8.13.援軍到着
襲撃まで一ヵ月を切った頃……。
バミル領は活気に包まれていた。
これから悪魔が攻めてくるというのに緊張感がないのではないだろうか、と普通の者であれば思うかもしれないが、その活気は皆が面白可笑しく騒いでいるのではない。
誰もが戦いに向けて防衛施設の建設を急ぎ、指示や掛け声が飛んでいるものである。
これ程にまで結束という言葉が似合う国は中々にないだろう。
一人の領主の為に、領民全てが協力して防衛施設建設に尽力している。
建設の指示はバラディムが行っているが、細かな指示はバラディムの部下が担い、それを聞いた大工の棟梁たちがまた弟子たちに指示を飛ばしていた。
危険な仕事であるのには変わりがないので、誰もが必死になって掛け声を出し、危ないことをしている者が居れば怒鳴りつけたりしている。
他の領民たちは生活に必要な物を準備したり、いつもの仕事をしていたりと様々ではあるが、誰もがこれからに必要な物を作っていたりしていた。
今一番必要なのは水を溜める樽である。
何故かというと、それは俺が領民に支給する武器に水が必要だからだ。
水がなくなれば、水弾ガントレットに使っている水を使って弾を撃つので、弾切れは水弾ガントレットの故障に繋がってしまう。
これは何度か領民と試し撃ちをしてもらって発見したことである。
全員がこの武器の使い方を把握はしたものの、実はこれ、残弾の水がどれだけ残っているのか非常にみにくいのだ。
水を溜める為の小さなタンク。
これも水で作っているので、その中にある水など把握できるわけもない。
おおよそ三十発程度撃つと空になってしまうということは分かったのだが、どうやらこの装置は俺が簡単に作ってしまったものなので使用する水の量もランダムなのだ。
だが二十発までは確実に撃てるということが分かっているので、二十発撃ち込んだら水に漬けて残弾補充をして貰うようにと呼び掛けている。
それさえ気を付けていれば、壊れることのない良い武器となる。
まぁ壊れるっていうか解除されるんだけどね。
射程距離は大体二百メートル。
有効射程距離は百メートルといったところだろうか。
これだけあれば上空の敵は勿論、地上から攻めてきている敵にも何とか届かせることができるだろう。
弓のように山なりに飛んでいくわけではなく、見えにくい攻撃になるので非常に有効な攻撃手段となることだろうとのことだ。
因みに、これを一個作るのに必要なMPは3。
百個作っても300MPで、非常にコストが安い武器となっている。
コスト重視で作ったしね!
ここまで良い武器になるとは思わなかったけど、まぁ大丈夫だろう。
と、バミル領の防衛施設建設途中、ようやく援軍がやってきた。
それは……。
「おーい皆ー! 鬼たちが来てくれたぞー!」
「おっ、来たか」
門番が近くにいた領民に、鬼たちが来てくれたことを大声で報告してくれた。
今は外で待機してもらっているらしく、何処で寝泊まりをしてもらうか検討するらしい。
こういう時は大体サテラが来て挨拶をするのだそうだが、呼びに行くんだから時間がかかる。
ということなので……俺が行かないわけにはいかないよなぁ?
無理してきてもらっているんだからね。
ということで鬼たちが待っているという門の方へと足を運んだ。
そこにはしっかりとした武装に身を包んだ鬼たちが立っている。
誰もが紫色の武具を身に付け、手には大きな金砕棒が握られていた。
やはり鬼なので頭の防具はないようだが、それはそれでいい。
そして、俺が出てくるや否や全員がすぐに片膝をついて首を垂れる。
中から一人の鬼が出てきて、俺の前に立った。
その鬼は黒色の角をしており、同じような紫色の武具を身に付け、腕には仕込み熊手のようなものが装備されていた。
目隠しもしているようだ。
「応錬様。援軍の要請を受け、我ら
「お、なんかかたっ苦しいなぁ。ウチカゲ?」
「はははは、まぁ礼儀みたいなものですのでね」
まさか援軍にウチカゲが戻ってきてくれるとは思わなかった。
ていうか何だ鬼童兵って。
「前鬼の里の精鋭部隊です。で、俺はその大将ですね」
「出世したなぁ」
「もう俺は鬼人ではなく鬼なので、力も違いますから」
「そうなのか。なんにせよ助かる。戦いまで一ヵ月もないから、早急に防衛設備を整えたいんだ」
「なるほど。ではまずはそちらの手伝いですね。でもまずは……」
ウチカゲは俺の後ろを見る。
振り返ってみると、サテラとバラディムがそこにはいた。
サテラはウチカゲを見ると、笑顔になって走って近づき、手を取って挨拶をする。
「ウチカゲさん! お久しぶりです!」
「ええ、久しぶりですね。立派になられたようだ」
「へへへへっ。皆さんの宿は用意してあります! まずはそっちに荷物を!」
「領主自らお出迎えとは……。相当変わっていますね」
「そうなのかしら?」
うん、多分それはウチカゲの言う通りだと思うなぁ……。
まぁ個人的に会いたかったっていうのはあるんだろうけどね。
それから鬼たちには宿に行ってもらい、荷物やここでの生活の説明を受けた後、早速作業に取り掛かってもらうことにした。
領民の反応は良好であり、異種族だとしてもバミル領を守ってくれる存在には変わりがない。
更にその仕事ぶりにより、友好関係をどんどん築いていったようだ。
これなら共に戦っていけそうだと、その場にいた誰もが思ったことだろう。
ウチカゲはバラディムと当日の動きについて話し合っていた。
暫くかかりそうなので、今は話しかけないでおくとしよう。
「やっぱウチカゲがいると、なんか安心するなぁ」
「そうなの?」
「まぁ俺が人間の姿になれない時からの付き合いだったしな」
「へー。……ヘクチッ!」
「大丈夫か?」
「うん」
周囲を見てみれば雪が多く積もっている。
毎朝領民が雪かきをして、通路を歩きやすくしているほどだ。
……これ、樽の中の水凍るな。
対策を考えておくか……。
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