10.3.一ヵ月前
五日間かけてサレッタナ王国まで戻ってきた。
マリアは王に報告をする為、クライス王子を連れていこうとする。
だがそこで始まった王子の全力の駄々こね。
「いやだあああ!! 零漸といるのだあああああ!!」
「王子様! 申し訳ございませんが今回ばかりはこちらの都合に合わせていただきますよ!!」
「うわああああ!! れいぜええええん!!」
「行ってらっしゃいっす~」
マリアとシャドーアイがクライスを優しく連行する。
零漸はそれを笑顔で見送った。
クライス王子救出後の朝。
目を覚ました彼は起きている零漸を見るなり号泣しながら抱き着いた。
これも普通の反応だろうと、その時は静かに見守っていたのではあるが……。
この五日間、クライス王子は零漸から離れることは一切しなかった。
零漸はあまり疎ましく思っておらず、むしろ好意的に彼に接してくれていた。
しかし王子たるもの、ここまで一人の人間に対して執着しすぎるのはよろしくない。
何度かマリアやシャドーアイがそれとなく注意をしたのだが、聞く耳は一切持たなかった。
常にかっこいい立ち振る舞いや、王としての威厳などを問い、答えてもらって実践する。
何かの稽古なのかと思ったこともあったが、そういう時だけはクライス王子は言うことを聞くようになり、王子らしい振舞をしていたように思う。
一時的ではあったが。
「ほんと零漸さんって人気者ですよね」
「そうっすかー? まぁいろいろあったのは事実っすけどね~」
ローズはそう言って零漸の周囲を見る。
そこにはカルナとテキルがいた。
敵だったというのに少し仲良くしすぎではないかと心配になるが……二人からは殺気を全く感じない。
零漸のことを好意的に受け入れているようだ。
すると、馬車から鳳炎とウチカゲが降りてきた。
日が経ってすっかり大人の姿に戻った鳳炎が肩を回す。
ウチカゲは応錬を背負っていた。
「はぁー……。私の記憶が再び消えなくてよかった……」
「一番話の内容を理解している鳳炎殿が無事で何よりです。では、俺は応錬様を宿へ運んできます」
「ほんっと、いつまで寝ているのだこいつは」
「それほど強力な技能だったのでしょう」
「次からは無暗に使わせないようにしないといけないな……」
五日経った今も、応錬は眠り続けていた。
アレナや零漸が何度か起こそうとしたのだが、まったく起きる気配がない。
死んでしまったのかと勘違いしてしまいそうになるので、早急に起きて欲しいところだ。
応錬を運ぶ付き添いとして、アレナもついていくらしい。
今回は色々あったので、彼らは少しの休息が必要だろう。
そう思った鳳炎だったが、新しく仲間になった三人を見て嘆息した。
「さて、君たちはどうしようか……」
「僕はなんでもいいぜ」
「私は君がそんな口調なのに僕っ子というのが未だに気味が悪いのであるが」
「失礼だなお前……。ていうかお前こそなんだその成長速度。気味が悪いとかのレベルじゃねぇぞ」
「私は不死なのでな」
「そんなのありかよ……」
ありもなにも体質である。
とはいっても、これも声から授かったものだと考えると嫌気が差してきた。
すべての元凶がはじめっから自分の中にくっついていたと思うと、なんだか気味が悪い。
閑話休題。
この三人をどうするかだが、とりあえずは同じ宿に詰めておくことにした。
ウチカゲのあとを追いかけろと指示すると、ティックとテキルは一緒に歩いていく。
「カルナは行かないっすか?」
「……行くけど……」
「ほら、もう暗殺者じゃないんだからフードとって!」
零漸はカルナのフードを捲り、彼女の頬を両手で包む。
カルナは驚いていたが、抵抗はしなかった。
「いつまでも無表情じゃだめっすよー!」
「……うん」
「お! その調子っす! んじゃ行くっすか!」
少しだけ表情が和らいだ。
小さな変化だったが、零漸にはそれが分かったらしい。
零漸はなんだかんだ彼女のことを気にかけている。
あまりカルナという人物の話はしてくれなかったが、良い過去は持っていなさそうだ。
無理を通して仲間にしたのだから自分が守ると意気込んでいるようだと、鳳炎は感じていた。
まさか零漸が女に気を使える人物だとは思わなかったが、そのおかげで彼女は何とかこちらに馴染んできているようにも感じる。
(お似合いだよまったく……)
イケメンしかできないことを平気でやっている姿を見て、少しばかり呆れた。
あれで何の意図もないのだから笑い話である。
既に意識し始めているであろうカルナが可愛そうだ。
「ま、いいか。ローズ。君はどうする?」
「ユリーと一緒にパックとリックを連れて帰るわ。ラックのことも心配だし」
「そうか。また何か話が進んだら連絡する。協力してくれるか?」
「あったり前じゃない! 話も聞いちゃったしね! ていうかやっぱり応錬は魔物だったのね……」
「ユリーは少し勘づいてたものね」
誰からも話を聞いていないのに、応錬が魔物だと怪しんでいたのには驚いた。
ユリーにはそういう何か特別な存在を見分ける力があるのだろうか。
ここはさすがSランク冒険者と言っておこう。
「あ、スターホースちゃんも預かりましょうか?」
「うむ、それは正直助かる。この巨体ではどこの馬小屋も貸してはくれなさそうであるからな」
「食費とかは後で請求しますね」
「し、しっかりしているな……」
ローズは可愛らしく笑ったあと、ユリーと騎竜、バトルホースを連れて移動する。
しばらく一緒に居られることに三匹は嬉しそうだった。
「あ、零漸」
「んえ? なんすか?」
「君は私と一緒に来い」
「ええー! カルナを連れていかないとなんっすけど!」
「一人でも行けるだろう……。過保護か君は……」
「それもそうっすね。悪いっすカルナ。俺は少しだけ外れるっすよ」
「分かった。じゃあ……先に行ってる」
少しだけ寂しそうにしたあと、カルナはティックたちを追いかけていった。
「……」
「? なんすか?」
「いや……なんでもない……」
「で、で? 俺らは何処に行くっすか?」
「決まっている」
鳳炎は人差し指を立てた。
「イルーザのところだ」
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