3.46.俺の装備
零漸の防御力を確かめてから二日が経った。
その間に俺達は里を歩き回って俺が白蛇であると各々に伝えて回ることになった。
歩いてみて思ったが、やはりこの里は広い。
様々な品が作られていて、一人一人に任せられた仕事がちゃんある。
何処からか槌を振るう音や、売っている商品の宣伝をする鬼たち。
そして時々子供が走り去っていく。
喧嘩も時々起きているようだが、大体は口喧嘩までで終わっているところを見るに自分たちの力の使い方だけはわきまえているようだ。
こんなところで使われたら家の一つや二つなんて軽く飛んでいきそうだからな。
歩いている道中、俺の刀を打ってくれるという鍛冶師の所にも赴いた。
俺からどんな姿の刀がいいのかと色々聞かれたが、とりあえず白色をベースに作ってくれたら良いと言って置いた。
後は好きにしてもらいたい。
変に注文してしまうと鍛冶師の方が困ってしまうかもしれないからな。
しかし、刀の完成にはやはり時間がかかるようで、一ヵ月は待ってほしいと言われてしまった。
もうすでに急ぐことのない旅ではあるのだが、それまでここに居なければならないというのは少し勿体ない気がする。
とはいっても届けていくわけにもいかない。
なので素直にこの里で待つことにした。
暫く日本食が食べれるぞ。
因みに今回俺の刀を打ってくれる鍛冶師だが、この里では一番腕がいい職人らしい。
見たところライキと同年代と思われる爺さんだ。
あまり力のなさそうな爺さんではあるが、確かにこの人ならいいものを打ってくれそうだという謎の確信が沸いてくる。
これは期待してもいいだろう。
爺さんは「これがわし最後の作品じゃ」と言っていたが、そんなこと言わずに、もうちょい長生きしてほしい。
修理もしに来るかもしれないんだから頼むぜ。
そしてウチカゲもこの鍛冶屋には用があったらしい。
愛用の鉤爪の修理だそうだ。
ウチカゲは鉤爪を鍛冶師に渡すと、鍛冶師はその刃を舐めまわすように見た。
「おいおいウチカゲ……」
「言いたい事はわかっている」
「はぁ……今度は馬車かなんかに砥石入れとけ。後これもう使えねぇから鉤爪は交換するぞ?」
「わかった」
そう言って鍛冶師は爪を全部外してから奥へと進んで行ってしまった。
確かにウチカゲの鉤爪は随分とボロボロだった。
あれだったら修理するより交換したほうがはやいのだろうな。
「応錬ー」
「なんだ?」
「私もこの武器ほしい」
そう言ってアレナが指さしたのは薙刀だ。
薙刀とはいっても大きい物ではなく、どちらかと言えば短槍に近いものだった。
身長的にはアレナにぴったりではあるのだが……実戦経験のないアレナにこれを持たせるのはまだ早いと思う。
ウチカゲに目配せをしてどうしようかと聞いてみたが、やはり首を横にふった。
まぁそれはそうだろう。
こんなに長い物を簡単に振り回せるほどの筋力もないだろうしな。
「アレナにはまだ早いかな」
「むー……じゃああとどれくらいしたら私も使えるようになるかな?」
「そうだな。せめて自分でお金を稼げるようになってからだな。自分で買うんだ」
「確かに!」
わかってくれたようではあるが、やはり今まで見たことのない武器に少しだけ興奮しているようだ。
これは私でも使えるか、と事あるごとに俺に聞いてきた。
もともとアレナには小太刀をあげる予定だったので、この店にある小太刀を一本だけ譲ってもらうことにする。
今のアレナには小太刀と解体用ナイフだけで十分だろう。
後は実践でどのような武器が自分に合っているのかという事を確かめればいいだけだ。
注文もしたし、ウチカゲの武器の修理も頼んだ。
それにアレナにも新しい武器を買って上げれたので、俺たちはまた里を回っていくことになった。
◆
城に帰ってくると、どうやら俺に作られた装備ができたそうだ。
驚くほどに速い。
鬼たちに連れていかれて早速着付けをさせられた。
どうやら二種類あるようだ。
一つは完全に戦闘用だった。
はっきり言おう。めちゃくちゃかっこいい。
俺の髪の色とは対照的な黒い侍鎧。
胴、垂れ、肩当て。
それに籠手もあれば脛当てもあった。
具足だ。
だがやはり兜はない。
鬼は兜を被るという事をしないのだから仕方がない事ではあるが、少し残念だった。
そしてその上に羽織る陣羽織。
これもなかなかに重い。
だが全体的に黒と白色が混じり合っており、背中には蛇を家紋としたようなマークが刺繍されていた。
シム曰く、この鎧は先代白蛇が鬼たちに作らせたといわれる『黒鱗鎧』と呼ばれている具足のレプリカなのだという。
何故蛇なのに具足を作らせたのかは未だ分かっていなかったようなのだが、俺が人間の姿で帰ってきた事で、先代白蛇も人の姿になれたからではないかという仮説が立てられていた。
まぁ俺にはどうでもいい事なのだが……。
そして今度は普通の着物だ。
とは言っても多少なりとも装備は付けられていた。
まず服だが、色は白と灰色、そして黒色を多く使っているようだ。
膝まである羽織が一つあり、その中に着ている服は花菱の文様が所々に刺繍されていた。
この服は着流しでないようで、下は袴。
折込の入っている袴は足に取り付けられている脛当ての中に押し込まれており、歩きやすいようになっていた。
外からでは見え辛いが俺の腕には籠手が隠れている。
足と腕だけではあるが、何もしていないよりかは良いとのことでこうして装備を付けさせてもらっている。
この服装だと胴体の防御力が皆無ではあるが、それでもこの服はとても頑丈だった。
何なら若干重い。
「随分重いな」
「それはそうですとも。この生地の中には鬼たちでも千切れない鉄の刺繍が入っているのですから」
シムは俺の着付けをしながらそう教えてくれた。
鬼でも千切れないって……どれくらいの鉄がこの服に入っているのだろうか。
まぁこれだけでも十分な装備だという事なのでいいだろう。
先ほどの具足だけは収納袋に入れておく。
流石に両方を着て持ち歩くなんてことはできないからな。
「わー! 応錬様とってもお似合いです!」
「姫様も一緒に作ってくれたんだったな。有難うよ」
「はい!」
前に来ていた服もかっこよかったが、やはり和服が良い。
それにこの和服は着やすくて良いな。
上を着て前を止めてから袴の帯を巻いていくだけ。
これなら俺一人でもできそうだ。
しっかしこの羽織重いな。
これにだけ鉄がめちゃくちゃ入ってそうな気がする。
だがこれならちょっとやそっとの斬撃では、俺に届くことはないだろう。
兎にも角にも、ようやっと俺たち全員の装備が整った。
後は俺の三尺刀とウチカゲの鉤爪の修理を待つだけだ。
それまでは前鬼の里でゆっくりさせてもらうことにしよう。
因みに。
俺の装備を零漸とアレナに見せると零漸は勿論の事、アレナも殴り倒すかの如く俺の装備に関して褒めてくれた。
俺よりシムと姫様のほうが嬉しそうにしていたのが印象的だった。
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