4.25.ダンジョン② チームワーク
長い時間をかけて今まで見つけて来た分かれ道を全て記録してきた俺達は、まだ第二層目だというのにこのダンジョンで二日の朝を迎えていた。
ダンジョン内では昼夜の時間が曖昧になるが、このダンジョンの中で寝たのが二回目なので、とりあえず二日はこのダンジョンに潜っているということはわかっている。
アレナは非常に熱心にマップを作成しているのだが……流石に第二層だけで二日も時間を有すとは思っていなかったため、俺は少し疲れてきている。
言っても魔物なのでそんなに疲れるといったことはあまりないのだが、気分的に疲れている。
なにせ殆ど景色が変わらないのだ。
飽きてしまうのも無理はないと思うのだが……疲れているのは俺だけのようだ。
アレナは熱心にマップを作成し、零漸は宝箱がないかをずっと探しているため、苦にはなっていない。
ウチカゲは鬼であるためか、底なしの体力があるようでそんな二人を少し困ったように見ているだけだ。
ここまで来ると俺が短気なのかと思ってしまったりしているのだが、考えても見てほしい。
二日だ。
二日間の間全く同じ景色の場所を延々と歩き回っているのだ。
そりゃ疲れてしまうのも無理はないと思わないかい?
「よし!」
「これでこの階層は全部っすかー……。宝箱なかったっすね~」
「まぁ、浅い場所ですし……他の冒険者がすでに確保していても不思議ではないかと思いますよ」
「それもそうっすね」
どうやらようやく第二階層のマップ埋めが終了したらしい。
すでに第三階層へと進むための道は確保しているため、そのマップを頼りにしていけばすぐに行くことができるだろう。
やっと下に進むことができそうだ……。
ここまで何もなかったので本格的に飽きてきたところだったのでよかった。
食料はまだあるが、洞窟内ではあまり火は起こしたくないので非常食が基本となる。
もっと大きい空間であれば火を起こしてもいいかもしれないが、この先下に行くにつれて空気が薄くなってくる可能性もあるので、極力火は使わないようにしなければならないだろう。
こうなってくると前世にあった自然解凍の冷凍食品が恋しくなってくる。
たまには味を変えてみたいものだ。
「よし、じゃあアレナ。第三階層に降りる場所に案内してくれ」
「はーい!」
アレナを先頭に道を進んでいくことにする。
アレナの書いた地図をちらりと見てみるが、やはりこの二階層はアリの巣上に伸びているようで非常に歩きにくい。
だがこの二階層……正規ルートが一つしかないのだ。
それ故に一度間違ってもすぐに戻ればよかったのでマップ埋めは簡単なものではあったのだが……その距離が無駄というほどに長い。
一本歩くのに数十分や一時間なんてざらだと言うこともあった。
第三階層はそうでないことを祈りたい……。
暫くすると、第三階層に続く道が現れた。
言ってしまえば縄梯子があるだけの簡単なもので、少し不安である。
アレナの身体能力的に縄梯子は危険かと思ったのだが、そう考えている内にアレナはふわりと浮いて先に下に降りてしまった。
「そういえば浮遊持ってたな……」
「俺たちには縄梯子いらないかもしれないっすね」
「かもなぁ……」
零漸がそういうと、空圧結界・剛を使用して第三階層に降りていく。
見えない足場ではあるが、発動した本人には場所がわかるのですいすいと降りていくことができるようだ。
ウチカゲはそのまま下にジャンプで降りていった。
流石鬼……豪快である。
俺はというと、多連水槍を一つ出現させてからそれを掴み、俺自身を浮かせて降ろさせてもらった。
多連水槍や連水糸槍は、もうすでに俺自身を浮かび上がらせるだけの力を有していたことに若干驚いた。
これも熟練度の関係だろう。
第三階層に着地すると、すぐに零漸が空圧結界・剛で俺たちを閉じ込めた。
一体何事かと思い、周囲を確認してみると……蜘蛛のような姿をした生物が空圧結界の周囲にうじゃうじゃと蔓延っていた。
「な、なんだこれ……」
「きもちわるーい……」
「咄嗟に発動させましたけど……よかったっすね」
「皆さん、上を見てください」
「上?」
ウチカゲに言われた通りに上を見てみると、第二階層に続く穴の周囲に、ネズミ返しのような物がくっついているのが見て取れた。
それには棘が付いているようで、それに触っただけで怪我をしてしまうような作りになっている。
「……第二階層に魔物がいない理由はこれか……」
「で、でも蜘蛛って壁走れますよね? どうしてこいつらはこんなところにいるっすか?」
「その蜘蛛の大きさ見てみろ」
周囲にはびこっている蜘蛛は、脚は短く胴体が太い。
この蜘蛛も壁を走ることはできるかもしれないが、あのネズミ返しを越えようとすると必ず体に傷が入ってしまう。
それを知ってか知らずか、蜘蛛たちは理解しているようであの場所には近づかなくなったのかもしれない。
だがそれを理解しているという事は……。
「こいつら頭いいぞ」
「そうなの……?」
「蜘蛛が頭いいわけないじゃないっすかーっはっはっは!」
「じゃあなんで降りてきた瞬間こうして俺たちは囲まれてんだ?」
「はっはっは……んー確かにこいつら手強いっすね」
「おい」
手の平返しにも程があるぞ……。
ネズミ返しの棘の危険性を理解し、冒険者が降りてくるであろう唯一の場所での待ち伏せ。
それに加えて全員が降りてきてから襲撃を仕掛けてきたのだ。
それがこいつらの本能であれ何であれ、多少なりとも狩りのセンスはある蜘蛛だという事はわかった。
しかし頭のいい魔物か。
なんとも面倒くさい奴らだ。
何か前世の蜘蛛の知識で打開策はないかと思案してみたりするのだが……異世界のこいつらに俺たちの知っている蜘蛛の知識が通用するかわからない以上、下手に手を打つのは悪手だろう。
「さて、奴らはそれなりに狩りのセンスのある奴らだ。これをどうすれば一網打尽に出来るでしょうか?」
「はい!」
「はい、零漸君」
「俺の爆拳で──」
「火を使うな」
今の今までずっと火を起こさずに飯を食っていたのを覚えていないのかこいつは。
それに零漸の爆拳は一方にしか攻撃できない。
範囲攻撃ではあるのだが、その範囲は非常に狭いと思ったほうがいいだろう。
「はい」
「はいアレナ君」
「アレナの重加重で全部倒す!」
「ふむ。動きは封じることはできるな。だがアレナの重加重は動きを封じることしかできない。なので最後にトドメを刺さなければいけないぞ。それはどうする?」
「んー……皆で頑張って……」
「それを一網打尽とは言わないな」
アレナの重加重は相手を気絶させるか、アレナが一定距離離れることで解除される技能だ。
なので重加重だけでは倒すことができない。
いい案ではあるのだが、もう一声といった所だ。
「ではウチカゲ。答えを」
「合っているかはわかりませんが……まず零漸殿がこの結界を維持。そしてアレナのグラビティドームを展開し、そこにいる全ての蜘蛛の動きを封じます。次に応錬様の水を操る技能で窒息させてしまえば……時間こそ少しかかるかもしれませんが、これが一番簡単な殲滅方法かと」
「よし、それで行こう」
「えっ」
俺の考えていたのは最後にウチカゲが一掃してくれるという物だったが、確かに俺がやった方が皆の体力を温存できる。
流石ウチカゲ、経験の差が出たようだ。
さて、作戦が決まったので早速行動に移す。
零漸はそのまま結界を維持。
「アレナ」
「はーい!」
アレナがグラビティドームを発動させ、蜘蛛がいる場所を覆った。
俺が操り霞を使用し、全ての蜘蛛の位置を割り出す。
それをアレナに教え、グラビティドームの範囲を決めていき、指定した場所の重力を変更してもらって蜘蛛たちを全て地面に落とす。
蜘蛛がすべて落ちたことを確認した俺は、零漸に一つの指示を出す。
「零漸! 上に空気穴みたいなの作れるか!?」
「もう作ってます!」
「よっしゃ!」
結界を作るときは空気穴を作る事、忘れていなかったようだ。
俺はその隙間に向かって無限水操で作り出した水を大量に排出させていく。
一匹一匹が覆われるほどの水を蜘蛛のいる場所全てに広げ、周囲一帯は水浸しとなる。
俺が無限水操で作り出した水は操ることができるので、無駄な場所には水は届かないようにしている。
全ての蜘蛛が水で覆われたのを確認した俺は、結界の中で腰を下ろした。
「よし。これであとは待つだけだ」
「結界はもういいっすかね?」
「蜘蛛が泳いでくるかもしれないから、このまま維持しておいてくれ」
「了解っす」
【経験値を獲得しました。LVが6になりました】
え!? 俺ってそんなにレベル低かったっけ!!?
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