10.56.参加表明
俺の言った言葉に、全員が目をパチクリとさせた。
唐突過ぎるかもしれないが、これでいいはずだ。
しかし何の説明もなしに本題に入るのはマズかったかもしれない。
鳳炎にスパンッと頭をはたかれた。
「いって!!」
「何を言っているのだ応錬! 死にに行くつもりか! 今の話を聞いていたのか!?」
「聞いてたっての……。声が向こうにいるんだろ? 俺も操り霞使って確認したからそれは間違いない。勝てる方法が見つかったから、今から行きたいんだよ」
「勝てる方法だと!? 今の今まで寝ていたお前が何に気付いたというのだ!」
「お、怒るなよ……」
「そうだよー鳳炎君。ちょっと落ち着こう」
バルトが鳳炎の槍を抑えて止めてくれた。
あのままだとまた襲い掛かってきそうな雰囲気だったから助かる……。
……ま、鳳炎もこの三日間色々あったんだろう。
ガロット王国の国民のことを何とかしてあげなければならなかっただろうし、これからの策も考えていたはずだ。
勝てる見込みが少ない声に対しての対抗手段とかもね。
魔族領が崩壊したと聞いて焦っていたのだろう。
ストレスから怒りに繋がるのも、分からないでもない。
ましてや今まで寝ていた俺が解決策を持ってきたって言うんだ。
そりゃ……怒るよな。
「うんうん。まずは話を聞いてみようじゃないか」
「ですが……!!」
「頭に血が上ってたらいい策なんて見つからないよ。それにこっちは既に手詰まりなんだ。国民の安全確保のために兵士と冒険者を動員し、その指揮をするだけで精一杯。あいつらまで手が回らないのは事実だよ」
「……すー……はぁー……。すまない応錬。少し感情的になりすぎた」
「いや、苦労していたの分かってんのに俺も軽率だった。悪い……」
謝ったところでバルトが満足そうに頷いた。
見ていた者たちは気が気じゃなかったようだが、これで少し重い空気が軽くなった気がする。
さて、と手を打ち鳴らしたバルトは、俺を見た。
期待しているような、少し疑っているような……そんな顔で。
「応錬君。寝ている間に何があったのかな?」
「……信じてくれるかどうかは分からないが、日輪に出会った」
『日輪!!?』
アスレとバルト以外が声を揃えた。
俺に密着していたアレナと零漸が更に腕に力を入れて問いただす。
「どど、どういうことっすか!? 消えたはずじゃなかったんすか!?」
「そっそうだよ! どう、どうして!?」
「いてて……。えーっとだな……。日輪は応龍の決定っていう技能を使って、自分だけは万が一の時に助けになれるようにしたらしいんだ。出現する条件は声が顕現し、俺が睡眠をとること。気絶という形でも問題はないらしい。実際それで会って話してきたしな」
にわかには信じがたい話かもしれないが、これは事実だ。
夢の中で出会ったということで納得してくれる者もいたが、ダチアとマナはあまり納得していなかったらしい。
「応錬。証拠はあるか?」
「これかな」
「!! それは!!」
「なんでここに……!?」
二人に日輪の持っていた日本刀、『
日輪と共に消えた日本刀であり、この世界で初めて作られたものである。
再現などできるはずもないのでこれが日輪と出会った一番の証拠となった。
夢の中で手渡されたけど、どういう原理で俺の手元にあるのかは分からん。
多分この辺は考えたら負けなやつなので、黙っておくことにする。
それと、恨めし扇も見せた。
だがこれは初めて見る物らしく、証拠にはなりえなかったらしい。
残念……。
「でもこの中に、レンマや漆間、奄華、泡瀬の魂も入っていると聞いたぞ」
「そこまでは信じられないが……日輪と出会ったというのが本当なら、有り得る話か……」
「ま、その辺は任せるよ。で、日輪と出会って、話をした。ほんの少しだったけど。あいつは俺の魔力を回復させてくれたんだ。それで起きることができた」
「……魔力回復が起きる条件なんすか?」
「そうらしい。日輪が魔力を回復させてくれなかったら、俺は後三ヵ月は眠り続ける羽目になったらしいしな。それで……声を倒す方法を話してみた。そしたら健闘を祈ってくれたよ」
「あいつが……」
意外そうな顔をして、ダチアは驚く。
話し方からしても生きてきた時代が違うから、考えも違うようだったけどね。
……日輪は、戦いの記憶を消した。
そもそも声が他の者たちに知れ渡っていなかったからな。
戦いの記憶を消すだけで十分だったんだ。
だけど今回は、違う物を消す。
「ダチア」
「……いいだろう。お前を魔族領へと連れて行ってやる」
「助かる。それと……皆にも協力してほしいんだが、いいかな」
俺はその場にいる全員を見た。
未だにくっついている零漸とアレナが大きく頷く。
「あったり前っす!!」
「ぐすっ……やる!!」
「助かる。あと零漸お前はいい加減離れろ」
「うあー」
零漸だけは押しのける。
力が強くて痛いんだわ。
隣で大きくため息をついた鳳炎が、ダンダンッと槍の石突で地面を突く。
「やろう」
鳳炎の目を見て、頷く。
それだけで十分だった。
ダチアとマナが武器を取り出す。
返事はしてくれなかったが、協力するのが当たり前であると行動で示してくれた。
それに続いて、ウチカゲが前に出る。
「敵討ち、できますかね」
「できる」
「安心しました」
少し遠慮気味に出てきたリゼが、小さく手を上げている。
「わ、私も役に立てる……かな?」
「陸の声は魔物を大量に使うらしいからな」
「範囲攻撃なら任せて!」
急に元気になったリゼ。
それがなんだか少し可笑しかった。
次に、アスレが前に出てくる。
「私たちはあまりお役に立てないかもしれませんが、応錬さんたちの帰りをお待ちしております」
「アスレ、僕たちは策を考えよう」
「なるほど、確かにそうですね」
「応錬君。君が一番理想としている立ち回りは何だい?」
「天の声を引っ張り出し、その目の前で応龍の決定を使用すること」
「難しい注文だね。でもなんとかしよう。アスレ」
「言われなくても分かっていますよバルト兄様」
アスレはすぐに動き出し、魔道具袋から魔族領の地図を取り出した。
それを机の上に広げる。
その地図はとても綺麗かつ分かりやすく書かれていた。
ダチアとマナはその地図を見て目を丸くする。
「なんと精巧な……」
「人はこれくらい綺麗な地図じゃないと迷子になるの。君たちは飛べるから違うだろうけどね。さぁて! ちょっと本気を出しますか!」
バルトは取り出した駒をパチンッと地図の上に置いたのだった。
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