8.11.防衛に向けて
調査に向かってから数時間後。
大体の周辺の地形などを把握し、土地精霊で魔水晶が埋まっていないかどうかを確認してきた。
今はサテラの屋敷に集まってこれからの事について話し合うところだ。
俺が調べた限り、魔水晶は一つとして埋まっていなかった。
進化したこともあって動かせる土の量や、調べることのできる範囲も広がっており、このバミル領一体を全て調査することができた。
精度もそれなりに上がっており、土の中にいる生物なども把握できたのだ。
とはいえ、魔水晶はおろか他に気になるものなどは一切なかった。
サレッタナ王国の襲撃からそんなに日は経っていないこともあって、下準備などはできていないのだろう。
あの時が少し入念すぎただけだ。
復興し始めたばかりのバミル領なので、防衛施設もまともに整ってないと踏んでの襲撃かもしれないけどな。
向こうにとっては余裕ということなのだろうか……。
「話し合いをする前に一つ言っておかなければならないことがありまして……」
サテラが少し深刻そうな顔をして、そう言った。
サテラがこんな表情をするのは珍しい。
それはバラディムも思ったのか、少しばかり驚いて心配そうにしている。
全員が次にサテラが口にする言葉に耳を傾ける。
「悪魔が来ました」
「「なんだと!?」」
悪魔が来た!? 今!?
ど、どうして今悪魔がこのバミル領に来る必要があるのだ?
まだ悪魔が来るという情報はこの領地にいる人々しか知らないはず。
奴らはその情報を知らないので、奇襲を仕掛けられると高をくくっていると思っていた。
だが、悪魔がここに来たとなれば、その奇襲は意味を成さなくなる可能性が高い。
悪魔の存在の出現によって、領民は警戒をするはずだからだ。
……奇襲するつもりはなかったということなのか?
「その悪魔はどうしたのですか!?」
「あ、えっと、少しアレナが戦って、逃げていきました。でも……宣戦布告をしていきました……」
サテラの話によると、アレナと二人で領民たちに悪魔が攻めてくるという情報を共有した時、突如として小柄な悪魔が浮いていたアレナの後ろに出現したのだという。
そして宣戦布告をした。
その内容は妙な物であり、逃げるのであれば殺さず、逃げないのであれば殺すというもの。
さらに逃げても逃げなくても、この街は壊すらしい。
これは必要な事らしく、人の命を全て奪わないにしろ、破壊行為だけは絶対に行うようだ。
その話を聞いて、アレナはすぐに悪魔を仕留めるべく技能を使用した。
地面に落ちた悪魔を、三人の領民がタコ殴りにしたのだが……。
「重加重は一度は効いた。その隙に皆が叩いてくれたんだけど……変な技能で吹き飛ばされて、私が掛けていた重加重も弾かれて、今度は私に重加重が掛かったの。使った技能は反転って言ってた」
「反転……であるか。漢字にすると良く分かる技能であるな」
「カウンター技能の可能性が高いか……」
アレナの話から推察するに、自らが喰らった攻撃、技能を弾き返して攻撃者、術者に返す技能なのだろう。
アレナの重加重が自分にかかったと言うのだ。
おそらく間違いはない。
物理攻撃も全てカウンターで弾き、その領民三人は吹き飛ばされたのかもしれないな。
本当になんで悪魔はそんなに面倒くさい技能しか持っていないんだ。
これじゃ攻撃できないじゃないか。
「でもあれだな。それだとアレナは相性が悪すぎるな」
「うん……」
技能で相手の動きを止めるアレナの技能では、非常に相性が悪い。
その手の相手を倒すのであれば、窒息を狙ったり圧殺を狙ったりするのが一番良いだろう。
相手の戦闘能力を見ていないので何とも言えないが。
「多分その手の相手だったら私が対応できる。悪魔がもし死んだ場合、その攻撃ですら返してくる可能性があるからである」
「そうか。お前死なないもんな」
「その通り。痛いのは好きではないが、私が適任だろう」
確かにその可能性も否めない。
死んでも全く問題ない鳳炎であれば、その攻撃を喰らったとしても生き残ることができる。
子供にはなってしまうだろうが、死なないというのは本当に便利だ。
とりあえずその悪魔の対策は決まった。
今度は防衛施設の設置についてだ。
相手がどのような戦力で来るのかが分からない以上、予測して作り上げるしかないのが現状ではあるが……。
「空からの敵と、陸からの敵。それらを考慮しなければなりません」
バラディムの発言に、その場にいた全員が頷く。
大まかに分けるとこの二つになるだろうが、陸の方は特に問題はないという。
「先ほど招集してきました兵は私直属の部下です。指揮能力もありますので、地上戦では引けは取りません」
「鬼たちの援軍も来るからな。地上戦力に関しては問題ないであろう。設備はどうなのであるか?」
「土魔法を使用できる者が多く居ります。即席で堀などを作ることも可能なので、戦闘中でも問題なく使用できます」
「その時の状況に応じて臨機応変に、ということであるか」
確かにそれであれば、わざわざ予測を立てるようなことはしなくてもいいか。
だがその代わり戦力を分散をしなければならくなる。
どの方角からくるか分からないからだ。
戦力が減ってしまい、敵が来ている方角に集結するのに時間がかかってしまう。
どれだけ発見するのが早かったとしても、移動にはそれ相応の時間を有する。
俺たちだけでは対策の仕様がないが……。
「これは予測なのですが、鬼たちは違うのではないですか?」
「あー……ああ、そうか。そういうことね」
確かに鬼たちはそもそも人間とは身体能力が違う。
接近戦に特化しており、その機動力も人間を凌駕する。
土魔法を使える人間の兵士にバミル領を囲わせ、鬼たちはバミル領の中央にて待機させる。
敵が来る方向は戦闘が開始されるよりも先に分かることなので、鬼たちはその方向にいち早く援軍として出動すれば、それなりの戦力になる。
後は時間をかければかける程援軍が集まってくるはずだ。
敵が一方向から来た場合の話ではあるが。
でも策としては悪くないかもしれないな。
俺や鳳炎もいるし、殲滅戦なら任せてくれと胸を張れるぞ。
「後はガロット王国からの援軍の数によりますけどね」
「じゃあ地上戦力、地上防衛設備は問題ないか」
「まぁ少なからず手は加えますけどね。さて、次は空からの敵についてです」
そう言って、バラディムは机の上に大きな地図を広げた。
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