4.27.ダンジョン④ 宝箱


 三階層は随分と敵が多かった。

 基本的には蜘蛛、蝙蝠、そしてゴブリンという群れが常に俺たちを襲って来たが、それを何とか撃退してようやく第四階層へと進むことができた。


 アレナは非常に熱心にマップを作成するため、第三階層のマップも全て作り上げてしまった。

 どこからそんな気力がわいてくるのか些か疑問が残りはするのだが、よくもまぁこれだけ襲撃されてもへこたれずに作成を続けるなぁと、俺は感心している。


 しかしこの襲撃の中でも一番厄介なのが蝙蝠だった。

 何度鼓膜を破られかけたことか……。

 これなら魔物の姿になって戦ったほうがいいかもしれないと思いはじめたりもしたが、そうなると役割も少なからず変わってきそうなので、人の姿のままダンジョンは攻略することにする。


 さて、第四階層に降りてきたのは良いのだが……今まで誰とも会うことなく下に降りている。

 あれだけいた冒険者は一体どこに行ってしまったのだろうか。

 第二階層で見た冒険者のたまり場も見ていたので、ここまで下に降りてこないという事はないと思うのだが……。


 とは言ってもいないものはいない。

 考えても仕方がない事なので、周囲の警戒をより一層引き締めて四階層を制覇することにする。


 因みに、完成した三階層のマップを見せてもらったのだが、これはあまり枝分かれは無い物の、繋がっている横穴が数多くあった。

 これは少しマップ埋めに時間がかかりそうだとは思ったのだが、アレナも相当マップ作製に慣れてきているようで、三階層は思ったより早く終わったのだった。


 さて、今は四階層を進んでいるのだが……今回は出鼻に攻撃されるという心配はなく、順調にマップを埋めながら進むことができている。


 一気に襲撃が減ったので少し気が緩みそうになるが、それでも操り霞は常時発動させている。

 奇襲などにあってしまえばひとたまりもないからだ。


「ふんふん♪ ふ~ん♪」

「えらくご機嫌だな……。どうした零漸」

「兄貴! 俺の特殊技能覚えてますか?」

「覚えてないな……」


 それに一瞬だけシュンとした零漸だったが、気を取り直して自分の技能の説明をしてくれた。


「ほら! 大地の加護ですよ!」


 大地の加護。

 あれは確か零漸の持っている特殊技能で、効果は『立っている土地の性質を読み取って自らの力にできる』という物だったはずだ。

 しかしなぜ今になってその技能の話をし始めるのだろうか……。


「それがどうしたんだ?」

「いやー、今まで成りを潜めてたんですけど、ここまで潜ってようやく発動しましたよ」

「ほぉ?」


 今までは石の上を歩いていたので、その性質を読み取って防御力強化が付与されていたらしいが、ここに来てそれが変わったのだという。

 それは……。


「魔術強化っす!」

「……む? どういうことだ?」

「つまりですね~……魔法攻撃が強化されるって事ですね! いやでも俺には魔法で攻撃する技能が地鳴くらいしかないんですけど」

「……いや、そうじゃなくて……。なぜここで魔術強化が発動したんだ?」

「へ?」


 零漸の特殊技能、大地の加護は『土地の性質を読み取って自らの力にできる』技能である。

 と、いう事は今立っているこの土地は……魔術が強化されてしまうような何かがあるということになるのだ。


 ウチカゲもそれに何か気が付いたようで、また顎に手を当てて考え事をしていた。

 アレナと零漸は、このことを深く考えてはいない様だ。

 アレナはマップに集中しているため考える素振りすら見せていないが。


「……」

「ウチカゲ、どう思う?」

「今は何とも言えませんね……。そういう話は聞いたことがありませんし、もしかしたらその何かが原因で高ランクの魔物たちが地上付近に出てきているのかもしれません」

「ふむ……なんにせよ進まないとわかりそうもないな。零漸、また何か変わったらすぐに教えてくれ」

「わ、わかったっす!」


 まさか零漸の技能でこんな事ができるとは思わなかった。

 流石地の声を持つだけのことはあるなと感心する。


 とりあえず警戒を強めながら、進んでいくことにしよう。



 ◆



 第四階層のマップ埋めも順調に進んでおり、そろそろ最後だと言う所で俺たちは一つの道の前で止まっていた。

 目の前に見えるのは完全な行き止まりではあるのだが、そこにある物を見て俺たちは動けずにいたのであった。


「宝箱っすよねあれ」

「宝箱だな」

「宝箱ですね」

「……ここに宝箱……っと」


 目の前にあるのは紛れもない宝箱である。


 道中様々な魔物が襲ってきたが、数もそんなに多くなく、俺と零漸、そしてウチカゲだけでも余裕で捌くことのできる魔物だった。

 残党を逃さまいと追いかけてきた場所に、それはあったのだ。


 しかし、動けないのにはもちろん理由がある。

 本当であればすぐにでも開いて中身を確認したい所ではあるのだが、罠がある可能性があるのだ。

 こう無暗に開けてしまっては危ないという物だろう。


 しかし……ここにはどういった罠があるのだろうか。

 パッと見た感じでは罠らしい罠は見受けられない。

 俺の操り霞でも妙なものは写り込んでこないし、あれは比較的安全なものなのではないだろうか。


「……俺行くっすか?」

「んー……まぁ零漸なら大丈夫か……よし、いって──」

「っしゃおらああああー!」

「お前こらぁあ!!」


 俺が言いきる前に零漸は宝箱めがけて一直線に走り出した。

 確かにああいう反応が一番正しいのかもしれないが、もしそこに罠が仕掛けてあったら相手の思うツボだ。


 ていうか走り出したい衝動隠してたんだな!

 そこだけ褒めてやるわ!


 宝箱の前に到着した零漸は、すぐさま宝箱に手を当てて蓋を開いた。


「おまっ! もうちょっと周囲の確認をだな!」

「はっはー! 大丈夫っすよ! 俺なら何が来ても──」


 その瞬間、零漸が真横から吹っ飛んできた丸太のような物に吹き飛ばされていなくなった。

 一拍おいてすさまじい轟音がその丸太の攻撃力を表してくれた。


「「……」」

「阿保め……」


 これには流石にウチカゲも呆れているようで、俺と同じように頭に手を当てている。

 だがこうも心配しないのは俺達位なものだ。

 普通だったらいなくなった瞬間に走り寄って無事かどうかを確認するのだろうが、俺たちは零漸の防御力の高さを知っているのでこうして呆れることができるのだ。


 すると、のそのそと零漸が吹き飛ばされた方から帰ってきた。

 やはり無傷だ。


「き、気を付けまーす……」


 そう言ってから零漸は宝箱を抱えてこちらに戻ってきてくれた。

 地面にドンと置いて、全員の顔を確認した。


「お前は中身見たんだろ? だったらここまで持ってくる必要ないのに」

「いえ、実は吹き飛ばされて見えなかったっす」

「あ、そう……」


 零漸は早速、といった様子で宝箱を開けて、その中身を確認した。

 中から出てきたのは無駄に装飾の多い短剣である。

 実際に斬れそうではあるのだが、どうにもその装飾が邪魔をして扱いにくそうだという印象を受けた。


「……こんなでっかい宝箱の中にこんな短剣一個しか入ってないんすか……」

「まぁそういう時もあるさ。で、これなんなんだ?」

「キレーだけど……剣にする意味なさそう」


 やっぱりアレナってあんまり女の子らしい考え持ってないよね。


「宝石だけ欲しい」


 前言撤回。

 ちゃんと持っていたようだ。


 短剣を抜いてみると、刀身にもなんだか煌びやかな装飾が施されている。

 なんだか王族が持っているような短剣ではあるのだが、それがこんなところにあるとは思えないし……これはもしかしたら……。


「偽物?」

「の可能性が高いですね」

「うえー!? 俺体張って頑張ったのにぃー!!?」

「お前にとってはあれは頑張った内に入らん」

「ま、まぁ確かに……」


 そこで納得するのはどうかと思うが、まぁ俺たちには不要な物だということはわかった。

 とりあえず貰っておくが、使うことは無いだろう。


 偽物といっても、作り自体はそれなりに良い物だ。

 何処かで売り払ってしまえば問題ない。


 宝箱も確認したので、マップを埋めながらまた進んでいくことにする。

 と、思ったがどうやらあの場所が最後だったようで、四階層の地図が完成したようだ。

 四階層は二階層と似た作りになっている。

 下に潜れば潜るほど、洞窟の作りは狭くなっていっているようなので、マップ作製も楽になりつつあるようだ。


 では早速五階層に行きたいのだが、どうやらもう夜になってきているようだ。

 アレナが非常に眠たそうにしている。


 なので今日はここで一度体を休めることにしよう。

 五階層は明日からだ。

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