7.5.起きない
嫌がる鳳炎を引っ張って、俺たちはサレッタナ城に訪れていた。
その理由は勿論零漸に会う為だ。
とりあえず俺のことを話しておかないといけないからな。
まぁ零漸がずっとここにいるのであれば、別に言う必要は無かったかもしれないが、仲間だからね。
やっぱり話しておかないと。
それに、もし突然帰ってきて俺のことを普通に呼ばれるとマジで困る。
それだけは避けておかなければならない。
鳳炎とアレナは、既にサレッタナ城の兵士たちには顔が割れている。
あれだけ城の中で騒いだからな。
やらかしたのは零漸だけだけど、その仲間である俺たちも覚えられていた。
だからだろうか。
兵士が鳳炎とアレナを見た瞬間、血相を変えて走って来た。
「れ、霊帝の皆さんですね!」
「今は二人しかいないが、そうである。どうした?」
「し、至急着いてきてください! クライス王子様から霊帝の誰か一人でも来たら、すぐに連れてくるように言われておりまして!」
「何……?」
「どゆこと?」
それは俺が聞きたい。
兵士の慌てようから、何かとんでもないことを零漸がやってしまったのではないだろうかという不安がよぎる。
兵士に急かされ、俺たちは中に通された。
魔物である俺だったが、どうやら鳳炎と一緒にいるという事もあり、特に警戒はされていない様だ。
……にしても魔物入れるとか大丈夫かよ。
まぁいいけどさ。
◆
走っていく兵士について行っていると、他の兵士に何度か止められた。
勿論その用件は俺。
やっぱり魔物を軽率に城の中に入れるのはおかしな話なので、これが普通だと思う。
だが、そこはなんとか鳳炎が説得してくれた。
俺を連れていくことにどうしてそこまで必死なのかは分からなかったが、俺も零漸の事は気になる。
なので、ここは大人しく従っておくことにしよう。
連れてこられた部屋は、とても豪華な飾りつけがされてある、まさしく王室と呼ばれるような場所だった。
扉を開けて中に入ると、あの時と打って変わってしょんぼりとしているサレッタナ王国の王子、クライスがベットの隣に座っている。
あの子供がこんなに大人しいとは珍しいと思ったが、ベッドで寝ている人物を見て俺たちは大きなため息をつくことになる。
「……零漸……何故君は王子のベッドで寝かされているんだ……」
全くだよ。
てかこんなことで俺たちは呼び出されたのか?
そんな簡単な話だったら…………。
でもなんか様子おかしいな。
俺たちが寝ている零漸の所に近づいてみると、体を丸くして寝ていた。
これだけ見れば普通に寝ているだけなので、特に気にするようなことは無いだろうと思うだろう。
だが……。
『鳳炎。こいつ息が浅くないか?』
「何?」
魔物の姿の為か、音が良く聞こえるのだ。
そして零漸の息は、とても浅い。
普通に寝ているだけであれば、こんなに浅い息にはならないだろう。
俺たちの声に気が付いたクライスが、ばっと立ち上がって鳳炎の服を掴む。
「霊帝たちよ! 余の大親友の零漸を助けてくれ!!」
「お、王子。まずは状況を説明してくれませんか? 私たちはここに来たばかりで、何の説明も受けていないのです」
「そ、そうであったか……。わ、わかった。手短に話す……ぬわああ! な、なぜ魔物がいるのだ!」
あ、サッセン。
「大丈夫です。こいつは従魔ですので」
「そ、そうなのか……? んー、魔物など近くで初めて見たぞ」
おい、話逸れてるから戻そうな?
鳳炎おい。
「すみません、零漸の容態を……」
「あ、ああ……。そうであった」
それから、クライスはまた落ち込みながら、ポツポツと零漸の事を話してくれた。
「……起きないのだ」
「起きない?」
「もう、かれこれ三日は寝ておるのだ! 生きているという事は分かるが、一向に目を覚ます様子がないのだ!」
鳳炎はそれを聞いて、顎に手を当てて考え始める。
アレナはとりあえず本当に起きないのかどうかを確かめる為に、零漸を揺すったりしている様だ。
三日前……か。
俺たちがまだ前鬼の里に居た時に、零漸は眠り続けてしまったのだろう。
しかし何故だ?
三日前、何かトリガーになる様な事が零漸のみに起こったのだろうか?
そう言えば、俺も魔物のまま人間の姿になれないという事件が発生している。
零漸も何かしらそう言うペナルティを受けているのかもしれない。
だが何故?
「……まさかとは思うが」
鳳炎は何か思い当たる節があったようだ。
すぐに零漸の所に近づいて、体をペタペタと触り始める。
脈を測り、体を動かそうとしてみる。
「やはり……」
「な、何かわかったのか!?」
「憶測で申し訳ないのですが、おそらくこれは当たっています」
鳳炎はクライスを見ながら、答えを呟いた。
「零漸は、冬眠しています」
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