8.16.開戦間近


 前鬼の里から来た鬼の介入もあり、防衛施設は完成した。

 あれから一週間。

 間に合わないと思っていたのだが、これ程にまで早く建設が終わったことに領民は大変喜んでいた。


 とりあえずこれで、何処から来てもある程度の防衛はできるようになった。

 後は予定通りの動きをしてもらえればいいだろう。


 さて、ここからは俺の作った技能に関する問題です。

 季節は冬。

 日を跨ぐごとに雪は降り積もり、当然気温も低くなってしまっている。


 なので夜になってしまうと、樽の中に入れてある水が凍ってしまうのだ。

 蓋をして何とか凍らないように対策は取っているものの、それも気休め程度で全然意味がない。

 だが完全には凍らず、表層だけが凍っているのが現状だ。


 殴って割れば使えないことはないのだが、俺の作った技能、水弾ガントレットは装着状態のまま手を水に突っ込んで水を補給するので、この季節に使うのは非常に辛いものになっていた。

 とはいえ、今の現状武器はこれしかないので、何とか耐えてもらうしかない。


 襲撃予定の日まではあと一週間ほど。

 詳しい日程は分からないので、あと三日ほどしたら見回りを強化し、毎日水を交換しなければならない。

 面倒な仕事が増えてしまったが、これは戦いだ。

 楽をしようとしてはいけないだろう。


 ということで俺とウチカゲは休憩中です。

 あれから色々話をしたが、前鬼の里はもう大丈夫らしい。

 ほとんどの建物が直り、後は細々とした仕事が残っているだけなので、生活に支障はないのだとか。


 それを聞いて安心する。

 あそこまで壊れていたのを、よくもまぁこんな短い期間で直したものだ。

 やはり力が違うだけあって、作業の効率は非常に早いのだろうな。


「しかし、まさかここを襲撃するとは……。悪魔は一体何を考えて襲撃場所をここに設定したのでしょうか」

「分かってたら苦労しないよなー。ここ一ヵ月バミル領に住んでみたけど、悪魔が興味を持ったり、危険視する物がある訳でもないみたいだった」

「俺もそういった危険な物は感じられません」


 こういうウチカゲの勘は当たる。

 目を隠して気配察知に極振りしているだけあるよなぁ。


 だが、このバミル領には何もないのだ。

 悪魔はおろか、人間ですら興味を持つ物や危険視するような物は見受けられなかった。

 復興したばかりで、ガロット王国からの支援を頼りに何とか繋いでいるバミル領。

 今はまだそういった研究や、特産品などを作ったりする余裕はないのだ。


 だというのに、悪魔はバミル領を狙っている。

 破壊行為をするという目的のために。

 これに何の意味があるのだろうかと、鳳炎と一緒に考えてみたりもしたが、破壊して得られる物などほとんどないという結果に落ち着いてしまった。


 ただ破壊を楽しもうとしているだけなのか……。

 いや、そうなると鳳炎が出会ったアトラックの発言に矛盾が生じる。

 目的は、あるはずなのだ。 

 それが何かは分からないが……。


「分からん……」

「悪魔に掛けられている呪い……。これが分かれば進展はありそうですね」

「そんなもんかねぇ……。サレッタナ王国襲撃理由、悪魔の発言、レクアムと悪魔、魔水晶、アトラック、初代白蛇たち。分かったのはレクアムと悪魔の関係と、魔水晶のことについてくらいだ」

「確かに、重要な事が分かってないですね」

「だろ? 一番知りたいのは悪魔の目的。その次に初代白蛇たちとの関係かな」


 勿論アトラックの発言についても気になることは気になるのだが、やはり先ほど述べた二つを調べることの方を優先したい。

 目的が分かれば、アトラックの言っていた「伝えないのではない、伝えられないのだ」ということにも繋がると思う。

 だが悪魔である彼がそう言っているので、もしかしたら悪魔自身の口からそれを聞くのは難しいかもしれない。


 実際、アトラックは何かを伝えようとして死んだ。

 伝えることが何かのトリガーになり、確殺の呪いを発動させてしまうのかもしれない。

 まぁこれも想像の域を出ないのだが……。


「では、今回の目的は……」

「バミル領を守ることが前提で、ついでに悪魔を捕まえる。あいつらは俺たちの為だのなんだの言っていたが、俺はこれが正しいとは思えないからな」

「それは同感です。では悪魔は拘束し、他の魔物は殲滅でいいですかね」

「そうだけど……何か簡単に言ってのけるな。大丈夫か?」

「はい。俺の力の使い方も分かりましたからね。期待しておいたください」


 そう言って、ウチカゲは熊手を指で弾いて音を鳴らす。

 相当な自信があるようだ。


「じゃ、期待してるぞ」

「お任せを」


 そうしていると、バミル領が少し騒がしくなった。

 なんだと思ってそちらの方向を向いてみると、旗が何本か掲げられている。

 あれは……。


「ガロット王国の旗ですね。援軍が来たようです」

「懐かしい。あの旗を見るのは蛇だった頃だったか」

「そんなこともありましたね」


 前鬼の里がピンチだったもんなぁ。

 まぁ実際には戦っていないから被害とかは出なかったんだけどね。


 しっかし前のガロット王国の国王は碌でもなかったなぁ。

 自国の強さをアピールする為だけに、鬼の国を落とそうとするとか……。

 中々できる事じゃないよ。


「そういえば、誰があの兵を引き連れてるんだろうな」

「誰でしょうかね? アスレ殿は違うでしょうし、バルト殿も病弱なので来ることはできないでしょう」

「ちょっと気になるから行ってみるか」

「そうですね」


 これからの連携のためにも、顔は知っておいた方がいいだろうからな。

 えっと……向こうの門だな。

 じゃ、ちょっと挨拶に行きますか。

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