8.14.悪魔の兵


 バミル領のはるか上空。

 雲が手に届きそうなほどまでの高度に、二人の悪魔がバミル領を見下ろしていた。


 一人はバミル領に直接赴き、宣戦布告をした悪魔、ヤーキ。

 もう一人はオレンジ色の髪に黒い翼と黒い角を生やしたイーグルという悪魔だ。

 ダチアが応錬と対峙した時、レクアムに憑いていた悪魔である。


 ヤーキは手を双眼鏡のようにして、バミル領を観察していた。

 ニコニコと子供の様な笑みを浮かべて、楽しそうにしているようだ。


「で、どうなの?」

「ウーン……。オニ、ダァー!」

「鬼?」

「ウン。オニガ、エングンニ、キタミタイ」

「よりによって鬼か……。これもダチア様に報告だなぁ。これじゃ魔物の兵が全部やられちゃうよ」


 それを聞いたヤーキは、バミル領の遥か南側の方に、手で作った双眼鏡を向ける。

 その方角は森の方であり、その中に紛れて数体の巨大なオークが潜んでいた。


 今回はレクアムの実験で強化されたオークを向かわせる予定だったのだ。

 あの個体であればほとんどの遠距離攻撃は弾かれ、更に攻撃力も強く街を破壊するのには持ってこいの個体である。

 しかし、鬼が来た以上、このオークは瞬殺される可能性が高くなった。

 振り下ろされた武器での攻撃も簡単に返されてしまうだろう。


 人間だけであれば簡単に突破できる算段だったのではあるが……。

 こうなった以上違う兵を送る必要がある。


 更に今回も同じく、生まれ変わりが滞在していた。

 どうしてここが襲撃場所だと把握したのかは全く分からない。

 だがここに来たのは偶然ということではないはずだ。


「ていうか、なんでヤーキはあの時姿現しちゃったの。宣戦布告は襲撃三日前だったはずだけど?」

「ダーッテダッテー。シッテタシ、イイカナーッテ。ミテルダケジャ、ヒマダヨ」

「そのせいで防衛施設が作られていることに、何か申し開きししたいことはある?」

「ゴメーンチャイッ☆」

「せめて目を見て謝って」


 ヤーキは相変わらずバミル領の状況を見続けている。

 鬼たちと人間たちが防衛施設を作り上げているところだ。

 彼らが来たことによりその効率は上がり、もう完成間近である。

 資材だけは豊富にあったので、作るだけだったというのもあるだろうが、やはり鬼の介入は大きい。


 純粋な戦力強化。

 素の接近戦で鬼に勝る種族はいない。


「ヤーキ。君の仲間たちを使ってくれないか?」

「イイケドー、ボクノトモダチ、セントウギノウ、ナイヨ。カカエテ、オトスクライ」

「飛行部隊でしょ? それだけで十分な戦力だから。数も多いって聞くし」

「ツカエナイカラ、タイキシテル。カナシイー。ボクミタイナノガ、メズラシイノ」

「ああ、そう……」


 そういった後、ヤーキはイーグルにようやく目を合わす。

 可愛らしいその表情とは異なり、その目は漆黒に染まっていた。


「でも、僕だけが使える強い技能、あるよ」

「使うの?」

「使うよ? だって、逃げてないからァーアアー……アデッ?」


 普通の表情に戻った。

 目は漆黒の色ではなく、普通の綺麗な瞳に変わっている。


 ヤーキ、二重人格。

 裏の人格は表の人格が話していることを聞いているようだが、表の人格は裏の人格が話していることを覚えてはいないらしい。

 だが技能を使ったことは覚えているらしく、いつもそれで大変な目に合っているのだが……こういう時は頼りになる。


 表の人格は可愛らしい表情や仕草をする、本当に子供のような性格。

 だが言葉が片言であり、技能は使用できないようだ。

 その代わり索敵と潜入調査に非常に長けている。


 裏の人格は綺麗な喋り方をするので、話がしやすい。

 しかしその性格は少し問題があり、何か気に入らないことがあるとすぐにでも技能を使用してしまう暴れん坊だ。

 裏の人格ということで制限はあるが、その技能は非常に強力でほとんどの敵を倒すことができる。


 ヤーキは下級悪魔ではあるが、その実力は表の人格によるものだ。

 裏の人格の実力は上級悪魔に匹敵するだろう。


 フルフルと顔を振るったヤーキは首を傾げる。


「ナンカイッテタ?」

「いいや、何にも?」

「ソッカー」


 そのままくるっと回転して、ヤーキは飛んでいく。

 それについていくようにしてイーグルも翼を広げた。


 暫く飛んでいくと、小さな紫色のゲートがあった。

 二人はその中に入って行くと、ゲートはすぐに閉じてしまった。


 二人はその中を突き進む。

 途中出口が見えたので、そちらに向かって飛んでいく。

 するととても広い空間に出た。

 どうやらここは城の玉座のようだが、雰囲気は非常に暗く外は赤黒い色に覆われている。


「ダッチアッサマ~!」

「こら! ダチア様をそんな風に呼ぶんじゃない!」


 そこには、窓から外を見ているダチアの姿があった。

 二人の姿を見て、飛びついてくるヤーキの頭を撫でた後、ダチアはイーグルに目を合わせる。


「報告を」

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