10.55.現場把握
外に出てみると、そこはテントが多く並んでいて、人も多く行きかっている場所だった。
何処だろうかと思って少し遠くの方を見てみると、声と戦った時にできた大穴や、かつてガロット王国があった土地も見て取れる。
近くにいる人々は誰しもが悲しい表情をしたり、怪我で痛そうにしていたりと見るに堪えない。
冒険者などは懸命に働いて今日を凌げるだけの物資を確保して来ている様ではあったが、疲労しているということが一目でわかった。
あれから三日。
住む家を一瞬で失ったガロット王国の国民たちは、比較的安全なこの場所で過ごしていたらしい。
広さだけはあるので、夜行性の魔物の接近も気付きやすい。
簡易的な柵を作って防衛線としているようではあるが、あまり意味は成していないように思えた。
「……くそ」
命があるだけまだましなのかもしれないけど……これはいたたまれない……。
何もできなかった自分を恨みつつ、俺はとにかく話を聞くために仲間を探す。
まずは現状を把握しなければ。
俺が寝ていた三日間……。
見たところ、空の声が来てから殺された人はいないようだが……。
声が今どこにいるのかも探しておかないとな。
ダチア辺りが目星をつけていてくれたらありがたいのだけども。
「お、いた」
操り霞で仲間を探していると、ユリーとローズたちの姿を見つけた。
ラックとリック、パック、スターホースが近くにいるのですぐに分かる。
ダッシュでそっちに向かい、合流する。
近づいていくと、まずラックが気付いてくれたらしい。
一声「ガルァ」と鳴いて、俺の方に近づいてきてくれた。
『遅いよ起きるの!』
「悪い悪い」
「応錬!! 起きたのね!!」
「また一ヵ月起きないんじゃないかって心配しましたよー!」
「心配かけたな……すまん」
ラックが急に動いたのを見て、ユリーとローズも駆け寄ってきてくれた。
ま、あのままだと三ヵ月起きない予定だったらしいけどな……。
マジでありがとう、日輪。
パックとリックも遅れてやってくる。
スターホースは周囲に気を配りながら歩いてきてくれたようだ。
お前気を遣えるようになったんだな……!
「で、すまん。今の現状を教えてくれるか?」
「「……」」
「え、なに?」
「なに、じゃないわよ。もう見ての通りボロボロなの。……魔族領は崩壊したしね」
「……三日で?」
「三日もあれば十分でしょ。あんだけの力を持ってるんだから」
そう、だよな……。
空の声があんなとんでもない能力持ってんだ。
そもそも勝てるはずがないか。
物量で陸の声に勝てる奴はいないだろうし、地の声の地面を操る力は脅威だった。
一番敵対していた悪魔。
そして復活阻止の方法を知っている彼らは始末しておかなければならない存在なのだろう。
だからこそ、殲滅に力が入ったのかもしれない。
「……あいつらは魔族領に?」
「その可能性が高いです。話によれば、陸の声と地の声だけだったとの話ですが」
「空の声は分からない、か。ま、探すけど」
俺は手を叩いた。
操り霞を使用し、この世界の全土に行き渡るだけの霞を展開する。
魔力がこれだけ有り余っているのだから、あっと言う間に大陸すべてを把握することができた。
無駄な情報を頭の中に入れないように調整しつつ、必要な物だけをシルエットとして捉えていく。
「いたわ」
「へ?」
「三人で固まってる。空の声はまったく別のところでふらふらしてんな。やる気なさそうだった」
「え、ちょっと待って何? なにしたの?」
「俺の索敵技能で声を探したんだよ。ほら、今魔力三十万あるから余裕だし!」
「気持ち悪いわね」
「酷いなおい」
いや、ユリーはこういう奴だった。
うん。
でも場所が把握できたのは良かった。
これで、目の前で倒すことができそうだな。
あとはあいつらの居る場所に向かう方法だけど……ダチアが魔族領に帰る為のゲートを作り出すことができたはずだ。
それに頼ってみますかね。
まぁ……声がいた場所が本当に魔族領なのかどうかは分からないんだけど。
だけどまだ魔族を探しているってんなら、いるはずだ。
目の前で倒す。
そうじゃないと、こいつにも届けてもらえないからな。
懐に入れた恨めし扇。
日輪との約束だ。
これだけは絶対に果たしたい。
それに、今は勝てる自信しかないからな。
「ローズ、ダチアは何処だ?」
「ダチアさんなら……鳳炎さんとアスレさんと一緒に、今後のことを考えているはずです」
「場所は分かったりする?」
「あそこの一番背の高いテントです」
ローズが指差した方角には、確かに背の高いテントがある。
それを確認した後、礼を言ってからそっちに向かう。
操り霞で確認してみると、どうやらそこにはバルトや零漸、ウチカゲやアレナもいるようだ。
リゼもいるな。
全員揃っているのはありがたい。
作戦に付き合ってもらわないといけなくなるだろうから、話をしておきたかったんだよね。
この応龍の決定……大技だから隙が大きい気がする。
俺を守ってくれる仲間が必要なのだ。
あとは、魔族領に行く為の方法の確保。
ダチアさえ捕まえられれば、何とかなるはず。
テントに近づいた俺は、すぐに垂れ幕をくぐった。
そこにはアスレ、バルト、鳳炎、零漸、リゼ、ウチカゲ、ダチア、マナ、アレナがいる。
ウチカゲは誰かがこちらに近づいてきている気配を感じ取っていたようで、すぐに目が合った。
「応錬様!!?」
「「え!?」」
「あ~……おはよう!」
「おはようじゃないわぼけがぁ!!!!」
「ぎゃああああああ!!」
容赦のない斬撃が鳳炎から繰り出される。
え、今結構本気だったよね君??
ちょっと避けるの遅かったら普通に斬られてたからな!?
「なにすんだてめぇ!!」
「起きるのがおせぇんだよ!!」
「知らんがな! いやまぁ申し訳ないとは思ってるけど!!」
「うわあああおうれええん!!」
「あにきぃいいい!!」
鳳炎を押しのけて、アレナと零漸が飛びついてきた。
どっちも泣いてる。
力強く抱きしめてくるので結構痛い……。
とはいえ引き剥がすわけにもいかないので、落ち着くまではされるがままになっておこう。
「痛い痛い……。分かったから」
「おぎないがどおもっだあああ!!」
「俺の次は兄貴とかいやっすよおおおお!!」
「ああ~ごめんごめん……」
俺も本当は起きられたら起きたいんだけどね。
そうさせてくれないのよ……。
気絶イコール魔力切れって感じだもん。
とりあえず二人の頭を撫でながら、ダチアを見る。
「……ユリーとローズから大体の話は聞いた」
「そうか。……こちらは今、戦力を温存している。悪魔たちには……足止めを任せた。声がいる場所が分かれば、攻めやすいからな……」
「悪魔の生き残りは?」
「下級はほとんど死んだな。実際戦っているのは陸の声と地の声だから、逃げ回ることで中級以上は生き残っているらしい。だが、魔族領は崩壊した。もう住める環境ではないらしい」
生き残りはいるのか。
だったら、早く行かないとな。
「ダチア。俺を魔族領に連れて行ってくれ」
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