4.24.ダンジョン① 何もない


 入ってすぐのダンジョンには、様々な冒険者がたむろしていたり、奥に進む準備をしている物が居たりと随分賑やかになっている。


 何故入る前に準備をしないのだろうかと少し疑問に思ったが、彼らにも思うことがあっての事だろうと思ってその場を無視してどんどん奥に進んでいく。


 どうやらこのダンジョンは天然にできたダンジョンのようで、魔物たちが無限沸きしているのだというが……今の所魔物の姿は見受けられない。

 ここは人が多いし、この場所は安全地帯という線も考えたが、結局のところ何もわかるはずがなかったので、アレナに地図を取らせながらゆっくりと進んでいくことにした。


「なーんも出てこないっすね~。他の冒険者も結構いるし……」

「ダンジョンというのは、一階層は比較的安全なんです。それに、こういった人の多い場所では魔物は湧かないのですよ」

「ゲームみたいだな」

「げーむ?」


 そういったゲームがあった気がしないでもない。

 と、いうかそういうゲームは随分と多かったような気がする。

 いや、多いのではなく、そのゲームが有名だったのだろうか……。

 っと、一階層といってもよそ見をするのはよろしくない。


 ちらりとアレナの持つマップ作成ツールを見てみると、それなりに上手い事かけている。

 何がどういう仕組みで作られているのかよくわからないが……これならマップを簡単に作ることができるだろう。


 しかし、こうも何もないと、洞窟をただただ探検しているような気がしてくる。

 別に安全であればそれでいいのだが……できればダンジョンの敵と戦ってみたいものだ。

 なにせ狭い空間で戦うことは今までしたことがない。

 なのでここでの戦いは、良い経験となるはずだ。


 と、いうことなのでさっさと下に降りたいのだが……なっかなか階段らしいものが見えてこない。

 ていうかほとんど直線。

 なんもねぇ。

 これは地図を書く手間も省けますね。


 ってそうじゃねぇんだよ。

 結構奥まで進んできたけど階段どころか横穴一つねぇぞ!

 蝙蝠くらいいてもいんじゃないですかねぇ……。


「何もないな」

「ずーっとまっすぐだねー」

「ん? アレナとウチカゲは一回ここに来たんだろ?」

「はい。前回も同じ道を通りましたよ。二階層ですが俺たちは階段までしかおりてないので、その先のことはわかりませんが」


 どうやら二階層からは本当に未知の領域のようだ。

 未知というほど未知でもないかもしれないが……俺と零漸にとっては今はどんなものでも新鮮なものだ。

 このダンジョン攻略も楽しんでいきたい。


 まぁまだなんもないけどな!



 ◆



「やっと階段っすね」

「なげぇよ……ここまでの直線必要か? 無駄に広いし」

「確かに必要かどうかを問われるとなんとも言えませんが、天然洞窟ですしその辺は目をつぶりましょうよ」

「そうだな……」


 入り口から数十分歩いてようやく二層目に降りる階段と思わしきものを発見することができた。

 どうやらアレナとウチカゲもここに来る際、ここまで遠いとは思ってはいなかったようなので、二層に降りて様子を見てからすぐに引き返したのだそうだ。

 

 この階段だが、一層目だけに設置されている物のようで、これより先は階段らしき物はなくなるのだという。

 難易度は低いと聞いているが、それでも本格的なダンジョン探索ができそうだ。

 ここで基礎を学ぶのは案外間違いではないかもしれないな。


 階段はさほど長いわけではなく、すぐに二層へと降りることができた。

 降りてすぐに目に入ったのは、二つの別れ道だ。


「んー、どうする?」

「アレナ右ー」

「じゃあ俺左」

「阿保。一緒に行かねぇと意味ねぇだろ」


 確かに零漸であれば一人でも問題ないかもしれないが、今回は全員で行動しておいた方がいいはずだ。

 迷子になられたりでもしたら敵わないし、なんせ食料はすべて俺が持っている。

 別行動なんてしたら離れていった奴が死んでしまいかねない。


「じゃあアレナの指示に従うっす」

「それがいい。じゃあ右に行くか」

「えーっと……ここが階段で……分かれ道があるっと……うん! いいよー!」


 どうやらマップ作製も順調のようだ。

 マップのことに関しては完全にアレナに任せてもよさそうなので、俺達は周囲警戒を怠らないように進んでいくことにする。


「そういえば……このダンジョンって平均何日くらいで制覇できるんだ?」

「あー……それはわかりませんね。このダンジョンが何階層あるかもわからないですし」

「制覇した人とかも調べれなかったしな。ま、一週間くらいで制覇できるだろ。わからないのも醍醐味だしな」

「そうですね」


 全てがわかっているダンジョンなど面白くない。

 分からないからこそ、進んでみて何が必要か、どんな敵がいるのか、ではどうすればいいのかを考えながら行くのがダンジョンだと俺は思う。

 最も、零漸はもっと別の捉え方をしているかもしれないが。


「お宝お宝……」


 ……。


 暫く進んでいると、少し広い空間に出た。

 ここには一層目から降りてきたと思われる冒険者たちがテントを張っていた。


 こいつら何処にでもいるな。

 ここも安全地帯なのか、テントに交じって出店も出ているみたいだ。

 もう安全地帯とか別にいいんだけど……。


 とは言っても店があるのであれば、ここで何かそろえていくのもありかもしれないと思い、ちらっと見てみたがアクセサリーが売ってあるだけだったのでさっさと進むことにした。

 が、その前にアレナに止められてしまった。


「ねぇねぇ。階段降りる前の左の洞窟ってどこに繋がってるの?」

「ああ、そういやわからないな」

「こっから見てさっきの洞窟から繋がってそうな場所はないし……もしかしたらもっと別の場所に繋がってるかもしれないっすね」

「戻ろ?」

「「えっ」」


 そう言い残してアレナは先ほど来た道を戻り始めた。

 どうやら地図を全て埋めたいらしい。

 確かに一か所だけわからない場所があるというのが、非常に気にかかる人もいるだろう。

 アレナはまさにそのタイプだったようだ。


「え、アレナ待って!? 戻るの!?」

「戻る。全部埋める……!」


 あかん、この子完全に燃えていらっしゃる。

 さて、アレナについていくのはいいが、ダンジョンを攻略するのに一体どれだけかかるのか……。


 これは本当に一週間以上かかってしまいそうだなと思いつつ、来た道を四人で戻ることにした。


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