。


 落ち着いたところで一気に疲れが回ってきたといった所だろう。

 怪我はしないが、普通に疲労はするようだ。


「まさかこんなに敵がいるとは思わなかったな……」

「確かにそうですね。とりあえず応錬様、このムカデの発生源……というかそういうのは何処かわかりませんか?」

「探してみよう」


 目をつぶって操り霞を展開する。

 とりあえず今まで通ってきた道には全く反応がないので、後ろは探さなくてもいいだろう。


 なので前方の方に集中して捜索していくことにする。

 暫くムカデの群れが続いているのだが……やはり終わりが見えない。

 この洞窟はどうやら随分と長く続いているようだ。


 すると、何やら丸いボールのような物がちらりと映った。

 一瞬ムカデの目かと思ったが、それが移動していないことにかろうじて気が付き、その辺を集中的に捜索してみることにしたのだ。


 よく確認してみると……そこからムカデが湧いていた。

 丸い玉の中から小さなムカデが出現し、それが肥大化して俺たちの方へと向かってきているようだったのだ。


「なんだこれ……」

「何かありましたか?」

「ここから……まだしばらく行かなければならんが、丸い玉があってな。そこからムカデが延々と湧いているようなんだ」

「丸い玉……?」


 もう少し確認してみると、そこの後ろには第六層に降りる穴があった。

 このダンジョンは最後までこのムカデ共と戦わせたいらしい。


 とりあえずあの水晶を壊さない限りは、ゴールまでこのムカデと戦い続ける羽目になるようだ。

 流石にそれは勘弁願いたいので、俺は連水糸槍をその丸い玉に向けて出動させた。


 操り霞を使用していれば、連水糸槍の動きも分かるため、動かすことは十分に可能である。

 少しでも敵を減らすために連水糸槍の糸を使ってムカデを屠りながら進ませる。


 空中を移動していたので丸い玉の場所にはすぐに到着し、その玉を即刻破壊させてもらった。

 すると大きくなったムカデにその欠片が踏み潰され、それからはムカデが出現しなくなったようだ。


「これでいいか……?」

「ん?」

「ああ、とりあえず元凶らしいものは壊した。後は殲滅戦だな」

「まだやるのー……?」

「仕方ないだろ? もしそのままにしてたらゴールにたどり着くまで戦う羽目になってたぞ」


 それに一番反応したのは零漸だったのが少し面白かったが、まぁそれは無視しておこう。

 とりあえず連水糸槍で今も殲滅をしている最中なので、後は時間をかければこっちまで戻ってきてくれるはずだ。


「零漸、行けるか?」

「う、うっす!」

「心配するな。今回は俺も参加する。後は殲滅戦だからな! 零漸! 結界を解除しろ!」

「了解っす!」


 零漸は結界を敵の方に一度押し込んでから解除した。

 それによりムカデが一部に束になったため、その瞬間に多連水槍を十五本ほど作り出してそこに全速力で突き出す。


 零漸もそれに続いてまた貫き手を繰り出して殲滅作業に取り掛かる。

 後ろからは連水糸槍、前方からは俺の多連水槍と零漸の貫き手で確実に倒していく。


 それでもまだまだ敵の数は減りそうにはないが、連水糸槍を前に進ませるときに敵を屠ったおかげで、先ほどよりも進む速度は上がったような気がする。


 時間はかかるだろうが……とりあえずこの調子で殲滅していこう……。

 気が遠くなりそうだ。

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