8.17.援軍再び
ガロット王国の兵士たちが待機している場所に足を運んでみると、そこには門番と話をしているリーダーらしき甲冑を着た兵士が一人いた。
その後ろには二名の部下を側に置いており、その雰囲気から護衛であるということが良く分かる。
あれが指揮官だろうか。
まだ彼との距離は遠いので、その顔はよく見ることができない。
だが鬼と白を基調とした和服を着ている俺は目立つので、指揮官らしき兵士はこちらを見る。
すると、表情を変えて門番を押しのけ、こちらに走って来た。
門番と後ろに控えていた護衛は、急な行動に慌てて止めようとするが、彼の足の速度はそれなりに速い。
止められる前にウチカゲの前にきて、兜を外して挨拶をしてきた。
「ウチカゲ殿! 久しぶりですな!!」
「む……ん? あ! お主、アスレ殿の家臣のジルニアか!?」
「そうですそうです!」
「ああ!」
俺も思い出した。
アスレの家臣、ジルニア。
奴隷商の取り締まりを強化して何日も寝ずに作業していた奴だ。
俺が回復魔法をこっそりかけていたので、寝ずに作業することができていたようだったが、最後に俺が強制的に眠らせたことがある。
「まさかウチカゲ殿に会えるとは」
「あの時は世話になった」
「いえいえ! 前鬼の里との一件があってから、私たちの異種族に対する考えも変わったのです。お礼を言うのはこちらの方ですよ。えーと、失礼。そちらのお方は?」
「応錬様である」
そう言って、ウチカゲは口元に人差し指を当てる。
ジルニアは首を傾げていたが、何かを思い出したようで俺の顔を見て仰天した。
しかしすぐに口を片手で覆って驚きの言葉を口から出すのを防いだ。
「あ、アスレ様から聞いてはいましたが、まさか本当とは……」
「久しぶりだなジルニア。ま、この事は他言無用で頼むよ」
「はは、勿論です。まったく、貴方たちと一緒だと退屈しませんね、本当に」
確かにそうかもしれないなぁ。
いろいろやらかしてるしな。
「ジルニア様! お待ちください! まだ手続きが!」
「おー、レイトンか。後のことは頼んでもいいか? これからの動きについて話し合いをしたいのだ」
「せめて許可が出るまで待ってください……」
あ、ジルニアの執事のレイトンじゃないか。
そうか、こいつも今回の援軍に呼ばれていたのね。
こいつも奴隷商の一件の時に、兵士を引き連れてガロット王国中を駆けまわっていた。
ということは……もう一人の女性騎士は、メイドのカルナか。
戦闘もできるのあのかメイド……。
万能だな。
今は門番と話して手続きや兵士が待機する場所について話し合っているようだ。
なんだ、ジルニアよりこの二人の方がしっかりしている気がするぞ。
「ほら行きますよ」
「お、おい引っ張るな! う、ウチカゲ殿! 応錬殿! またあとで!」
「おう……」
レイトンはジルニアを引っ張って門の外まで連れ出してしまった。
ジルニアはなんだか愉快に笑っているが、二人は少しばかり呆れている様子だ。
ジルニアってあんな感じだったっけ……?
事務仕事している姿は結構恰好よかった記憶があるんだけどなぁ。
もしかしたら事務仕事を止めて久しぶりに外で活動しているから楽しいのかもな。
強いのかどうかは知らないけど……。
まぁ後は手続きが終われば、防衛のために配置についてもらうことにする。
これだけ人が増えるのであれば、明日にでも水の供給をしていってもいいかもしれないな。
領民の負担も少なからず減るだろうし、問題はないはずだ。
「もうそろそろだな」
「はい。城壁の建設も終わったので、本格的に迎え撃つ準備をしてもいいでしょう。襲撃日は明確にされていませんし、悪魔たちが素直にそれを守るかどうかも分かりませんからね」
「確かに。じゃあそういう風にサテラに言っておくか」
ウチカゲの言う通り、確かに悪魔は約束を守るかどうかは分からない。
名前に悪とついているくらいだ。
律儀に守るはずもなさそうだが……よくもまぁ城壁ができるまで襲ってこなかったものだ。
……向こうにも何かしらの事情があるのかもしれないが。
ジルニアとの話を終えた俺たちは、この事をサテラに話すために一度屋敷へと戻ることにした。
決戦まであと少し。
襲撃前にガロット王国の兵士の援軍が来てくれたのは好都合だ。
これで守りも固くなるはずだ。
領民にも戦ってもらうことになるので、陸、空どちらとも対応ができる。
後は……襲撃を乗り越えるだけであった。
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