4.26.ダンジョン③ 護衛


 数分ほど放置して外に出てみると、蜘蛛は見事に全滅していた。

 所詮生物……やはり酸素がなければ死んでしまうようだ。


 そういえば初めて全員で協力して敵を倒したなと思いながら、蜘蛛の素材を剥ぎ取っていく。

 この蜘蛛の牙は解毒剤になるようで、随分と重宝されているらしい。


「んー……」

「? どうしたウチカゲ。何か気になる事でもあるのか?」


 珍しくウチカゲが顎に手を当てて、先ほど倒したばかりの蜘蛛を眺めていたので少し気になった。

 ウチカゲは普段はそんなそぶりを見せることは無い。

 何か思うことがあるのだろう。


「いえ……どうしてこの蜘蛛がこんなところにいるのかと思いまして……」

「と、いうと?」

「この蜘蛛……なのですが、名前をケイブスパイダーといいまして……Bランクの魔物なのです」

「Bランク? じゃあこのダンジョンのランクじゃないか」

「はい。ですがこんな浅場にいるのは不自然だと思いまして……」


 まぁ確かに、俺たち以外の冒険者が降りてきたら速攻で殺されていたかもしれない。

 あれだけの数に囲まれたら、流石のBランク冒険者もやられてしまいかねない数だった。


 だがウチカゲが考えていることはもっと別の事だったようで、このケイブスパイダーはもっと奥にいる筈の魔物らしいのだ。

 光の届かない場所を好むケイブスパイダーは、冒険者がよく出入りする浅場にはいないのだという。


「確かにそれは妙だな」

「ダンジョン内の魔物を間引く者が居なくなると、指定ランクより遥かに高いランクの魔物が現れる可能性もあります。もしかするとそうなっている可能性が高いです」

「魔物も弱肉強食の世界で生きているしな……。強い奴が生き残るのが普通か」


 どうやら、ここから先はもっと慎重に行動しなければいけないらしい。

 俺も封じていた操り霞を展開させておくとしよう。


 しかし……今までの冒険者達はどうやって進んでいるのだろうか。

 あの場所を乗り越えれる奴らなどほとんどいないはずだし、そもそもあれから冒険者らしい一団を見ていない。


 まさかとは思うが転移魔法陣があるなんてことは無いだろうな。

 あったら怒るぞまじで。

 まぁアレナが頑張ってマップ埋めをしているのでそれを邪魔するわけにもいかないのだが……。


「おうれーん! 剥ぎ取り終わったよー!」

「おう、じゃあ俺に全部くれ。魔道具袋に入れておく」


 魔道具袋は本当に便利である。

 やはりこれはイルーザに頼んで人数分の魔道具袋を用意してもらわなければいけないだろう。

 今度イルーザ魔道具店に行くときには忘れないように頼んでおくとしよう。


 牙を全て魔道具袋に収めたので、またアレナのマップ作製に付き合うことになる。

 しかしこの階層からまともな魔物が出てきたので少し気分転換にはなった。

 この調子でどんどん出てきてほしい所だが、アレナはマップ作製に集中しているので護衛しながら進んでいかなければならないだろう。


 とりあえず、零漸には火を発生させるような技能は使わないように言い聞かせてから先に進むことにした。

 こんなところで爆発系の技能だなんて考えるだけでも恐ろしいことになりかねない。

 それに零漸の爆拳は元の威力が高いためか、その分爆発も強力なのだ。

 最悪落盤が起こってもおかしくない。

 それだけは本当に勘弁してもらいたい。


「ずっと真っすぐだね」

「暫くは一本道のようだな」


 あれからしばらく歩いているが、まだまだ真っすぐな道しかない。

 あの場所はおそらくあの蜘蛛の狩場だったのだろう。

 周囲には全く魔物はいなくなってしまっているようだ。


 あのような魔物が上にまで追いやられるという事は……下には本当に強力な魔物が潜んでいる可能性がある。

 この層は蜘蛛だけで勘弁してもらえないだろうかと思ったが……そうはいかない様だ。


「キュキュ」

「?」

「キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ」

「うるせぇえええ!!」


 あまりの高音に思わず耳を塞いでしまう。

 それは俺だけではなく、他の三人も同じようで同時に耳を塞いでいた。


「なんだ!?」

「蝙蝠です!」

「蝙蝠!?」


 操り霞で感知してみると、天井に無数の巨大な蝙蝠がぶら下がっていた。

 姿をしっかり見てはいないが、このうるささに耳がいかれてしまいそうだったので思わず連水糸槍で奴らの首を断ち切った。

 すると音は消え、天井から巨大な黒い塊が数個落ちてくる。


 あのような高音をずっと聞いていたら耳がおかしくなってしまう。

 鼓膜が破れてもおかしくない高音だったのだ。


「大丈夫か?」

「なんとか……」

「助かりましたっす……」


 とりあえず全員無事なようだ。

 遠距離攻撃は俺の方が得意なので、ああいう手の届かない奴らが出てきたときは俺が率先して始末していくのがよさそうだ。

 さっきのは全員体を動かすことはできなさそうだったしな。


 しかし……二層に降りてきたからすぐこれか。

 これはちょっと大変そうだ。

 それに数が一々多い。


 俺とアレナは範囲攻撃があるので問題ないかもしれないが、零漸とウチカゲは俺の覚えている限り基本的に前線に出て一匹ずつ倒していく技能ばかりだ。

 洞窟は基本的に狭いので接近戦で戦うことが多くなるのだが、手の届かない相手には無手になってしまうのが痛い所だろうか。


 まぁ、得手不得手はある。

 それを協力して補っていくのがパーティーという物だ。


「どぉわあ!?」

「今度はなんだ!」

「横穴からゴブリンっす! 痛い痛い! あ、痛くないけど気分的に痛い! ふん!」


 横穴から出てきたゴブリンは零漸の手によって三秒で全滅しました。

 数が少ないし、密集していたという事もあるのだが、それでも零漸の動きは無駄なく相手の命を容易く刈り取っていった。


 さりげなくゴブリンに攻撃されていたようだが、零漸の防御力の前には意味をなさなかったようだ。


「いくよー」

「うっす!」


 アレナのマップ作成は順調の様です。

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