8.15.説明と増援
玉座の間にて、ダチアが状況の報告を求めた。
相変わらずヤーキはダチアに抱き着いて顔をぐりぐりとしているが、イーグルは片膝をついて首を垂れる。
その後、先ほど見て来た状況を説明した。
「はい。バミル領に生まれ変わりの二人がいました。更に鬼が戦力として加わったようで、当初の予定である改造オークだけでの進軍は難しいかと」
「鬼が居ても居なくても、生まれ変わりがいるだけで策を変える必要があるというのに……。領民の数は? 少しは減っていたか?」
「いえ、全くと言っていい程動いておりません。どうやら戦う気満々のようで……」
「めんどくせぇ……」
頭をガリガリと掻きながら、困ったような表情を見せる。
少しでも減ってくれていた方が楽だったのだが、こうも全員が残ってしまい、更に援軍が来るとなれば片付けが困って仕方がない。
ダチアにとって、戦闘は極力避けたいものであった。
今は戦力を削りたくない。
まだ他の国でも悪魔が暗躍しており、次の襲撃の準備を整えている。
今回は襲撃場所が急に追加されてしまったので、下準備をすることができずにこうして強硬な手段をとるしかなかったのだ。
素早くバミル領を壊すことが、今回の目的となる。
だがしかし、生まれ変わりが二人、更に鬼の援軍が来ているとなると、攻略は困難を極めることになってしまうだろう。
日輪の生まれ変わり、応錬は強力で様々な広範囲攻撃を有している。
奄華の生まれ変わり、鳳炎はその強力な炎魔法と不死の力が非常に厄介であり、炎に関しては燃え移った瞬間に負けが確定してしまう。
それに唯一対抗できる技能を持ったダチアでさえ、まともに戦いたくはない相手であった。
「しかし、ヤーキが仲間を使ってくれるそうです」
「……そうなのか?」
「ハイ! オヤクニ、タチマスヨー!」
「……裏よ。お前はどうなのだ」
ヤーキの目がどす黒くなり、ダチアから離れる。
「殺せば殺す程、奴らが死ぬ可能性は、高くなる。だけど、殺しても、いいんでしょう?」
「ああ」
「生まれ変わりも?」
「……ああ」
なんにせよ、殺す気でいかなければあの者たちを撤退させるなどということは不可能だろう。
前回だってそうだった。
まず生まれ変わりがサレッタナ王国にいる事さえ知らず、ただ殺しまわろうとしたのに、兵士のほとんどを逆に殺されてしまったのだから。
こちらも本気で挑まなければ、負けることになる。
負けられない戦いなのだ。
「ダチア様。失敗したら、どうなるの?」
「次の場所に移る。だが、できれば成功させておきたい。少しでも多く……な」
「そーだよネーェーェエエー……アディ?」
表の人格に戻ったヤーキは、またキョトンとして周囲を見渡している。
これももう慣れた事だ。
「ヤーキ。お前の仲間の戦力はどれくらいだ?」
「ウ? ゴマン、ダヨー」
「出撃できるのは?」
「イッペンニハ、ムリ。デモ、イチマンハ、イケルヨ!」
「一万か。十分だ」
飛行戦力がヤーキの部隊、ケラケ一万。
地上部隊は、寄せ集めの改造オーク五百。
そしてヤーキの裏人格の技能をもってすれば、あの程度の領地は簡単に沈むことになるだろう。
どれだけの戦力を整えようと、どれだけ設備を充実させようと、それは意味を成さない無慈悲の攻撃となる。
地上部隊の戦力は既に待機しており、後は出撃命令を出すだけだ。
ヤーキの部隊、ケラケ一万には一度この城に集まってもらい、ダチアがゲートで直接送り出すことにする。
そのようなことを頭の中で考えたダチアは、知らない間に玉座で座っていた魔王に目を向ける。
細い体の割に大きな服を着ており、着ているというより着せられているといった風に見えなくもない。
何かの魔物の毛皮で作られたコートには毛も使われており、その黒と赤を基調とした服は少しばかり奇妙な雰囲気を漂わせているようにも感じる。
長い手袋に長いブーツ。
加えて細い体にピチッと合わせられた服は、高貴な者であるという印象と同時に、何故か若干の荒々しさも伝わってきた。
その赤い角と赤い翼の生えた悪魔の女性に向かって、ダチアは返答を求める。
「いかがでしょう、マナ様」
「……私たちは、もうどこに行っても悪者になるのかしら?」
「致し方のないことです。相手方からしてみれば……侵略ですから」
「そう……」
魔王のマナは、その後荒々しさを完全に潜め、女性らしくしゅんとしてしまった。
こうして見てみれば、普通の人間と何ら変わりがない。
悪魔は人間よりも少し魔力が高く、奇妙で強力な技能を持っている一族に過ぎない。
考え方を変えれば、の話ではあるが。
「じゃ、宜しくね」
「はっ。ヤーキ、今すぐケラケの軍をこちらに回せ。イーグル、君は戦場へケラケと共に行け。イウボラも付ける」
「承知しました!」
「アーイ! マナサマ! マタネー!」
「はい、またね」
イーグルはすぐに行動に移し、ヤーキはマナに手を振ってから窓を開けて飛んでいってしまった。
子供の性格をしているヤーキは、今の悪魔たちにとっては唯一の癒しのような存在となっている。
裏の人格がなければ、もっと可愛がれるだろうが、そういうわけにはいかないだろう。
ヤーキはつい百年前に産まれた悪魔である。
子供を可愛がるのは、親としては当然のことであった。
「マナ、これでいいのか」
「これしかないでしょ。もう生まれ変わりは覚悟を決めてあそこにいるはず。他の悪魔たちも援軍に向かわせたいけど、これからの事を考えると今やってもらっていることを止めて引き抜くわけにはいかないわ」
「そうだな……」
子供にあのバミル領を任せるのは心配だ。
だが今は、これしか手がない。
何とか無事で帰ってきてくれと、二人は願うしかなかった。
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