10.2.誘導


 いやー、でも鳳炎が来てくれて助かった!

 状況が分かっているから何とかしてくれるはずだ!


 でも鳳炎は無事みたいだな。

 とりあえずよかった。

 俺みたいなことになってたら手が付けられなかっただろうし。

 あいつ不死鳥だもん。

 絶対鳳凰とかだよ。


『えーと、それでだ鳳炎。どうしたらいいこれ』

「……」


 そんな睨まんといて……。


「ドラゴンよ。どうしてこの場に落ちたかは分からないが、これでは国民の不安を煽るばかりである。できればここから離れていただきたい」


 ……お?

 これは鳳炎の演技か。

 口パクで『合わせろ』ってめっちゃ言ってるし、これは従っておいた方がよさそうだ。


 大きく頷き、人間の言葉分るよーってアピールをしておく。

 それから飛び上がる。


 え、ちょっとまってこれ上手く飛び上がれるかな!?

 さっきは低空浮遊だったから何とかなったけど……高度上げるとどうなるか分からんぞ。

 なんせ飛ぶのなんて初めてだ。

 めっちゃ怖いが!?


 ゆーっくりと慎重に高度を上げていく。

 お、何とかなりそう……。

 よ、よし。

 このままどこかの山に一回姿を隠そう!

 あとで鳳炎が来てくれるだろうからな!


 十分な高度まで飛び上がった俺は、体をうねらせながら大空を飛んだ。

 あ、これめっちゃ上空に行って人間の姿に戻って、静かに降りた方がよさそうだな。

 んじゃ高度上げまーす。


 天高く舞い上がり、雲を通り越した。

 ここまで高く跳ぶとなんだか怖くなってくるが……とりあえず人間化しよう。

 たぶんできる筈っ!


 ポンッ。

 いやそんな可愛らしい音と一緒に人間化しなくてもいいじゃないですか。

 どうなってんすかマジで。


 多連水槍で槍を何本か作り出し、一本は手に持って複数本は足場にした。

 とりあえずこれでいいか……。


「あ~くそう。本当にどうなってんだ……。勝手に龍の姿になるなんてな。あのくそ野郎……最後まで足掻きやがって……」


 よし、ひとまず降りるとするか。

 ばれないように降りたいところだが、まぁ静かな場所に降りれば気付かれないだろ。

 なんか言われても空中散歩してたとか言っておけばいい。


 慎重に高度を下げていき、とりあえずサレッタナ王国の城壁に着地した。

 一息ついて技能を解除する。

 その後に後頭部に強い衝撃を受けた。


「あだああああああ!?」

「応錬キサマァ!! 何しでかしてくれとんじゃぼけぇ!!」

「鳳炎の口調がおかしい!?」

「おかしくもなるわ!! ほんっとに精神すり減らしてくれやがる!!」

「ごめんて!! わざとじゃないんだっから!!」

「一ヵ月も寝込んでよく言えたな!!」

「いっ!!? 一ヵ月ぅ!!? あ、お腹空いた」

「殺されたいようだな……」

「うわーーーー! ごめんごめん!! 悪かった!!」


 何とか手で制して武器を下してもらう。

 冗談通じねぇなおい!

 いや、激おこ状態で冗談を言う俺の方がどうかしていたか……。

 反省反省……。


 一通り叫んで満足したのか、鳳炎は槍の石突を思いっきり突き立ててため息を吐いた。


「ったく……。君の能力には驚かされるけど、その分活動できるようになるまで時間が掛かるようであるな」

「面目ない……。ていうか勝手に魔物化したのって俺だけか?」

「その通りである。他の者は既に……ああ、これはあいつと会わせてからまとめて話した方がいいか……」

「んえ? どういうことだ?」

「この一ヵ月、いろいろあった」


 帰路では何も問題はなかった。

 が、サレッタナ王国に帰って来てから様々なことが進展しはじめた。

 大きく変わったこともいくつかあるのだ。


「とにかく、着いて来い」

「お、おう……」


 鳳炎が城壁から飛び降りる。

 俺もそれに続いて飛び降り、多連水槍を使って静かに着地した。


 前を見てみると鳳炎は既に歩き始めていたので、すぐに追いかける。

 小走りで走った後、鳳炎の隣りで歩調を合わせる。

 ずいぶん速足だ。


「急ぎなのか?」

「急ぎも急ぎである。なにせ、もうこのサレッタナ王国には私と応錬しかいないのだからな」

「なに!? そ、そんなに状況が変わったのか!?」

「その通りである。簡単に話をまとめるつもりだから、できるだけ質問は避けるのだ。言われたことを理解しろ」

「お、おう……」


 ピリピリしておられる……。

 まぁ一ヵ月だもんな……。

 そりゃ怒られても文句は言えないわ。


 まだ俺にだけ伝えられていないことも多いらしく、今から連れて行ってくれる場所ですべてを話してくれるらしい。

 ほんと今の俺、足を引っ張ってしかいないな。

 マジで申し訳ない。

 これからは休みまくった分を取り返さないとな。


 鳳炎について行っていると、見覚えのある場所に出てくることができた。

 この辺はイルーザの店があるところだ。

 すぐに看板が見える。

 そして鳳炎は、そちらへと迷いのない足取りで向かっていた。


「イルーザに会うのか?」

「その通りである」

「あ、そういやあいつ嘘言いやがったな」

「その件は既に話終わっている」

「……そうだよねー……」


 う~ん、俺が今一番遅れている。

 ヤバイ、何としてでも今から鳳炎とイルーザが話してくれるであろう内容を完全に頭に叩き込まなければ支障が出るぞ。


 店の扉を開けた鳳炎は、中に入ってイルーザを呼ぶ。

 するとすぐにイルーザが出てきて、小さく頭を下げた。


「……お久しぶりですね、応錬さん」

「おう。で、何を話してくれるんだ?」

「イルーザ」

「はい」


 少しぶかぶかな帽子をイルーザは取り外した。

 そういえば彼女が帽子を取っているところは見たことがなかった。

 なぜここで帽子を外す必要があるのかは分からないが。


 だが、その理由はすぐに分かった。

 彼女が帽子を外すと、そこには普通の人間にはついていないものが付いていたのだ。

 それは、青く尖った……角である。


「お、おお、え!? お前悪魔だったの!!?」

「隠していて申し訳ありません……」

「でも前に殴った時は……」

「帽子が魔道具でして、感触もすべて隠すことができるのです」

「……応錬、イルーザを殴ったことがあるのか?」

「一度」

「ええ……」


 いや、あの時は仕方がなかった。

 体が勝手に動いたんです許してください。


 だがちょっと待て……。

 なんか分からんくなってきたぞ?


「鳳炎」

「今から説明する。はぁ……。君には一から説明した方がよさそうだな」


 鳳炎は今まで会ったことを思い出しながら、一ヵ月前の話をしてくれた。

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