6.13.状況把握
「……まず……数日前の事」
ライキは静かにそう呟いて、俺の方を見る。
「悪鬼が攻めて来おったのです。数は十程度……」
その時は夜だったのだという。
大きな音がしたと思ったら、急に家々が倒されたらしい。
テンダが前に出て状況を確認した時、大きな悪しき門の様な物が出現しており、そこから悪鬼は出てきて破壊活動を行っていた様だ。
その力は今までに見たことのない物であり、誰にも分からなかったという。
「何故攻めて来たのかは分かりませぬ。ですが、姫様……ヒスイ様を連れ去ってしまった……」
「理由が分からない……? そもそも悪鬼は何処から出て来たんだ? そいつらのことを説明してくれ」
「……はっ」
敵の技能については大体聞いた。
だがまず、悪鬼とは何なのかよく理解できていない。
何処に居るかも、どうしているのかも……。
「悪鬼は、鬼が涙を流した後の存在……。応錬様でいう……進化の一つですな」
「…………」
「悪鬼は我々の上位互換。まともにやり合って勝てる者はおりませぬ。そして、悪鬼となった者は常世に知らずと迷い込み、その住人となるのですじゃ。このような暗いお話を応錬様にする訳にはいかぬと、聞かれるまでは隠しておりました」
進化か……。
話を聞いていると、確かに鬼は悪鬼に勝てないという感じがする。
一対一でやり合うのは愚策。
だが、何故だろう。
強くなれるのにこの鬼たちはそうしないのだろうか。
恐らく泣く事が進化条件だ。
そうすれば力を手に入れることができるのに、何故そうしないのだろう。
俺はそれを聞いてみた。
すると、そう思われるのも無理はない、というような表情をした後、ライキは説明する。
「人格が変わるのです」
「人格が……?」
「うむ……。悪鬼になることにより能力が大幅に向上しますが、人が変わった様に見境が無くなるのですじゃ……。故に、我ら鬼は己を第一とする為、悪鬼になる条件を突き止め、こうして皆が泣かぬ様にしておるのです」
なるほどな……。
強くはなれるが、その分人格が一変してしまう。
強くなるのに犠牲が必要なのか……。
そりゃ誰も悪鬼になんてなりたくないわ。
でも姫様は……悪鬼になりかけていたな……。
「姫様はどうなんだ? 悪鬼になりかけていたと聞いていたが……」
「完全な悪鬼になるには時間が掛かるのです。ですが、姫様はその進行を止めておりました」
「止めていた? そんなことができるのか?」
「前例はありませぬ。ですが心当たりが」
「なんだ?」
「応錬様にございます」
俺か……。
でも白蛇だった頃の技能にそんなものは無い。
それは今も同じだし、姫様とは暫く離れていたから、もしあったとしてもその効力は消えているはずだ。
だがライキは俺の存在が重要だったのではないかと考えているらしい。
今までの悪鬼は泣いてから悪鬼になるのに個体差があるようだったが、姫様は随分と長く持っている様だ。
このようなことは今まで一度もないらしい。
「とは言え……これは憶測の域を出ませぬ。姫様が特殊なのかもしれませぬし、他の何かがきっかけで止まっているのかもしれませぬ」
「ライキ……」
「すみませぬ。分からぬ話をしていても仕方ありませぬな。話を戻しますぞ」
俺がライキの言った事を言おうとしたが、先を越されてしまった。
だがそうなのだ。
意味のない会話をしていても、状況が変わるわけではない。
今は情報が欲しい。
「姫様の居場所はシムが掴んでおります。常世に悪鬼は住んでおるのです」
「そこに行くには?」
「シムの技能を使用いたします。ですが……」
そこでライキは言い淀む。
少し考える素振りをしていたようだが、一度首を振ってもう一度俺を見た。
「一時間しか開きませぬ」
「……制限時間が一時間……。姫様を探す時間と連れて帰る時間、そして最悪戦闘になる……か」
「戦闘は避けられぬかと……」
一時間……一時間……。
姫様を探すのは比較的簡単かもしれないが、戦闘になった場合が最悪だ。
勝てないと踏んでいる悪鬼との戦闘。
対峙すること自体避けたい相手。
それにここに来た悪鬼は十人だという。
それだけの数だというのに、この前鬼の里をここまで壊してしまったのだ。
俺も戦うのは出来るだけ避けたい……。
「まず、悪鬼の数は少ないのか?」
「少ないはず……にございます。悪鬼は力を増す代わりに人格も変わりますが、寿命も短くなるのです。ここに攻めて来た悪鬼が全戦力と見て間違いないかと」
それならまだやりようはあるか……?
個体数が少ないのであれば、接敵する可能性自体減らすことができる。
だが……姫様の所には護衛がいるだろうな。
最低一人とは戦わなければならなくなるだろう。
しかし、何故悪鬼共は姫様を連れて行ったんだ……?
仲間が欲しかったのか?
それとも他に何か別の目的があるのだろうか。
この場で考えても無駄か……。
「で、策は?」
「バルト殿」
「おっけー」
ライキに声を掛けられたバルトは、巻物を俺の前に広げる。
それは何かの見取り図の様で、事細かく建物の内装が描かれていた。
それともう一つ。
今度の巻物には地図が書かれている。
これは何だろうか……。
そう首を傾げていると、バルトが教えてくれた。
「常世って所の地図と、そこにある建物の見取り図だよ。一個しかないけどね」
「そんな物どうやって……」
「ランに時折常世を捜査させておったのです。これが役に立ちましたな」
何やってんだあの人。
まぁ悪鬼の住処とか気になるわな?
調査するのも分かるけど、これあいつ一人でやってたのか……。
となると凄いわ。
俺が感心している所で、ライキが腰に差していた扇子を取り出し、パチンと音を鳴らす。
「では、ここから本格的に策を練りますぞ」
その場にいた俺たちは、全員が頷いた。
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