8.12.遠距離攻撃部隊


 バラディムが机に広げた地図は、このバミル領の全体マップだった。

 開拓もしているので姿形は今と少し違うようだが、今はこれが最新のものらしい。


 歪な楕円をしたバミル領。

 だが中央にある城壁は綺麗な円形となっていた。

 平地にある領地なので、できる限り丸い形にしているのだろう。

 中央を守る為ではあるだろうが。


「このバミル領には大きな投石機やバリスタなどはありません。それを置く場所も然りです。なので空からの敵、及び敵地上部隊への先制攻撃は弓、魔法などで対応をするしかありません」

「中々厳しいかもしれないな……」

「私がいるぞ! 一人で千人分の遠距離攻撃を放つことが可能である!」

「盛るな」

「盛ってないぞ!」


 まぁ盛ってはいないだろうけど、一人で全部何とかするっていうのは難しいだろう。

 どうせ鳳炎は悪魔と対峙して地上部隊どころの話じゃなくなるかもしれないからな。


「バラディム。バミル領の戦力で遠距離攻撃を使える者はどれくらいいるんだ?」

「戦力として数えていいのは、弓、魔法部隊を加えても三百人程度」

「それでバミル領の外壁に均等に配置するとなるとどうなる?」

「圧倒的に数が足りませんね。こればかりは援軍頼みです」


 先制攻撃がままならないというのは厳しいな……。

 それによってどれだけ前線で戦う者が楽になるか……。


「領民に弓を教えるか?」

「んー、使えるようになるとは思いますが、あまり期待しない方がいいかもしれません。一ヵ月程度の訓練では狙って射ることはできないでしょうからね」

「それ必要か?」

「え?」


 確かに狙って射ることができればそれなりの戦力として数えられるだろうが、戦ったこともない領民たちのそれを期待するのは難しい。

 だが遠くに射るのであれば、精度などは必要ないはずだ。

 とにかく遠くに、数を飛ばせばそれだけで牽制になるし、まぐれ当たりでも起こしてくれればそれは立派な戦力となる。


 数が多ければ多い程、その確率は上がるはず。

 ただ遠くに飛ばすということだけでればそんなに難しくはないだろう。


「そ、それなら……。もし領民に弓を遠くに飛ばすことだけを教えるとするならば、戦力は膨れ上がるでしょう。ですが今度は弓と矢が足りません」

「ぐっ、そう来たか……」


 小さな領地で領民全員の武具を用意できるわけがない。

 数ばかりに目がいって一番大切なところを見逃していた。


 矢の製作にはそれほど時間を使わないが、弓となると時間がかかるらしい。

 猶予はまだあるとしても、残っている時間で領民分の弓を作るのは不可能との事。


「ガロット王国からの輸入……」

「お金がないです」

「くっ……」


 金銭は武器や防衛施設ではなく復興にほとんどを使ってしまっているので、それほどの余裕はない。

 こうなってくると確かにガロット王国からの兵士頼みになってしまうな。

 もう少し何とかなればと思ったのだが……。

 これじゃ望みは薄いか……。


 すると、サテラがバラディムの服を引っ張った。


「バ、バラディム。皆さんはこのバミル領を守ろうとしてくれています。今もそのために他の建築を中断し、城壁の建築に向かわれました。誰もが逃げようとはしません。なにか……なにか他に戦いで皆さんが役に立てることはありませんか?」

「そうは言われましても……」


 バラディムとしても、何か役に立てることがあれば参加してもらいたい。

 だが前線に出たとしてもすぐに殺されてしまうだろうし、俺が提案したものも数が足りないので不可能。

 それ以外に彼らができることといえば……逃げてもらうことくらいであった。


 少し酷かもしれないが、戦えない者は邪魔になることが多い。

 今回もそうだ。

 どうしたって戦闘経験のない彼らができることは少ない。

 であれば生き永らえてもらう為に、逃げてもらっておいた方がまだいいのかもしれない。


 生きていればまた街を復興することができる。

 死んでしまってはそれで終わりだ。

 

「んー……。んーー……」

「なんだなんだうるさいな……。どうしたのだ?」

「いや、ないなら作れないかなーって思って……」

「はぁ?」


 俺は多連水槍や連水糸槍など、多くの水で作られた武器を作ることができる。

 これを他の者たちにも持たせれる技能にすれば……いいのではないだろうかと考えて今水鉄砲を作っているのだが、なかなか上手くいかない。


 発射されるのが水弾(鋭)をイメージして、水で作った銃の水を使って撃つイメージなのだが……。

 これは弾と銃本体を別で分けた方がいいかな?

 あ、でも銃はこの世界では馴染みのないものか……。

 吹き矢の形にして見る?

 いやでも、それだと狙えないか……。


 あ!

 籠手に着ける暗器みたいにしたらいいじゃないか!?

 あのー、ほら、手の甲に付けて針を発射するようなあれ。

 腕の方に小さめの水タンクを付けておいて、その中の水を使って水弾(鋭)を発射する。

 理屈とかは知らないので何とか頑張って発射できるようにしてください。


 魔法のある世界なんだから何とかなるっしょ!

 てか何とかしろ!!


 ということでまずは自分に付けてみる。

 腕を伸ばして手の甲に針を発射するような小さめの武器を作り、標準も付けておく。

 タンクは手の平側の手首付近に小さく作っておけばいいだろう。

 で、トリガーは手で強く握ると発射できるようにする。

 どうっすか!!


【新しい技能を開発しました】


 しゃおらあああああ!!


===============

―水弾ガントレット―

 水弾(鋭)を発射することができるガントレット。

 水がある限り連射可能。ガントレットを水に浸せば水が補給される。

===============


 籠手扱いになるのか。

 でも連射可能か! 凄いじゃん!


 てことで試し撃ち。


「おい待て応錬。それは何であるか」

「鳳炎盾持ってる?」

「ないが?」

「じゃあそのままで」

「は?」


 防具してるし大丈夫っしょ。

 ていうか今までのお返ししてなかったな!

 よーし動くなよ今すぐハチの巣にしてやるわ。


 ……って思ったけど、流石にサテラの前じゃなぁ……。

 よし、なんか良いのないかな?

 というか部屋でやるのは良くないな。

 ちょっと窓開けて……んー、お、鳥を発見。


「狙いを定めてー……」


 ピシュッ! パシュッ!

 拳に力を入れると、拳の上についている銃口から水弾(鋭)が発射された。

 一発目は当たらなかったが、二発目で鳥を仕留めることができた。

 だが……。


「……あれ、鳥は?」

「私が見ていた限りだと、破裂したが」

「スラグ弾かな?? てかお前目がいいのか」

「鳥だからな!」


 妙に自慢げにしている鳳炎は放っておいて……これ、使えないかな。

 消費MPも非常に少なく、数を揃えることも可能だった。

 シンプルな武器で無駄な装飾とか一切ないものだけど、これであれば……領民でも戦えるのでは?


「どうだバラディム。これ、使えないか?」

「それであれば確かに……使えるかもしれませんね。弓を引く力も要らないし、狙いを定めるのも難しくはない……。応錬様にだけしか作れない物ですし、真似するのも不可能でしょう」

「決まりだな」


 構造的に絶対に真似できないようになってるし、これはここだけでしか今のところ使わない。

 水があれば何度でも発射できるし、精度もあるので上空の敵も何とかなるだろう。


 となると戦闘では撃つ係と水を運んでくる係に別れないといけないな。

 よし!

 なんとか希望が見えてきたぞ!!

 

「応錬さん、ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 サテラは頭を深く下げる。

 まぁ俺が気絶しない程度に作らないとな。

 流石に領民の数全員分は無理だろうが、水を運んでくる者たちも必要だし、作る数もそんなに多くはないだろう。


 じゃ、後は配置について検討するか。

 でもこれは内情を良く知っているバラディムに任せるかねぇー。

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